ようこそ我が家へ
ヴィラとヤンは、しょうもない話を重ねて、
少しずつお互いのことを知っていった。その時間が長くなればなるほど、だんだんヴィラの目的地に近づいていて、いよいよたどり着いた。
「お疲れ様。ここ。」
ヴィラがそういう場所は、雑居ビルの入り口だった。
「え?ここ?」
「そう。文句ある?」
「え?えぇ・・・な、ないよ!」
「うわずってる。みんなそう言う」
ヴィラは慣れっこと言わんばかりにヤンのリアクションをかわして、
雑居ビルのオートロックに番号を打ち込んで開ける
「結構アナログなセキュリティなんだね」
「まあね。といっても、200年ほど前じゃ考えられないテクノロジーなんだけど」
ドアが解錠され、階段をいくつか降りて、薄暗い通路をまがってまっすぐいって・・・とにかく歩いた。
ヴィラは歩きなれてるから来れるかもしれないが、もしヤンが今から同じ道を辿れと言われてもできないようなややこしい建物だった。
通路のドンツキに、分厚い鋼の扉があった。
ヴィラは何のためらいもなく普通に扉を開けた。
びっくりするほどなんのためらいもなく。
扉の先には、かなり開けた空間があって、
今まで通ってきたややこしい道から想像できない開け具合だった。
そして、そこには考えられないほどたくさんの人が作業を行っていた。
機械を弄る人、パソコンのモニターを見てる人。何かよくわからないものを売ってる人・・・とにかく、色んな人が生活していた。地上に負けないくらい賑わっていた。
「びっくりした?」
ヴィラはヤンに優しくそういった。
「え、そ、そりゃびっくりするよ!」とヤン。
ヴィラはまたフフフと笑って、そしてすごい光に包まれた
「うわっ!」
ヤンは急な強い光にびっくりして、目をそらした。
「ん。」
その強い光は一瞬で、すぐにおさまった。
光源はヴィラだった。
「ヴィラ!?さっきまでの強化装甲はどこにいったんだい?」
ヴィラはさっきまでのゴツゴツの無骨なロボットの外装を脱ぎ捨てて、気がつけば、すごく体のラインが出る、体に塗料を塗っているかのような服というか、下着というか、あまりまじまじ見てはいけない格好をしていた。
ヴィラはそれに恥ずかしがることはなかったが、見ているヤンが赤面した。ヤンはウブなのである。
「あ、あれね。そこにあるでしょ」
ヴィラはヤンの赤面なんて気にせず指を指した。その方向にはたしかに、さっきまでヴィラが着ていたロボットみたいな強化装甲が奥の方に、ガラスかアクリルかわからないが、透明な板に遮られた先の部屋に見えた。
「空間転移って知ってるでしょ?」
「ワープのこと?でも完成したのは理論だけで、実験には失敗したって論文で読んだけど。」ヤンは多少知識があった。色々なことに興味があって、学生時代に専攻分野以外の論文も読み漁っていた。といっても、ワープの話はかなり有名な話で、ちょっと勉学に興味のある人間なら皆知っていることである。
「それがね、実は成功していたのよ。その証拠がこのルーチェシステムよ」
「ルーチェシステム?」
「このロボットみたいな強化装甲は、単純なパワード・スーツじゃないのよ。つくった人もわからないくらいポテンシャルのある、謎の強化装甲・・・。」
ヤンは意味がわからなかった。
まず、ありえないとされていた空間転送を簡単にやってのけることをいざ目の前で見ても、それこそ手品かなにかとしか思えないのだ。
しかし、眼前に起こっているそれは、事実なのだ。
受け入れざるを得ない。
「そ、つまり、それを解析してほしくて、君を助けたわけ。」
聞き覚えのない男の声が聞こえて、それと同時に肩を叩かれた。
「だ、誰ですか?」
唐突なコミュニケーションは、ヤンの苦手とするところだ。
そして、ボディタッチも慣れていない。
ただ、嫌というわけではなかった。不快感もなかった。
「あぁ。名乗り遅れたな。俺の名は、そうだな。セッテと呼んでくれ」
なぜ自分の名前を名乗るのに、間が生まれたのかという引っ掛かりはあった。
「ヴィラ、この子が俺たちの新しい仲間か?」
「そうよ。物分りのいい子よ。」
「そうだな!知らない女のケツ追って、ここまで着ちゃうくらいだもんな」
「悪い言い方しないで」
「お前は優しいなヴィラ」
「そんなことない」
ヴィラはそう言うと、ムッとしたのかさっき指を指した
強化装甲がおいてある部屋に向かった。
「君の名前は?」「ヤンです。」
セッテは、まさに色男という具合だった。
甘いフェイスに、優しい声。明るい金髪に泣きぼくろに流し目。
そして人懐こい性格は、人たらしをそのまま形にしたような人間だった。
そんなセッテの前では、ヤンもきょどらず受け答えできてしまう。
「ヤンか。お互いよろしくな?」
「よろしくな!って・・・俺はこれから何をすれば?」
「ああ、そうだな。じゃあヴィラが向かった所に行ってくれ。多分そこで話を聞けるだろう。」
「セッテさんはついてきてくれないんですか?」
ヤンはいつの間にか、色男の手中に落ちていた。
といっても、セッテは別にそれを邪険にすることはない。
「俺は他にも仕事があるからな。まあまた会えるさ。」
セッテはくる・・と反転して、去っていく最中に、軽くヤンに向けて手をふった。こちらを向くことはなかったが。
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