第4話馬鹿なあなたにも安らかな眠りを

「眠りたくない」

「ムリ」


 眠りたくない、ともう一度。うつらに揺れる首。握り締めた両手。一瞬気を抜けばその意識は落っこちるだろう。


「だせえな野田」

「うるせえ」


「無駄」

「るせえよ」


「寝ちまえ」

「寝ねえっつってんだろうがうるせえな!」

 振り払うように弧をまいた手が頬に当たる。あ、と小さくうめいて野田がこちらを見た。

「っつ…」

 荒れまくった唇から赤が一筋垂れて、舐めると鉄の味が広がる。


 罪悪感みたいな目が、こちらを見て、だから踏み込んだ。


「いてえんだよこのバカっ!」

 寝てない野田など敵ではない。仰向けにコンクリにどうと倒れこむ体。踵の潰れたぺらい上靴で蹴りつける。

 何度も踏んで蹴る。そのままこのバカは眠っちまえばいいのだ。


「頭悪すぎなんだようちらはなあっ」


 どんな悲しくたって寝るんだ。



 黒い学生服は動かない。騒ぎを聞きつけた大人に捕まって唯一自由な口でまだわめく。



 寝ないことが断罪になんてなるもんか。

 ココロザシ立派でも手段知らねえならただのバカだ。



 引きずられてく中、空は青い。



 一日野田は眠り続けて、二人いっぺん呼び出しを食らった。

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