2-EX③:翼…シルフィと初めて友達

私があの子に、ミュリアと出会ったのは寒い冬が過ぎ、暖かな春の季節でした。


寒くてヌクヌクの布団に包まる季節から、ちょうど良いヒンヤリとした暖かな季節。

私はこの春が一番好きだ。

日向のなかウトウト寝るのが好き。

本当ならいつも布団に入りお昼寝をしたりしたい。

そう思っているのだけど、私は【巫女】として族長の周辺集落への訪問に同行しないといけなかった。

正直面倒だな、と。

そう思うのは私が子供ゆえでしょうか。

だって退屈だもの。

大人達が話をしているけど、私には難しい話を聞いても意味がよくわからない。

いくら周囲が私を巫女のように崇めたりしても、まだ7歳になったばかりの子供。

退屈でしかたなかった。


私はその日、族長が近隣の集落である【新月の森の集落】に向かう予定だった。

その集落訪問に私も行くことになっている。


私と族長と大人2人。

計4人がある場所に集まった。

その場所は集落の中心に存在する蒼白い大きなクリスタルがある所。

結晶の様にキラキラと輝き、私にはこのクリスタルが不思議な力を帯びているのを知っている。このクリスタルは1000年前に、人々から【英雄】と呼ばれた人間の少年が作成したアーティファクトなのだ。

通称”魔よけの結晶石”、別名と言うより正式名称は”クリスタル・オベリスク”と言う。

通称通りに、このアーティファクトには、アーティファクトから周辺範囲に、設定されている脅威が近付かない結界が張られている。

もし害意を持って侵入しようものなら結界の作用に充てられ、何時の間にか元の場所に戻されるようになっている。

そして迷いの結界を抜ける者がいた場合、瞬時に警告をしてくれるようになっている。


結界を発生し私たちを守ってくれるクリスタル・オベリスク。

そのクリスタルの前に集まったのには理由がある。

それはこのアーティファクト”クリスタル・オベリスク”に隠された機能を使う為である。


「では行くとしようかの。シルフィよ。転移を始めてくれるかい?」


そう族長に言われて私はクリスタル・オベリスクに手を当てる。


「…座標確認できました。では行きます…」


クリスタル・オベリスクの機能を発動させると、蒼白い光が溢れ出す。

眩い光に目を開けておれず目を瞑る。

そして自分の体が一瞬浮遊感を感じた。

そう感じ光が収まり目を開けると、


「ようこそいらしたの、満月の長よ。そして巫女様や」


老齢の獣人族の男の方が杖を支えに私達の寳来を歓迎の言葉で迎えてくれた。


私達の後ろには先と同じクリスタル・オベリスクがある。

しかし目に映る景色は異なる。

つまり此処は今先程までいた満月の集落ではない別の場所と言う事。


そう。クリスタル・オベリスクの隠された機能。それはクリスタル・オベリスクを介する事で、瞬間移動を可能にする転移機能だった。

もちろんこの事を知り、この機能を使えるのは集落でも僅か。

転移起動させた私や族長の地位に付く者くらいだ。

この事が悪意ある者が知れば悪用するのは明白。

まあこの機能はいくつか制限があるから誰でも扱えるものじゃない。


クリスタル・オベリスクの制限は大まかに二つ。

一つは転移同士の座標標識を把握している事である。

このクリスタル・オベリスクはある一定期で座標標識が変わるように組み込まれている。

なので御互いの集落間で、御互いのクリスタルの座標標識を知らせ合う必要がある。


もう一つはこのアーティファクト”クリスタル・オベリスク”の転移機能を起動させるには、魔力を注ぐ必要がある事である。

魔力が必要。つまりはこの機能は魔力を持たない種族である獣人族の者には扱えないと言う事である。

それでは魔力を持たない獣人族の長がどうしてこの機能を扱うのか?

それは特別な結晶石を使う事で機能を発動する事が出来る。

希少な物で各集落に一つしかない。

そしてこの結晶石にも登録した者以外は扱えないという制限がある。


今回の転移はもともと魔力持ちの私が行った。

と言うより【巫女】として同行したりする際には基本的に私が起動させるようになった。

なんで…?



族長達は、新月の集落の長達に案内され、新月の長の家に案内された。

話し合いはそこで行うらしい。


「ねえ?…今回の話し合いって、私はいなくても良いって聞いたけど?…」

「ん?そうですな…今回はチョイと長い話し合いになるですしの。巫女様には退屈でしょうしな。集落の外に出ない場所でしたらよろしいかと」

「…そう。なら私はクリスタルの場所にいるから。終わったら起こして…」


そう言う私に苦笑する族長と二人。

私が昼寝をする気だとわかっているようね。

その通り。


なので今私は一人クリスタルに背を預けていた。

ふぁと欠伸をしつつ冷たさのあるクリスタルを背に『意外と冷たいから寝心地良いんだよねぇ~』と思いつつ、私にいくつも視線が向けられているのに気付く。その視線はこの新月の集落の住民達だろう。

まあ周囲の者達からは『巫女の方が何をしているのだろうか?』と言う視線がいくつもあったけど。私はそんな視線に気にせず眠ろうとした時だった。

1人の猫耳の獣人族?の、たぶん私と同い年くらいの女の子が私に視線を向けていた。

私はどこか獣人族の人と違う不思議な感じがした。

視線の先のその少女は、クリスタルに背を預け座りながらの私の前に来るとしゃがみ込む。そして普通に話し掛けて来た。


「ねえ、そこ冷たくない?寝やすいの?」

「……ヒヤヒヤ、サイコー」


私は彼女に短く返す。ふとその子は「そうなんだ、なら私も」と私の横に座る。

…なんなのかこの子?私も変わってるとよく言われるけど、この子も変だと思った。

私の横に座った彼女は、私の様にクリスタル・オベリスクに背を充て「うぅ~ん」と体を伸ばした。


「うん、意外とヒヤッとしていいかも。ねぇ」


私にほんわかとした笑みで同意する女の子。長くてふわっとしている長い橙色の髪が風にふわっと靡く。

何だかその子に親近感を持った。

分からないけどその時そう思った。


「私はミュリア。ミュリア・ダークマターだよ!あなたは?」


彼女が先に名乗った。何だか(どこかで聞いた事があるような?)と頭に浮かんだのだけど、取り敢えず名乗り返すべきと私も彼女に名乗る。


「…私は、シルフィ。シルフィ・ビスマルク。”満月の森”で巫女なんてさせられてるわ」

「うん、知ってるよ。よろしくね、シルフィ♪」

「……」


私は驚いた。私が【巫女】となってからは、皆私を呼ぶ時は【巫女様】と呼ぶからだ。

名前を呼ばれる。どうしてか、その事実が凄く嬉しく思えた。


「…どうしたの、シルフィ?」

「……いや、驚いただけ。……もう一度教えて」

「えっ?」

「…貴女の名前」

「もう、今度はちゃんと聞いててね?私の名前はミュリアだよ!」

「…うん。もう忘れない。…宜しく、ミュリア」

「うん♪」

「…ふふ♪」


久しく忘れていた感覚。

名前を呼ばれる事。

対等の存在として扱われる事。


そのあと私達は、私が満月の集落に帰るまでの間、クリスタルを背にしながらいろいろ話した。

いつもの眠気が来ないくらい話していた。

たぶんだけど、初めて楽しい。そう思った。


その日から私とミュリアは友達となった。

私が満月の集落に帰る際も名残惜しさから「またね~」と手を振ってくれた。

私もミュリアに微笑み、ミュリアほどではないけど小さく手を振った。


その私の様子に族長達は驚いていた。

後で聞いたら「シルフィ『巫女様』が笑われる所なんて初めて見た!」だそうだ。

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