3-1:序③…少女の想い


「とまあ、これがこの国の始まりと成り立ちの歴史の昔話だ」

「…昔……1000年前の」

「そうだ。途方もない、我々の先祖にして英雄を祖とする王の歴史なのさ」


シュメール王城にある一間。

そこには二人の人物がとある人物が描かれている人物画を見ながら会話をしていた。

一人は、シュメール王家、つまりはモードレッドの血を継ぐ者である。煌びやかな衣装を纏い、王家の証とも言えるモードレッドと同じ白銀の髪をした青年。

この青年はシュメール王家第一子の長男。今年で20歳となる。

そしてこの青年こそがこの世界、シュメール王国に異世界から4人の少年少女を召喚させた人物その人である。

青年は、自分が如何に歴史のある、そして英雄アルゴノートの尊い血を引いているかを隣に立っている異世界から呼んだ4人の内の一人の少女に語り掛けていた。

なぜ召喚した4人の内でこの少女にだけに、このように特別感を漂わせつつ語り掛けるのか?

それはこの少女だけが他の3人と違う点があったからだ。


そして、語る青年の隣に立っている少女。

スラッとした黒い長髪をポニーテールにしている。まだまだ少女と言えるだろう日本の制服を着た女の子。

少女は、青年の行った異世界召喚、『勇者召喚』によって今までいた地球の日本からこの世界アストラルに召喚させられた。

少女は青年の隣で一枚の壁画に目を向けながら話していた。

ただ、青年の語り事を少女は気にする様子もなくただただ聞き流していたけど。

それは、少女の意識は青年の語り事より目の前の人物画に向けられていた。


少女の目の先にある一枚の画。

そこには青年の語りに出ていた【魔王】と呼ばれる存在を倒し、今自分のいるこの王国を創り世界に平和を齎した英雄が描かれている。

その画に少女は穴が開くのではないかと思えるほど見詰めていた。

何故ならそこに描かれている人物を少女は知っている気がしていたからだ。


(…髪の色も瞳も違う。赤い布を巻いていたりしている。描かれているものだけど何となく伝わってくるその存在感。私の知ってる彼とは違う。…けど、似てる。それが何となくだけど分かる)


少女の脳裏には2年前に不思議な出会いをし共に過ごした黒髪黒目の少年の姿があった。

絵から感じ取れる雰囲気、違いはあるがどうしてもこの絵を見ると思い浮かぶのは彼の、シン・アルトの姿だった。


少女は自分の思い違いかもとも思っている。

何故ならこの絵の人物は1000年も昔の人物なのだ。

青年によれば1000年も生きられる人間なんてまずいないと言う事らしい。

闇夜族と呼ばれる異人族の中にはいるかもしれないと言う事らしいけど。

けどこの画の人物は間違いなく人間なのだ。

ならこの人物もとっくの昔に死んでいるはず。


だから違う。ただの他人の空似。自分の思い過ごしだ、と思おうとした。

だけど気になる事もあった。

この絵の人物。

【英雄】と呼ばれたこの人の最後の、亡くなったと言う確定情報を持っている存在はいないのだ。

青年の語りも何処に消え姿を眩ましたとしか告げていない。


少女の頭に「もしも」と言う言葉が浮かぶ。

それは『もしかしたら彼は世界と言う次元を超えて私のいる世界にやって来た。そしてこの世界と私のいた世界では時間の流れが違うのではないか?次元を超えるなんて現象を実際に体感している私がいるんだから。何かの影響で髪とか目の色が変わっても不思議と思えなくもない。それに――彼、アルトは初めて出会った時、記憶を無くしていたんだ。なら可能性は十分にある。そして……私が此処にこうしている様にアルトもこの世界に戻っているんじゃないか?』と。


もし彼が此処に戻っているのなら。それが確かなものであったのなら…


(逢いたい。アルトに逢いたい。もし逢えたのなら、あの時の…あの時伝えられなかった想いを伝えたい!)


少女はただ愛する少年の事を想い募らせるのだった。

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