3-2.Ⅵ:冒…絡まれたらどうするか?【VS盗賊落ち3人組】
「オウオウ、そこの変わった服を着た黒髪のガキっ!」
「オメェさんの持ってる、そのどんなものでも入れられる不思議な鞄を!」
「痛い目に合わないうちに、ボクチン達に渡しなっ!」
一先ず必要な食材などを買いミュリア達が待つ宿に戻ろうと歩いていたら、目の前に武器を持った男3人が立ち塞がり恐喝してきた。
目的は肩に背負っている”収納”の効果が付加された鞄のようだ。
「……なんだ?俺に言ってるのか?」
折角の気分を不躾な男たちによって台無しにされ、微妙に表情を歪ませつつアルトは答えつつ相手を見る。
三人の中で一番長身で、左目に眼帯をした堅体の良さそうな男。
男のその手にはあきらかに安物だと解る長身の男には不釣り合いの長さの剣を持っており、その剣を此方に向けている。
そして如何にも優男と見えるまだ10代半ばくらいのくすんだ金髪の男。こいつも長身の男同様の剣を持っている。
そして3人の中で一番小柄で見た目の身長は子供くらいの髭男。コイツは短剣を握っている。
所持している武器は質の悪いものを持っているが、身なりはそこそこの服を纏っている。
鎧の類などを着ておらずラフな衣服。
此方を恐喝してくる手口が慣れているように見え、相手が盗賊か何かの類かと思った。
もしくは性質の悪い冒険者か何かであろうか。
昔からこの手の無法者は後を絶たない。
1000年経っても馬鹿はいる者なのだと呆れる。
(さて、どうしようか…この馬鹿ども…)
どうしようかと考える。
せっかく良かった気分を不躾な馬鹿三人組によって損ねられ不機嫌となりつつある。
昔――1000年前(本人の感覚は2年)であれば自分に敵対した者は問答無用でどのような理由があれど始末した。
(…とりあえずこの馬鹿どものステータスでも見ておくか。”碑眼”の機能チェックにもなるし、経験値の蓄積にもなるだろう。まあ…無駄な気もするけど)
無駄な行為だと理解しつつも右眼の”碑眼”を発動する。
アルトの右眼の”碑眼”には、存在の理の本質を見極めると言う能力があり、こうして対象を視界に捉えれば、相手のステータスを確認する事も出来るのだ。
アルトの右眼の蒼色の瞳が薄っすら光る。
3人組を確認してみたが正直たいしたことのないレベルの相手だった。
(案の定大した事のない雑魚だな。一応冒険者のようではあるが、完全に身分が盗賊扱いになってるな。……ん?これは…)
確認して少しだけ『ある一か所の個人情報』に面白いとアルトは思った。
それは相手の名前にであった。正確には3人組の名前をあわせてである。
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名前:チン
性別:男
冒険者:赤
身分:盗賊
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名前:ピィ
性別:男
冒険者:赤
身分:盗賊
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名前:ラァ
性別:男
冒険者:赤
身分:盗賊
=======
長身の眼帯君は”チン”。優男は”ピィ”。ちっこい髭男は”ラァ”。
三人の、後ろの2人の男の名前を流さず発音すれば、
(くっ…三人合わせて”チンピラ”ってか?笑わせるじゃないか)
イメージ通りで小物感のある如何にもなチンピラ的行動をする3人組。その名前に少しなからず笑いそうになる。
先程までの不機嫌さが少し薄れた気がした。
本来なら敵対したのだから瞬時に殲滅しようかな、と考えていた。しかし、3人の名前の面白さに少し毒気が抜かれた。
『瞬殺』から『脅して消えてもらう』くらいには変わっていた。
「てめエ何してんだっ!さっさとその
長身の男がなかなか荷物を渡さないアルトにじれったさを感じさせ、剣を突き出しつつ脅しを効かすように叫んだ。
やはりこの大柄の眼帯付き男が3人組のリーダーの様だ。
しかし、この男は凶器を突き出し恐喝して脅せば、相手(この場合はアルト)が簡単に言う事を聞く人間だと思っているようだ。恐らく何度も同じような恐喝行為をしているのだろうと推察する。
愚かだなあと思う傍ら呆れつつあった。
その理由だが、こいつらは自分と相手の力量の差も図れない程度の実力しかない愚かな者達。
アルトはなんだか相手にするのも面倒になってきていた。
そして周囲からざわざわとした雰囲気が漂っているのに気付く。
そう言えばと軽く周囲に視線だけを向ける。
ここは街中だ。当然ほかの住民や商人の類がいる。
視線の先には、周囲の者はアルト達から離れ、面倒には関わりたくない感が強いみたいだった。
遠巻きに此方を見ているだけ。
(…厄介事には首を突っ込まず傍観者でいる。まあ、それが正解だろうな。そうだな、周囲に被害が出ないなら遠慮はいらないか…例え――)
この周囲で例え爆発が起きても被害は通道くらいだろう。
そして、どう対処するか決めた瞬間。
「アっ?」
アルトは腰に差している黒鞘から【雷切】を居合いで抜き放った。そして同時に間抜けな男の声が零れた。
おそらく目の前の間抜けた声を零した長身の男も、ほか仲間二人も、そして遠巻きで傍観していた者達も分からなかっただろう。
アルトが放った抜刀のあまりの速さに。そしてその動きに。
「ぎゃああああァっ!!?」
アルトの瞬息の居合い斬によって、長身の男は剣を握っていた右腕上腕の半ばから斬り飛ばされた。
男の絶叫と共に血が噴き出る音、地面に落ちるカランカランと剣の音。
男は利き腕を切り落とされた痛みに絶叫した。膝を付くと左腕で斬られた右腕を抑える。
「「アニキッ!?」」
優男と小柄の男が驚愕の声と共に長身の男を心配する。
「大丈夫ですかアニキッ!?ひでェ…」
「アンタっ!よくもやってくれるっすね!」
小柄の男は長身の男を腰の小物入れから回復薬らしい瓶を取り出し長身の男の裂けられた腕にかけ治癒しようとしていた。、
優男は背の2人を庇う様にアルトに剣を両手で握り向けつつ睨む。
「…グッ…」
ただ、優男の目には威圧感や殺気はない。その目の奥にあるのはただ目の前の男に対する恐怖だけであった。正直怖い、逃げ出したい、と体が震えるも、リーダーであるアニキをやられて黙ってられないという気概のみでアルトの前に立っていた。
ふとアルトの視線と目が合う。どこか感情の伺えない恐怖の目を見ると、ビクッと震えが走る。
それでも負けない様にと虚勢ももって睨む優男。
「ほぉ、少しは男を見せるじゃないかお前。チャラそうな見た目とは違うらしい」
「こ、このっ…」
「このやろぉおおぉ!!」
治癒の薬で応急処置を終えたあと、長身の男が怒りの叫びと共に地面に落ちている剣を左で拾い握ると、
「どけぇっ!」
「うわっ!?あ、アニキ!?」
「くたばれぇええええぇ!!」
「………」
優男を押し退けると怒りで我を忘れ絶叫を上げながらアルトに大振りで斬りかかる長身の男。
目が血走っており怒りと言うより恨みだけで動いたのだろう。
その男の攻撃は隙だらけだった。
もしここが命を奪い合う戦場であれば、この隙は致命傷で一瞬で命が奪われるくらいの隙だった。
隙だらけの男の腹部を「はぁ」と溜息を付きつつ蹴り、男を後方数メートルは飛ばす。もちろん手加減している。しないと腹に穴が開くかもしれないからな。
仲間の2人は慌てて長身の男の下に駆け寄る。
「グッ!?コノぉ」
「「アニキッ!」」
アルトは「はぁ…」ともう一度溜息を付く。
手加減をしてなおこの技量の差。その差をやつらに見せつけた。
その差に優男と小柄の男は完全に感づいた様だ。相手が各上の存在であると言う事に。手を出してはいけない相手だと言う事に。まあ今更感はあるのだが。
だが、他2人と違い利き腕を切り落とされた長身の男は違った。
いまだにアルトに殺気を向けてくる。
(面倒だな)と思った。
相手にする時間が無駄に等しいと。
こうしている間にもミュリア達が帰りを待っている。
しかし相手が戦意を失わない。逆恨みで付け回されるのも不愉快だ。
だからこそ面倒だと思った。
そしてこの面倒な状況を打破する方法を瞬時に考え、そして結論付けた。
(…遺恨は残さず消そう)
と――冷酷に。
「この野郎ぉ!」
「ア、アニキっ、ここは引きましょう」
「そうですヤン。こいつはボクチン達の敵う相手でないよ」
「うるせえェ!やられぱなしで引けるかぁ!」
「…あぁ、うん。仲間の忠告って大事だよな。その言葉を聞き入れ引き下がれば今この場の命くらいはあったかもしれなかったのに…馬鹿って奴には付ける薬はないんだなやっぱり。ほんと残念だよな」
「なんだ…とっ!?」
アルトの馬鹿にした言葉にキッと睨み叫ぼうとする長身の男。
しかし男は見てしまった。アルトの一切感情の乗っていない瞳を。そこらに落ちてあるゴミでも見るかのようなゾッとする目を見て長身の男は背筋が寒気で一杯になった。
そして男はその瞬間にしてようやく悟れた。
自分は手を出してはいけない相手に手を出した!と言う事を。
「本当ならお前たち如きにコイツはもったいないんだ。だからコイツを使われる事に絶望しながら消えるといい」
アルトは制服の懐から10㎝の六角形の真っ赤なクリスタルを取り出していた。
これは”
アルトは”魔呪”の影響で属性化身の魔法行使が出来ない。
無属性や
現在は”魔呪”の影響で属性魔法が使えない。なら他の何かで応用し扱えばいい。
そしてアルトにはアーティファクトすら作製可能の”
アルトはその能力で属性魔法を封じ込めた魔石。魔晶石を作り出した。
この魔晶石は、作製時籠めた属性の魔法を魔物の核である魔石や純度の高い宝石の類に籠める事が出来、籠めた魔法を魔力を籠める事で開放行使できる。
今回アルトが取り出した赤い魔晶石は、シルフィ救出の際に帝国の砦の門を吹き飛ばした物と同一の物だ。
ただし、作製に掛けた魔石の質が違う。
作製に掛ける魔石によって魔晶石の能力も当然変わる。
より純度の高い魔石。つまり強い魔物程得られる魔石がより質が良くなる。
今回作製し使用する魔晶石に使った魔石は、このルーテの街に着くまで。つまり商人達の護衛中に倒した【デュラハン】と言う頭部のない鎧姿の魔物を倒した際に手に入れた魔石を用いて作製した。【デュラハン】は魔物のレベルとしては中級の下と見られている。これが【
今までは使用していたのは低級のゴブリンと言った魔物の魔石を用いて作製していた魔晶石だった。
低級と中級ではランクが違う。
当然魔石の純性度も桁が違ってくる。
そして今回使う魔晶石には以前より少しではあるが桁が違う。
この赤い魔晶石には火属性”爆裂”が籠められている。
街の周囲に被害が出ないように威力を調整する。街道は影響が出るだろうが気にしない。
効果対象を目の前で震え青ざめる3人に限定する。
アルトは魔晶石を握り魔力を注ぐ。
その魔力に反応し魔晶石も深紅に光る。
「ま…まっ…」
相手が何か口にしようとする。が、もはや何を言っても遅い。命乞い等の見苦しい物言いは聞き届かない。
アルトは――アルゴノートは一度決めた事はどのような理由があれ必ず実行する。
遺恨を断つ。
そう決めた。なら、あとはただ実行する。
そう―――かつて、1000年前にこの手で【魔王】を討ち止めると決めた時の様に…。
(嫌なことを思い出させやがって――)
「消えろ…」
アルトは冷徹な一声と共に深紅に光り輝く魔晶石を3人に向けて投げる。
紅を描きながら自分達に向かってくる危険であると本能的に感じ取っていた3人は慌ててその場から駆け逃げようとした。
だがそれよりも早く魔晶石の光が3人を中心にして辺りを覆う程の光に満ち、そして――”
”ドカーーーーンッ!!!”
3人の男を中心に爆発し深紅の爆炎を起こした。
その爆発に遠巻きに見ていた傍観者から悲鳴が上がる。
爆炎を上げる一帯。
多少の爆風の影響が周囲に出たが、予め調整していたので爆発自体の被害は出ない。
被害が出たのは対象にした対象。
「終わりだな…」
そう呟くとアルトは右手に抜いていた雷切を黒鞘に収める。
そして、
「そう言えばあいつらなんて名前だっけか?なんか小物みたいな名称だったような。…まあいいかもう思い出す必要もないんだから気にするだけ無駄か」
爆発騒ぎにやってきた街の守り手に「この騒ぎは何だ!?」と聞かれ事情を面倒だが説明。
街中で暴れるのは止める様にと説教を受けたが、アルトは気にしない。
なぜならこれは正当防衛。
相手が突っかかって来たのがそもそもの原因なのだから。
そうした後アルトはミュリア達の待つ宿屋に向かうのだった。
残されたのは爆炎の跡とその爆発に巻き込まれたであろう黒い影が3つあるだけだった。
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