2-EX⑦:翼…シルフィとまだ見ぬ旅へ
夢から目覚めた私の目の前にはミュリアがいた。
ミュリアはなんだか安堵と呆れを含んだ表情を浮かべていた。
(ふふ、やっぱり来てくれた…)
嬉しかった。私はその時素直にそう思った。
ミュリアと出逢って暫くした後、私達はある誓いを立てた。
それは『何時、如何なる時でも、窮地な時には、御互い駆け付ける』と言う約束をしたのだった。
「助けに来たよシルフィ。大丈夫?どこもケガとかしてない?あいつ等に酷い事されてない?」
「ええ、ケガなんてしていないわ。此処でもただ寝てただけだから」
そう言うとミュリアは「にゃはは…」と困った子だな~と苦笑いをする。
「うん。相変わらずで良かったよ。ほんと無事でよかった」
「心配をかけたわ。…ねえ、そう言えばだけど、ミュリア一人なの?」
私はミュリアにそう尋ねた。いくら何でもミュリア一人で何十人といる帝国兵、その目を掻い潜って此処まで来るのは不可能と思ったからだ。そしてミュリアのほかに付いている人がいるとすれば、”夢想”で言葉を交わし、精霊王様が言っていた人物であると思った。
目の先に牢の扉の近くに倒れている二人の帝国の男が見える。
おそらくはミュリアが倒したんだと思う。
(…?…そう言えばミュリア、なんだか少し前と違う気がする…)
前にあった時のミュリアと、今自分の前にいるミュリアとは何かが違う様に感じられた。
今の彼女には複数の属性が渦巻いているように感じる。しかもその奥には私にもよく解らない力が眠っているように気がした。
「え?ううん。私だけじゃないんだ。もう一人ね、私と一緒に付いてきてくれた人がいるの」
「…その人は?もしかして、なんだか外が騒がしい気がするし、人気がない気がするんだけど…まさかなんだけど、その人が相手をしてるの?」
「うん。ここに来たのは私とアルトだけなの」
アルトと言う名前なんだ…、と思いつつたった一人で無謀だとも思う。しかしミュリアによればその彼はとにかく強い。時々ウッカリすることはあるらしいけど。
そう言うミュリアだけど心配が顔に浮かんでいる。
昔から私と違い感情が顔に出やすい。
+
ミュリアと再会のあと。
ミュリアは魔晶石を一つ取り出した。そしてミュリアはその魔晶石に向かって何やら思念を飛ばしているみたいだった。
誰かとどうやら“念話”をしているようだ。
(…ミュリアの念話の相手って、もしかしなくても、彼だろうか…)
もう直ぐ会えると言う気持ちと、無事なのだろうか?と言う気持ちが過る。
そして“念話”を終えたミュリアはさらに1つの透明なクリスタルを取り出した。そのクリスタルはどことなく魔除けの結界こと【クリスタル・オベリスク】と同じ感じがした。
「シルフィ、今からこれで満月の集落まで飛ぶからね」
「そう、それは”転移石”なのね」
「うん。そうみたい。詳しくは私はチンプンカンプンだから分からないけど」
どうやら本当によくわからないらしい。なんだかミュリアの頭の横に?がいくつも浮かんでいるような錯覚が見えた。つまり別の誰か、魔晶石を所持しその知識を有する人物から与えられたものであると言う事。
ミュリアはその手の”転移石”を握ると、”転移石”が光りだした。
「ミュリア、魔力流しが出来るようなったんだ…」
「え?うん、簡単な魔法とかと一緒に、アルトに教えてもらったんだよ」
「いくよっ!」とミュリアは光輝く”転移石”を勢いよく地面に叩き付けた。
地面に叩き付けられ砕けたクリスタルの破片が私達を囲う円の様に光っていた。
(やっぱりクリスタル・オベリスクに似てる…)
そして私達は牢の中から“転移”した。
転移したのは私の故郷の、そして崩壊した満月の集落だった。
また多くの命が失われた。悲しむ私の目に、夜空を見上げる様に立っている1人の男の人がいた。黒髪に左眼は彼の髪と同じ深い黒の瞳で、右眼には神秘の光を帯びているクリアブルーの瞳。見慣れぬ衣服を着た人間の男の人だった。
「遅かったな、ミリー。うん、どうやら無傷の様だな、よしよし」
「うう、頭撫でないでよぉ~シルフィが見てるよぉ~」
ミュリアが彼の傍に駆け寄ると、彼はミュリアの無事を確認する。そしてミュリアの頭の髪と言うより猫耳を撫でる。撫でられているミュリアは恥ずかしそうに頬を染めている。けど嫌そうではない。
私も彼の下に歩む。
彼も私の方に目を向ける。
「……」
「……」
彼がジッと私を観察するように見てくる。
特に私の自慢の胸に視線が来ているのに気が付く。
それに気付いたミュリアが怒った笑みを浮かべ彼に嫉妬の籠った説教をするのだった。
私も頬に手を置きポッと頬を染める。
不思議な人。そして……深い、深い悲しみを心の奥底に宿している人。
初めて出会った彼に私はそう思った。
+
「まあ”夢想”で一度話をしてるから始めましてかは分からんが、こうして面と向かって会うのは最初だしな。始めましてだ。俺はシン・アルトだ」
「始めまして。私はシルフィ。見た通り
「気にするな。俺はただミリーに付いて来ただけだからな。ミリーが行く気がなかったらこうしていない。だから感謝はミリーにしたらいい」
彼の発言はおそらく言葉通りだと思った。今回の事件に彼は首を突っ込むことはなかっただろう。
ミュリアと言う存在があったからこそ彼は動いたと言う事みたい。
言うなればミュリアは私と彼を繋いだ赤い糸みたいだった。
「はい。ミュリアにも勿論感謝はしていますが、それでもこうして私が此処にいるのは、まず貴方の……アルトって呼んでもいいです?」
名前で呼んでいいか確認する。
「あ?ああ、気にせず呼んでいいぞ。俺もお前の事はシルフィと呼ぶから」
「そうですか、では改めて、アルトのおかげでなのは分かってるつもり。…後、私も愛称で呼んでいい―」
「それはなしで」
あら、残念。話の流れで私もミュリアみたいに愛称で呼んでももらえないかなと思い挿んでみたけどあっさりと拒絶された。
やっぱり彼。、アルトとミュリアの間に何か絆の様なものがあるみたいで、ちょっと羨ましいなと思った。
+
私は崩壊した満月の集落、そしてこの地で亡くなった者達に捧げる
「…♪……」
瞑目するミュリア。悲しみが濃く浮かんでいる。
アルトは瞑目しつつ私の唄を聞き「良い
私達は徒歩で新月の集落まで行く事となった。
向かう途中でアルトとミュリアから今までの経緯の聞いた。私も今までに起きたことを話した。
話の中でエトが無事なのに安堵した。
そして驚きの事実を聞いた。
なんとアルトは、伝説となっている1000年前の【英雄:シン・アルゴノート】本人らしかった。
ただ彼は英雄と呼ばれるのは嫌らしい。
成りたくてなった訳じゃないかららしい。
彼の事を聞いて納得もした。
【英雄】の御力をもってすれば彼ら帝国の一般騎士程度が何人束になろうと敵うわけない。
え?今は以前のような力はないの?
なんでも異世界と言う、この私達が住む世界とは別の世界の事らしい、から戻った際に力が落ち、
”
私も聞いた事がないものだった。
もっとも、彼は特殊技能は行使できるらしく、伝説として語られる内容の一つである
+
新月の集落に着いたのは日の出が顔を見せるかの時間だった。
「巫女様っ~」
いつもお姉さんらしいエトが涙を浮かべながら私を抱きしめ迎えてくれた。
私も「心配させた…」とギュッと抱きしめ返した。
「お恥ずかしいとこを見せてしまいましたね、巫女様。お怪我なのはないですか?奴らケダモノ共に純潔を奪われたりしてないでしょうか?」
「問題ない。何も盗られてないから。エトはもう少し落ちつくといい」
「シルフィ!色々あって疲れたし、一度休もう!私の家でね」
「そうだな、ふあ~、流石に眠気が限界だ」
ミュリアの言った休息に私は同意する。
アルトも眠そうに欠伸をしつつ本当に眠いのだろうか、どこか目元が下がり気味になっている。
ミュリアの家、つまり族長宅は知っているので迷うことなく付いて行く。
驚いた事にアルトも一緒に泊まっているみたい。
「シルフィはここを使って。エトさんと一緒の部屋だけど」
「問題ないわ。ありがと…」
「ありがとうございます、ミュリア様」
部屋に入ると、用意された布団に入るとエトに「おやすみ~」と告げると私はすぐ眠りに付いた。
「ZZZ…」
「巫女さまったら、もう…」
エトの呆れた様な変わりない私に安堵の含まれた声を聞いた気がする。
私は丸一日寝ていた。
アルトとミュリアも同じくらい寝ていたらしい。
けどなんででしょうか。アルトからは「お前、寝坊助姫だな」と言われた。
なんで?
起きたその日にアルトがこの夜国を出て他国、つまり人間の領土に行くと集落の皆に告げた。
それを聞いて「えぇ~!?」と留まってほしい声が多かった。
闇夜の者は基本人間を信用していない。人間達は嘗ての事もあり闇夜族の事を自分達人間より下等種と見ているものが多く、今回の満月の集落を襲撃した時とか、聞いた話では新月の集落も襲撃されたらしい。その多くの目的が奴隷として連れ去る事が多い。
そんな理由もあり闇夜の者は人間に好意的に示さない。
しかし、彼は―アルトは違った。
集落の殆どの者が彼に好意的を示していた。
(不思議な人…彼がかつての英雄だから?)
昔話では『英雄は闇夜の者と手を繋ぐ存在で、多くの者が彼に魅かれ付き添った』とある。
ミュリアに聞いた限りでは、アルトが嘗ての英雄であることは誰も知らないみたい。
親しそうに話していたカンスとシーラの双子も知らないらしい。
けどそんなの関係ないと言う様に親しさを出している。
しかも彼らはまだ僅かと言える期間である。
不思議なアルト。
私は彼の事ばかり考えている気がする。
彼は3日後にこの集落を出ると言った。しかもミュリアも一緒に付いて行くらしい。
私はどうしたらいいだろう?
こう考えが浮かんでいる時点で私も彼に魅かれる一人になっているらしい。
本当に不思議だ。
私はこの事をエトに相談した。
真剣に私の話を聞いてくれた。
そして、エトは私に彼らと一緒に付いて行くのを勧めてくれた。
私の背を押してくれた。
エトは「そうとなったら準備しないと」と旅支度をしてくれた。
本当に感謝だ。
その気持ちを最大限伝えるために、昔の呼び方で伝える。
「ありがとうね、お姉ちゃん」
「ふふ、いえいえ」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべ兎耳をピコピコ動かすお姉ちゃんだった。
+
それから私は彼らが集落を出る時に、コートを纏い旅支度の鞄を携え声を掛け、私も一緒に同行する旨を告げた。
ミュリアは喜んでくれた。アルトは何か、おそらく同行を拒否する言葉を言おうとしたが、私はその都度「付いて行く」と押し切った。
最後はミュリアの援護もあり溜息を付くとアルトも許可してくれた。
こうして私は生涯一の友と、今とても気になる不思議な彼と共に世界を回る。
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