2-EX⑥:翼…シルフィと夢と出逢い

私はエトをミュリアのいる新月の集落に”転移”させた後、精霊王様の言った通りに抵抗する事なく捕まった。

捕まった私は帝国と満月の森の国境付近にある砦に連れて行かれた。

その道中に本当は声を掛けるのも嫌だったが、どうしても気になっていたことを聞いた。

その砦には私だけが向かっているからでした。

他の、集落の皆はどうしたのか気になっていた。


「ああ、生きの良さそうなのは既に本国に送ったさ。他の役に立たなさそうなのは始末したから、まあ安心しな。奇襲に成功したからなぁ、簡単だったぜぇ」

「生き残りっていう事なら、アンタが逃がしたあの兎っ子くらいじゃねえ」


そうガハハと下劣に笑う帝国の人間達。

怒りが湧いてくるが、ここは表に出ないように努めた。

私はほとんど表情を顔に出ないので、連中が気付くことはなかった。


そのあとは特に聞きたい事もないので無言でいた。

先に声を掛けた帝国の男はベラベラと話していた。

その話で、私はなんでも帝国の皇帝の血族の人間が、直に私を見定めて奴隷にするとか言っていた。

不愉快さから鳥肌が立った。


少し歩いた所で”転移”の術式が描かれている魔法陣があった。どうやらこの魔法陣の効果で移動するらしい。

魔法陣に立つと一瞬でその場の風景が変わった。

森だった場所は、鉱物で出来た門の前だった。

どうやら砦に付いたらしい。


しかし、どうやって”転移”の術式なんかを帝国の人間達が知っており起動出来たのか不思議だった。


到着すると私は砦の牢と思われる場所に入るように言われた。

中は椅子が一つ置いてあるだけの質素なものだった。普通ベッドくらい置いておかない?

とりあえず私は唯一置いてある椅子に座ると目を瞑る。

そして直ぐに寝息を立て始めた。


「zzz…」

「…おい、あの娘、寝てねえ?」

「…おお、どう見ても寝てるよな…」

「…普通寝るか?敵の、しかもこの後奴隷にされるってのに?」


呆れを含んだ視線の中、私は気にせず眠りに入る。

この時、私は何となくだけど、今眠りに入れば”夢想”に入れると感じていた。

そして私の予感は当たった。


……。


なんだろ?

”夢想”に入ったのは間違いないみたいだけど…

これまでの”夢想”と違うようだった。


『…精霊王様?』


今まで私が”夢想”に入ると精霊王様が私に話しかけていた。

なので今回の少し変わった”夢想”もかの存在が干渉していると思い声を出した。

でも、その私の声に誰も反応しない。


『……』


どうやらこの空間は精霊王様ではないらしい。

しかし、私には感じていた。

この空間には私以外にもう一人の存在の意志があることに。

姿は見えないけどそこにいる。

感覚が私に伝えてくれていた。


どんな人だろ?

なんとなく私に流れてくる感じだけど、どうも不機嫌な雰囲気の様だった。


『おい!俺をここに引っ張り込んだ奴!俺を見ているのは分かっているんだ!俺の機嫌をこれ以上損ねない内に出て来い!もしくは声を出せ!』


不機嫌さを隠す事なく男の人の声が届いた。

私は男の人に、おそらくではあるが、人間だと思う人物。その人に向かって声を返す。


『驚いた…アナタは、私に気付いたのですね。……では…アナタが、あの方の仰られた御方、ですね……』

『おい、何を言ってんのか知らないしどうでもいいが、俺はお前に興味などねぇんだよ。特に用もないなら今すぐこの”夢想”を閉じろ。俺は眠いんだ。これ以上の俺の睡眠の妨げは許さんぞ!』


彼の言う睡眠の妨げに関しては凄く同意したい。

何やら思案している感じが伝わってくる。

この”夢想”にどういう意図があるのか考えているのだろうか。

ああ、ちゃんと顔を合わせてお話をしてみたいと、何故か思った。

しかし、この”夢想”は長く続かなかった。

突如、”夢想”の空間が歪み崩れる様に終わりを告げるのを感じた。


”夢想”の終わりを察知し、私は、彼が精霊王様が言っていた、私を変える存在だとわかった。

おそらく彼が私を助けてくれる。

そう思うと、私は彼に何とか最後の言葉を送る。


『……まっています。…私はアナタに逢えるのを―私の名前はシルフィです――』


歪みで擦れ擦れになったと思う。

私の言葉を彼にちゃんと届けられたかわからない。

届いていたらいいなと思うと同時に、”夢想”空間が完全に崩れ終えた。



それから数時間が過ぎた。

その間は、暇なのでずっと眠っていた。

捕まっているのにどうしてだろうか、全く不安はなかった。

偶に「彼はどんな人なのだろう?」と、まだ見ぬ”夢想”の人の事を考えた。

まだ見ぬ人物にどうしてここまで気になるのか不思議。

彼は来てくれる。

精霊王様の言葉通りなら、ミュリアと一緒に私を助けに来てくれる。


そうしてまだ見ぬ彼ともっとも大事な親友を待ち焦がれる。

そしてふと誰かが―いえ、私の親友の声と一緒に私の肩を揺らしてくれる感覚が伝わってくる。

その感覚に抗う事なく私は眠りから覚める。

目を開けた先にいるミュリアの姿を見る為に。




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