第3話 乱(ラン)

「さあ、ようやく、三位のジパングチームがスルガの樹海に入っていきます。一位のメリケン合衆国チーム、二位のラスィーヤ連邦チームは大分前に到着して、樹海の奥深くへと入っていきました。ですが、まだそんなに差はついてないようです。やはり、敵国の地元ですからね、どんな罠が仕掛けられているか分かりません。地雷や落とし穴、もしかしたらトラバサミなんてものもあるかもしれません。慎重に行動しています。しかし、もう大分暗くなっていてよく見えませんね。自然の明かりは月と星だけですからね。仕方ありません。でも大丈夫です。普通のカメラでは暗すぎて何も映せませんがコレがあれば安心です。メイドインジパングの超高性能夜間用カメラ、その名もクラクテモヨクミエナイトカメラです。これにかかればどんなに暗くても昼間のように明るく映すことができます。しかし、変な名前ですね。ジパングのセンスはよく分かりません。あーっと、銃声が聞こえましたね。ついに最後の戦いが始まったようです。どのチームが一番最初にフジヤマの頂上のゴールテープを切り、優勝の鐘を響かせるのか、栄光のゴールは間もなくです。注目していきましょう」


「さあ、大分戦闘が激しくなってきました。あちこちで銃声が鳴り響いています。各チーム数個の小隊に分けて移動しながら戦っていますが、すでに壊滅した小隊も何個かありますね。それだけ、樹海でのサバイバルレースがいかに厳しいのかを物語っています。しかし、メリケンチームは強いですね。まだ四個小隊以上残ってます。つづいてジパングチーム。少しずつ数は減っていっていますが、まだ三個小隊以上います。ここは自分達の庭なので絶対に不甲斐ないところは見せられません。どこまでメリケンチームに食らいつけるか? 一方ラスィーヤチームは厳しくなってきました。残り二個小隊まで数が減らされました。やはり、メリケンと開催国ジパングとの乱戦は分が悪いようです。祖国で応援している国民のためにも、最後まで諦めないでほしいですね」


「さあ、とうとうフジヤマの中腹まできました。三チーム入り乱れての大乱戦です。銃弾の雨が次々にPBSを赤く染めていきます。先頭はメリケンチームです。残った人数を二手に分けて、少しずつですが、ゆっくり確実にゴールへと進んでいきます。つづいてはジパングチームです。ジパングチームはメリケンチームとは対照的に、散らばっていた小隊を一つにまとめました。機動力は無くなりましたが、その分攻撃力と防御力が上がりました。一点突破でゴールを目指します。さあ、残ったラスィーヤチームはもう十数人程度しかいません。少人数対大人数、物量で押されては為す術もありません。やはり、序盤で差をつけられたのが今になって響いているのか? せめて、雪原。雪の降る中の戦闘でしたら、状況はひっくり返っていたかもしれません。しかし、今は夏。薄着や水着のレディに目を引かれ心も惹かれる真夏です。今更言うことでもないですが、開催国は季節も日時もコースも決められます。かなり開催国有利に大会が進んでいきます。雪に愛されてるラスィーヤチームにとっては最初から厳しい戦いだったと思います。でもよくここまで頑張りました。あーっと、ラスィーヤチーム残り数人になってしまいました。今、最後の特攻をかけています。ああ、最後の一人が赤くなりました。ここで脱落です。極寒の地の夢は極東の夏の暑さに溶かされてしまいました。ラスィーヤ連邦チームここでリタイアです。さあ、勝負は大詰めの大詰め、残り二チームとなりました。絶対王者か? 開催国か? メリケンか? ジパングか? 最後の終盤戦に入ります」


「さあ、フジヤマの頂上が見えてきました。空はもう夜から朝へと変化している最中です。先程からお互い膠着状態で動きません。頂上を背にしてジパングの選手を見下ろすメリケンチームは残り二十人。対して、頂上とメリケンの選手を見上げるジパングチームは残り十五人です。お互い前衛は盾で守り、後衛はスナイパーライフルで隙をうかがっています。さあ、じりじりとした緊張感がカメラごしにも伝わってきています。ゴールまでは残り数十メートルです。走ればものの数分でゴールテープを切れそうですが中々そうはさせてくれません。メリケンチームの選手が何度か挑戦をしましたが、ことごとくジパングチームの選手によって、スナイパーライフルの餌食になっています。あーっと、遂に動きだしました。先に動いたのはジパングチームです。徐々にメリケンチームに近づいていきます。これを見て、メリケンチーム。ライフルを一斉発射。次々に銃弾がジパングチームに襲い掛かります。しかし、ジパングチームの盾がここで最高の仕事をしています。次々に弾かれる銃弾。まるで盾が金属のメロディーを奏でているかのようです。勝利の行進曲となるか? はたまた、敗北の鎮魂歌となるか? さあ、もう目と鼻の先というところまできました。あーっと、メリケンチーム勝負にでました。三人の選手を走らせます。そうはさせじとジパングチームのスナイパーライフルが光ります。三人の選手は前を走る選手の背中を守るように、一列なって進んでいきます。あーっと、ここで二人の背中守っていた選手が撃たれました。さあ、残り二人でゴールを目指します。ここでただ黙ってやられるわけにはいかないと、メリケンチーム、援護のつもりでしょうか? 一斉にジパングチームに突っ込みます。さあ、盾と盾、人と人、まるでラグビーのスクラムのように押し込み合います。これは、選手だけがぶつかっているのではありません。国の意地と意地、プライドとプライドがぶつかりあっているのです。あーっと、またしても一人撃たれました。残り一人になったメリケンの選手、さすがに地面に身を伏せます。さあ、ゴールまではあと少しというところでおあずけ状態。なんとか仲間の援護を待ちたいところです」


「さあ、死闘です。まさに死闘と呼べる戦いだと思います。お互いスナイパーは残り一人まで減らされました。ゴール間近で身を伏せてるメリケンチームの選手は、相手チームの最後のスナイパーがやられるまでじっと息をひそめて、機会がくるのを今か今かとうかがっています。対してジパングチームも、メリケンチームの残りのスナイパーをリタイアさせればこちらの選手も、ゴールまで走らせることができます。人数はメリケンチームの方が勝っていますが、すぐに状況はひっくり返ります。まるで終盤のオセロゲームのような展開です。まだ勝負はたゆたっています。優柔不断の勝利の女神はいったいどちらに微笑むのでしょうか? あーっと、遂にメリケンチームの最後のスナイパーがリタイアになりました。ここでジパングチームの選手が一人、メリケンチームの、人の壁を無理やりこじ開けてゴールへと走り出しました。さすがの王者にも一瞬の隙ができてしまったか? しかし、メリケンチーム。王者の意地があります。これ以上は行かせない。むしろ、残りのジパングチームの選手を全て片付けてしまおうかという勢いで、ジパングチームを押し込んでいます。物凄い圧力です。さあ、ゴールへと走るジパングの選手が、前方で身を伏せているメリケンの選手にぐんぐん迫っています。前にいるメリケンの選手にも、それを背中で感じていると思いますが、まったく動く気配を見せません。物凄い忍耐力です。普通の精神の持ち主ならば、この状況だと、焦ってすぐにゴールへと走り出しそうですが、そこは、四年間厳しく鍛え上げられたメリケン合衆国の選手。常人とはわけが違います。ここでやられれば全てが水の泡。仲間を信じて、その時がくるのをじっと待ち続けます」


「さあ、ジパングの選手、メリケンの選手の背中まで残り数メートルといったところ。あーっと、メリケンやりました。ジパングチームの最後のスナイパーをリタイアさせました。じっと耐えていたメリケンの選手、これでようやく走り出せます。早速リスタートしました。しかし、加速の差のせいか? ジパングの選手との差が徐々に縮まります。あーっと、今捕まりました。海路からトップを維持していたメリケンチームがジパングチームに並ばれた瞬間です。ジパングの選手がメリケンの選手の肩を掴みます。それを振りほどくメリケンの選手、振り向いてジパングの選手と相対します。視線と視線がぶつかります。あーっと、目にもとまらぬ速さでお互い小銃を取り出して発砲しました。しかし、お互いの手が相手の小銃を持つ手首を掴まえ、これを躱しました。さすがここまで来た精鋭同士、一瞬では決まりません。お互い相手の手首に力を込めます。お互い小銃を落しました。あーっと、壮絶な殴り合いが始まりました。お互い相手の胸ぐらを掴み顔面に拳を叩きこんでいます。非常に痛々しいです。まあ、PBSのおかげで痛みはないのですが、見てるこっちの方が痛みを感じてしまいます。さあ、ゴール手前で激しい殴り合い。素手での高度な応酬が続いています。どちらも負けられない、譲れない。非常に心を熱くさせてくれます」


「さあ、両選手、先程から殴り合っていますが、PBSは大丈夫なんでしょうか? 衝撃はかなり蓄積しているものと思われます。私の予想では、そろそろどちらかのPBSが赤く染まってもいいと思うのですが、二人の気迫に呼応してか、まだ赤くなっていません。。あーっと、下での戦いが、今終わりました。メリケンチーム、残り二人まで減らされましたが、ジパングチームを全員リタイアにしました。さあ、残りの人数は三対一となりました。ジパングチーム、残り一人で頑張れるのか?」 


「今、下にいるメリケンの選手達がゴールに向かって走り出しました。数分で上の二人に追いつきそうです。ジパングの選手、かなりまずい状況になりました。もう時間がありません。一体どうする? あーっと、ジパングの選手、左右にフェイントをかけてメリケンの選手の横を抜けようとしています。追い込まれる前に勝負にでた模様です。しかし、その動きを読んでいたのかメリケンの選手、相手の腰に両腕をまわしてタックルを仕掛けます。決まりました。二人の体は絡み合ったままゴロゴロと数メートル下に転がり落ちていきます。さあ、お互いPBSのおかげで痛みはありませんが、体力と疲労は限界にきていると思います。どちらが先に立ち上がりゴールのある頂上へと駆け上がるのか?」


「あーっと、先に立ち上がったのはメリケンの選手です。肩で息をしながら、ふらふらと頂上に登っていきます。対してジパングの選手、ぜいぜいと大きな息を吐いて仰向けで空を見上げています。もう限界なのでしょうか? 空はもう大分明るくなりました。太陽がいつその姿をみせてもいいような時間帯です。ですが、まだ見えません。まるで太陽がゴールの瞬間を待っているかのようです」


「さあ、メリケンの選手、ゴールまでもう間もなくといったところ。前にはもう邪魔するものは何もありません。後ろを見ますと、ジパングの選手はまだ仰向けのままです。もうこのまま決まってしまうのか? さあ、下からもメリケンの選手達が迫ってきています。開催国ジパング絶対絶命です」


「あーっと、今、今ようやく立ち上がりました。歯を食いしばりながら一歩ずつ歩き出しました。しかし、状況は最悪なままです。前をいくメリケンの選手との差は大分つきました。それに、後ろからくる脅威もさらに近づいています。しかし、それでもまだ諦めてはいません。選手の目には闘志が宿っています。さあ、歩きながらも息を整えて少しでも走れるように準備をしています。再び走りだせるのでしょうか?」


「さあ、もう間もなく決着がつきそうです。長かった大会も終わりが見えてきました。先頭のメリケンの選手、ゴールまであと五メートルです。二位のジパングの選手、再び走り出したのですが、まだまだ遠いです。さあ、残り四メートル、下のメリケンチームの選手達ジパングの選手に手が届きそうです。さあ、残り三メートル、今ジパングの選手が捕まりました。残り二メートル、あーっと、先頭のメリケンの選手、派手に一回転。大丈夫でしょうか? そうとう疲れていますからね、足がもつれて転んでしまいました。ですが、すぐに立ち上がりました。大丈夫のようです。残り一メートル、ジパングの選手は二人の選手に頭と背中を抑えられて地面に突っ伏しています。ゼロ。今ゴール。やりました。メリケンの選手、今ゴールテープを切りました。優勝、優勝です。メリケン合衆国チーム三連覇の偉業を達成しました。ゴールした選手、ガッツポーズをして大の字になりました。力を全て出し切り、やりきった顔をしています。下のメリケンチームの二人もジパングの選手の横で嬉しそうに抱き合っています。身体が自由になったジパングの選手は悔しそうに上を見上げています。しかし、よくここまで頑張りました。お疲れさまと伝えたいですが、んっ、ジパングの選手、何かに気が付いたようにゴールに向かって走り出しました。この大会は優勝以外は順位は全て一緒なのですが、とりあえず完走を果たしたいという事なのでしょうか? 不可解ですが……あーっ、ちょっと、ちょっと待って下さい。何か足りません。優勝したらアレがあるのですが、アレです。ゴールした時に鳴る、終了をしらせる優勝の鐘です。今まで通りなら鳴らされるはずなのですが、今大会はまだ鳴っていません。何かトラブルでもあったんでしょうか? あーっ、皆さん、あれを、あれを見てください。優勝した選手のPBSです。いつの間にか赤く染まっています。一体いつ付いたんでしょうか? 私はいつ変わったのか全く分からないのですが、今リプレイ映像がきました。一緒に確認しましょう。残り五メートル。まだ赤くないようですが、四メートル。まだですね、このままゴールしたと思うのですが、三メートル。二メートル。あーっ、皆さん、ここです。ここ。残り二メートルの地点で一回転してますね。そして立ち上がり一メートルの地点。ここもです。ここのPBSをよく見てください。赤く染まっています。ですから残り二メートルの地点で一回転したことによって今までの衝撃の蓄積が限界を超えたということになります。要するに今ゴール地点にいる選手はリタイア扱いということです。ということは、まだレースは終わっていません。あーっと、ジパングの選手、限界を超えた体に鞭打つように走っています。もうゴール間近というところまできています。あーっと、抱き合っていたメリケンチームの二選手、ようやく事の重大さに気付いたのか、すぐにジパングの選手を追いかけます。さあ、逃げ切れるか? 追いつけるか? 世界の行く末が決まる大事な追いかけっこが始まりました」


「さあ、メリケンの選手走ります。鬼の形相で走ります。逃げるジパングの選手、やはり思ったように走れません。しかし、ゴールはもう目の前、後は気力です。選手の肩にはジパングのいや、世界中の思いが乗っかっています。さあ、後、五メートル。四メートル。メリケンの選手追いついてきました。やはり簡単には勝たせてくれません。三メートル。さあもう手が届くか? 二メートル。メリケンの選手の手がジパングの選手の肩をかすめます。一メートル。今、肩を掴みました。さあ、逆転なるか? ゼロ、今ゴール」


「勝ったのはジパングチームの選手です。最後に肩を掴まれましたが、振り切りました。世界中の思いが選手の肩に力を与えたのでしょうか? とにかく、優勝、優勝です。開催国ジパング、二十度目の正直でみごと初優勝を果たしました。祝福の鐘が鳴っています。今、フジヤマに、ジパングに、いやこの映像を見ている世界中にこの鐘の音が響いていることでしょう。あーっと、この鐘の音を待っていたかのように太陽が現れました。とても美しいです。これがジパングに伝わるゴライコウなのでしょうか? 非常に美しい、なにか心が洗われるようです。日出ずる国ジパングがこのゴライコウのように世界を導ける光となれるか? それはまだ、分かりませんが、とにかく今はおめでとうと言いたいです。おめでとう、おめでとうございます」


「さあ、長い時間おつきあい下さいましたが、そろそろお別れの時間がきてしまいました。第二十回大会は開催国ジパングの初優勝という形で終えることになりましたが、全チームよくやったと思います。優勝したチームはジパングですが、敗れたチームもよく頑張りました。世界中で称賛されていることでしょう。しかし、大会が終わったということは、次の大会の準備が始まるということです。ひとまず疲れた体を癒し、次の大会に備えてもらいたいです。さて、優勝したジパングには特権として、世界のルールを決める事ができますが、一体どういったものになるのでしょうか? ジパングには今よりもより良い世界にしてもらいたいです。では、最後になりますが、ここまでの実況はMr.スミスがお送りしました。また次回の第二十一回『トライアスロン軍事サミット』でお会いできたら思います。それでは皆さん、長い時間本当にお疲れさまでした。さようなら」


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トライアスロン軍事サミット ジャック孟玩 @jack1223

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