第3話じこしょうじょとこばか

「生きてるほうがつらいとは思うよ」

 なにそれ全然フォローじゃないじゃん。少女が笑う。うん、そう、あのね、確かにそうなんだけどもさ、あのさ。


「死んでない方がいいよ」

「どうして?」

 本当の問いではないことは明確だった。だって笑ってる。試されている。


「なんにもないから」

 伝わったか、ちゃんと届いたのか分からないけれど、目線が一瞬逸れて、一応の間があったことにほっとする。


「だから多分死んでない方がいいよ」

「そうかなあ」

「そうだよー」

 誰かの空き缶がからからとやってきて、少女の黒い靴に小突かれ、またどこへともなくからからと去っていった。風は強くなる。前髪が揺れて意志の強そうな横顔が見えた。違う髪形にしたらいいのに、と人事だけれどそう思った。奇抜じゃなくてもいいけれど、クローンみたいで見分けが付かない。


「死なないよ」

 ふいに少女が言った。中身は前向きなのにどこか諦めの声だった。

「勝手なこと言うヤツばっかで、あたしだけいけないよ」

 笑う。どこかで見た顔だと思う。思い出せないくらい昔で、忘れられないくらいに近いだれか。


「だから冬さんはあんまり思いつめないでおきなよ」

 あたしよか冬さんのが心配だって。また笑った。僕も返すように小さく笑う。



「借りたの、来週月曜また来るから。今くらいに待っててよ」

 軽やかに制服を揺らし、少女は手を振ってきえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る