考えすぎないで


「あ、そういえば私、自己紹介してなかったわね」

唐突にロボットは口を開いた。

いや、強化装甲になっている外面に開口可能な口腔パーツはないため

ただの慣用的な表現なのだが。


と思ったら、

頭部パーツが、消えた。


まず目に入ったのが明るい茶髪。そして、美しい透き通った白い肌

次に大きな瞳。少しの濁りもなく、ぱっちり開いていて、力強い瞳。


「美人だ・・・」

ボソとつぶやいたヤンの言葉に、ロボットの中の少女は聞こえないふりをした。

「私ヴィラ。あなたは?」

「あ・・・」


ヤンはこんな美人と話すのが久しぶりで、ポカーンと口をあけっぱにしたまま、しゃべることを忘れてしまった。私のなまえはヤンです。とすら言えないのか、と自己嫌悪に陥りそうになった。


「あ、じゃわかんないよ。教えてよ」

ヴィラは優しくこちらの目をチラと合わせて、そしてまた目線を外した。

きっと、じっと目を見られたら緊張するってことを察したのだろう。


「んん・・」

軽く咳払いをして

「あ、俺は・・・ヤン」

なんとか言えた。彼女が気を使ってくれたのを、察せたからだ。

「へぇ、ヤンね。シュウの出身?」

シュウとは、日本から海を超えた大陸の国のこと。

皇帝一族の名前からとられた国名らしい。

「いや、ローカルだよ。」

ローカルとは、移民ではないということ。

しかし、ヤンは自己のルーツをよくわかっていないので

もしかすると移民何世かもしれない。というのは普段ヤンは悶々と考えている。


「あらそう」

ヴィラはそういうとまた前に歩きだした。

シュンと一瞬にして、また頭部パーツが出現した。


ヤンは頭部パーツが急に出てきたことよりも、もっとヴィラの顔を見たかったなと少しやらしい気持ちを抱いた。それくらいヴィラは美人だった。



「でも、なんで君みたいな子が、俺を助けてくれたの?」

ここでヤンは、純粋な疑問をぶつけることにした。

ヴィラは足を止めて「え、困っていたからよ。困ってなかった?」

と言う。表情こそ見えないが、きっとキョトンとしてると予想される声でそういう。


ヤンはあっけない返答にびっくりして「え!?」と変な声が出た。

「なんで聞いたあなたが困惑してるのよ」

とヴィラはふふふと笑ってみせた。

ヤンは自分の意味不明っぷりに赤面してしまった。




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