その目に映るものだけが答えではない

コリー

第1話 終わりの始まり

また聞こえた、いや聴こえた。

その声を。

誰かがこの世界を創造し、想像とかけ離れて生まれた失敗作。

だからこそそこに生きる人々はいつの日も苦悩し不満足に過ごす。

失敗作から生まれた失敗作だからこそ、満たすべき欲求を達成しに行く。

ただ、もう疲れた。

諦めてもいいじゃないか。

やるだけのことはしたんだ。

疲弊しきった身体はまるで宇宙空間にいるかのように軽かった。

限界はない、が故に、持て余し、飽きを感じている。

初めは、どうだったっけか?

そうだな、一回くらいならいいよな、初心に帰ってみるくらいさ。



真人「きた、きたぞきたぞ…」

目の前にはいくつかの装置とボタンがあった。

真人「1万分の1…はい、はいはい…」

画面が豪華なイラストに切り替わる。

真人「はい!き!た!こ!れ!勝ち確じゃあ!!!」

ぱちぱちぱち、ぱち、ぱち…ぱちぱち

パチパチパチパチパチパチパチパチ

真人「(白目)」

壊れたのだ。チャンスを目の前にして。



真人「ないわ、あれはない」

真人「だってボーナス来て、え?10倍には出来たはずだよ?」

真人「まさか…そんな」

歩を進めるごとに後悔と憤怒が蓄積する。


スロットで30万円負けたのである。


真人「今月の金、全部消えたんだが何していければいいんだ、てか生きられるのか俺」

真人「夢だ、うん夢だな。これは。じゃなきゃおかしいし、うん帰ろう。」

ピンポーン、代金が不足しております。

手元の電子マネーを掲げたところには21円と表示されていた。

真人「ほんまクソ」

こうして歩いて帰ることとなった。


家までは遠くはない、と思う。

着くのに1時間弱だろう。

だが普段から運動するのを嫌い、電車のみの交通手段しか使わない彼にとっては大打撃だった。

真人「うーん、目と目があった人と勝負してお金をもらっていくか、その辺の小学生なら200円くらいはくれるだろう、モンボ1個くらいは」


モンボとは、野生動物の捕獲に用いられる物質電脳化球(縮小可)のことである。

ただし、捕まるとは言っていない。


真人「ちょっとあの女の子からせびってみるか」

そこには白髪のポニーテールの女性が立っていた。10代、自分よりは若いだろう。

単純にお金が欲しいだけ、だから勝負をして賞金を頂こうという考えに至り、いま完全(に失敗に終わる)犯罪が始まろうとしていた。


真人「へいガール、僕とぉ、あ、勝負しぃまぁせぇんんん?」


白髪の少女「次変なこと言ったらころすぞ」

真人「すいませんした」

気がついたら土下座をしていた。

顔は大量のアザと血で醜いものとなっていた。

ゆらゆらと人気のないしゃがみこむ。

真人「くそ…なんて女だ…いてて」

だがそんなことでもなんとも思わない、傷は治るのだから。

なんの光もなく、そこに触れたものを治す。顔はみるみる元通りになっていた。


真人「あんまり使いたくはなかったんだが」

真人「流石にただでさえブサイクの顔をブザイクのままにしたくないし」

真人「不可抗力不可抗力、と」

誰に言い訳してるわけでもなく、独り言をする。

真人「これ以上顔を綺麗にできないのが難点だな…くそ、理想の顔に変形出来る力だったらモテモテなヒモ生活が待っていたというのに」

さてと、と起き上がり下を向いていたせいか黒の革ジャン男にぶつかってしまう。

革ジャン「おぉん?!いってぇな?!」

手下「アニキぅ、どないなこってぃ?!」

革ジャン「こいつがぶつかってきよって、肩外れたんじゃ」

手下「ああんクソ野郎めだなぁ、ニィチャァン」


真人「やべえやつだ、作者もこいつらも」

革ジャン「逃がさねぞこらああ?」

手下「どう落とし前つけるきだこら」

真人「(コラしか言えんのか…)」

革ジャンは真人の肩を掴み逃がさないようにしていた。これはまずいと、真人は相手の肩を突き飛ばし、同時に掴まれていた手が離れた。

真人「よし」

一目散に走って逃げる、が真人は遅かった!

すぐさま革ジャンに捕まってしまった。

革ジャン「おいてめえ、何した?」

真人「ナンノコトカ」

革ジャン「とぼけるな、超能力者が」

真人「?!!!」

手下「え、こいつ能力者なんすか?」

革ジャンはこれを見ろと革ジャンを脱いだ、もはや革ジャンという名前ではなくなってしまった。

元革ジャン「肩に傷があって、服を着るのも痛かったが、お前が触った途端痛みが引いた。それはお前が能力者である証拠だ」

真人「気功術はちょ、ちょちょ超能力ちゃうで」

革ジャンじゃないやつは革ジャンを着なおして革ジャンとなった。

革ジャン「何バカな事言ってやがる、雑魚、こいつ連行すっぞ」

手下「いま雑魚って言いませんでした?言ったよね?いや慣れっこだからいいっすけど」

じりじりと2人が迫ってくる、能力者というカテゴリはすぐに絡まれる。

ちなみに気功術は他国でよく使われた医療術で身体の内外を操る術だ。超能力というより高能力を想像してくれ。


彼は直線で誰にもぶつかりそうにない道を探して走った。

この技も使いたくはなかった。

見えた、100m先、人の気配なし(多分)。

右脚で、3回、3回目で身体の重心を前方へと傾ける。

真人「おんどりゃぁぁあ!!!」

約3秒間、加速度というものではなく、速度を追加したような感覚。

100mを一気に駆け抜ける。その時間が過ぎると慣性もなくスピードが0になる。

これが気持ち悪い、反動が辛い。

だが、四の五の言ってる場合ではなかった。

でなければあっという間に捕まる。

後ろには俺を追う2人組が見える、がここまで差をつければ逃げ切れる。

と思ったが脚が遅かった!!

結局四の五の言わず四度五度能力を使う羽目となった。


真人「逃げ切った、あと、もう少しでいry」

吐いた、高速度で走り急ブレーキを繰り返したのだから。

真人「へへ、我ながらいいもん出したぜ…」

真人「もう家は近いが周りで彷徨いてるかもしれないなぁ…隣町までゲーセン行くか」

財布には小銭すらなかった。

真人「そうじゃん、電子マネーあんじゃん!」

自販機に当ててみると21円と表示された

真人「歩くのか、あそこを…」

家までは目と鼻の先だが、安全を期して帰宅するために、彼がとった行動とは。

真人「歩いてー行こうー歩いて行こうー」

徒歩。

圧倒的徒歩。

途方…。

大橋に向かう細い路地を歩く。

真人「トホホ…」

???「バカだなぁ」

真人「え?」



小さい立橋を過ぎる辺り、声かけられた。

振り向いた瞬間、顔を見ることもできず

壁に、まさに俺と同じような力で打ち付けられた。

真人「グハァッ!ガッ…」

目の前には微かに角刈りの巨漢がいた。

相手には見えない角度で打ち身した部分を治す。

巨漢「げぶげぶげぶ、能力者狩り、楽しいなぁ」

巨漢は一目で能力者とわかったのか、それとも一部始終を見ていたのか。

なんにせよ。


逃げてはいけない戦いになるようだ。

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