2-6:幕…旅立ち――そして招かれし者

ミュリアSide=^_^=

牢の中で、椅子に座りながら眠っているシルフィがいた。

私は牢の鍵を火炎魔法で壊すと、牢の中に入りシルフィに近づいた。

シルフィの様子を見てみると、どうやらただ眠っているだけの様だ。それはもう、すやすやと寝ている。捕まっている人とは思えないくらい堂々としている。

その変わらない姿に私は呆れながらも無事な友人に安堵した。

元々、シルフィは出逢った時から眠気気味な少女だった。

取り敢えず、私はシルフィを起す為肩を揺らす様にして声を掛ける。


「シルフィ!起きなさい!助けに来たわよ!」


何度か声を掛けながら肩を揺す。するとその神秘的な眠たげな瞳を薄ら開けた。

そして、その瞳は私を捉えると、小さく欠伸しながら挨拶してきた。

緊張感が全くない雰囲気。とても捕まっているはずの人には思えない程だった。


「…ふぁ~おはよぉ、ひさしぶりぃ」

「あはは、変わってないね、シルフィは。…無事?捕まってる時にアイツらに何かされたりしてない?」

「……何も。…ずっと、ここで“夢想”してたから」


【夢想】シルフィの能力の1つで、夢を通じて他者と対話する事が出来る能力だ。


「えっと、”夢想”って誰かと夢を通じて話す力だよね?誰と?」


私は話し相手を聞いた。


「…最初は、知らない黒髪の男の人。…その後は、精霊王様とずっと話してた」

「えっ!?…精霊王と?…もしかしてだけど最初の黒髪の男の人って?」

「……うん…行こう、ミュリア」


そう言うとシルフィは、座りながら寝ていた椅子から体を起こし立ち上がる。

よく分からない事がいくつかあったが一先ずシルフィ救出を達成したので此処を離れるのが先決だと思い、予めアルトから渡されていた、何か不思議な術式が刻まれた30cm位の透明なクリスタルを取り出す。あとこのクリスタルの効果を使う前に、”念話石”を取り出すとアルトに対して“念話”を発動した。


「アルト、こっちは無事救出出来たよ!そっちはどう?」

『”おう。上手くいったようだな。こっちも片が付いたから、焦らず転移石”で“転移”して来いよ“』

「分かった!今から行くねぇ!」

『”分かった“』


アルトへの“念話”を終えた後、左手でシルフィの右手を握ると、私はクリスタルアーティファクト【転移石】をアルトに教えてもらった通りに地面に投げた。


地面に当たった転移石は砕け、砕けた破片は光となりミュリアとシルフィの周囲に広がる。

そして、少し前に体験したのと同じように光り輝いた後、私達はこの場を離れ、満月の森のオベリスクに転移した。

そして、そこには一足先に来ていたアルトが空を眺める様に立っていた。


~~


アルトはミュリアからの“念話”を受けた事で作戦成功した事を察知し先に満月の森集落跡地に転移した。

もう間もなく、ミュリア達もやって来るだろう。


「………いるんだろ?出て来たらどうだ“アストレア”?」


アルトは満月の森の集落跡にて空を眺める様に、感じとったまま“精霊王”の真名を呼んだ。

精霊王は驚いた様に現れる。

その姿は、以前は光り輝く人の様な姿をしているだけだったが、今は大分人に近づいた様に思う。

身長は150くらいか。白く光る肌に、ふわっとした地面に届くくらいの長い髪、顔は未だにはっきりとは見えないが整っているように見える。服装は白く輝く肩を出したふわっとしたドレスを纏っていた。


“おやおや、君の方から気付いてくれるなんて、わたしも嬉しいねぇ♪…以前はわたしの方から声を掛けないと気付いてすらくれなかったのにねぇ~”


白々しい事を言う。


「はっ!今回の事を仕組んだのは、お前だろうが。どの口が言うんだかな、まったく。……それよりのその姿はどうした?随分人らしい姿をしてるじゃないか?」


そうなのだ。今回のシルフィと言う名の翼人族フェザーフォルクを助け出させる一連の流れは、コイツが仕組んだものと言えたのだ。


“ふふ~良いでしょ~この姿もぉ、可愛いでしょ?……欲情したら駄目だよ?”

「はっ!誰がするか、誰が」

“もぉ~照れなくてもいいのよぉ~相変わらずなんだからぁ……後、仕組んだなんて人聞きが悪いわぁ~わたしは出会いの流れを作っただけなんだから!”


“コイツ”の姿に特に思う事はない。俺の趣味じゃないからな。

しかし、出会いの流れ、か…


「お前はそうやって、あの時も俺と”マリー”を結び付けてくれた。だから、今回も何か意味があると履んでいる」


俺がかつて唯一心から欲した人。

その者との出会いは、紛れもなく“精霊王アストレア”のおかげだ。

もっとも………いや思い出すのは止そう。

もう直ぐミリー達も来るしな。“コイツ”とも早々に切り上げるとしようか。


“……フフ、感謝するといいわ。それじゃあねぇ~わたしは空から見守っているからねぇ~面白可笑しく過ぎてわたしを楽しませてねぇ~♪”


此方から切り上げる前に“精霊王アストレア”の方が先に、笑みのような表情を浮かべて空に融けるように消えた。アルトはそれを見上げるように見ていた。

その後だった。


ミュリアと、見た事もない一対の翼を背に携えた1人の少女が“転移”して来た。

どうやらあの少女がシルフィ・ビスマルクの様だ。

じっと観察するアルト。なんと言うか寝ぼけ気味な瞳をしている。ただ何となく神秘的で綺麗な瞳をしていた。

身長はミュリアと並んで同じ位なので150くらいだろうか。確か同い年と言っていた気がするから15くらいだろうと推察。

髪は揉み上げ部分は長いが、他は綺麗な銀のショートヘヤーをしている。

服装は白い背中を露出するタイプの和装。

体型も出るとこ出ている。上々だなと思う。特に一点が……


「むぅ!アルトぉ、何処を見てるのかなあ?」


ミュリアが嫉妬交じりの笑ってない笑みをアルトに向ける。

アルトは正直に思った事を告げていた。


「ん?全体だ。あと胸だ。立派だと思うぞ!」

「むきィー!アルトぉ、説教だよぉ!!」

「……ぽっ!」


正直に告げただけなんだが、ミュリアが嫉妬から涙目に説教してきた。チラチラとシルフィの胸に視線を向けながら。それをアルトは『はい、はい』と微笑ましく説教を聞き、シルフィは顔に手を置いて表情からはあまり分かりにくいが、いやんいやんと頬を赤くしていた。特に嫌悪からではないようだ……


(なんていうかぁ……まぁ、いいか。楽しいしな。こう言うやり取りは。…あのの頃を思い出すしな。楽しかった、あの頃を……)



あの後互いに自己紹介した。

やはりと言うべきか今回のは“あの馬鹿精霊王”が仕組んだので間違いなかった。

なんでも、シルフィは始めに襲撃して来た帝国兵を得意の“風”魔法で撃退しようとしたらしい。だけど”精霊王”の奴がシルフィに語り掛けて来たそうだ。

シルフィは”巫女”。”精霊王”の声を聴く事が出来る特別な存在。

シルフィはその言葉に従い、自分は抵抗することなく、侍女であるエトにミュリアの住む集落まで逃がして捕まったそうだ。

それを聞いてそうだろうなと思うアルト。…シルフィが本気になれば恐らく襲撃して来た奴らは生きて帰れなかったんじゃないだろうか?

それ程、どうにものほほんとしているがその潜在能力、所有魔力はかなり秘めていた。

あと、教えてくれたが、風の属性の能力を上げる種族特性に上位の魔法適正である“氷”も扱えるとか。

正直言ってなかなかの逸材だと思う。

と言っても、今はまだシルフィは二翼。

今後も成長の可能性あり。優良物件だな、この子は…と思うアルトだった。


そんな風にのんびりと歩きながら新月の森に帰還する。

”転移”を使っても良かったが歩くのも悪くないと、歩きながら戻る事になった。

そして新月の森に戻って来たのは、日が昇る頃だった。


戻ると、カンス、シーラ、エトはどうやら寝ずに帰りを待っていたようだ。

驚嘆で迎えられた。

エトはシルフィの姿を確認した瞬間、飛びつくと泣き出した。

シルフィも「…心配かけた」と慰めていた。


集落に戻った後、流石に夜の進軍に魔力の消費に”夢想”の影響で3日貫徹の疲れがいまいち取れていなかったのでアルトはとにかく眠かったので、ベッドに飛び込むと丸一日眠った。

ミュリアも緊張感から疲れていたのでアルト程ではないが深めに寝着いた。

因みに捕まっていた時も寝ていたシルフィは、アルトやミュリアと同じくらい寝ていた。

寝坊助だな……シルフィ。と、起きた後に聞いて呆れるのだった。

エトも呆れを含めつつ「いつもの事ですよ」と苦笑していた。


++


丸々一日眠っていた次の日。


「な、なんだと!?本気かよ、アルト!」

「もう少しくらい居られないの?」

「くどいなぁ、今言った通りだ。3日後に、俺はここを出て旅してまわる。これは決定事項なんだ」


アルトの体力と魔力も丸々1日寝リ休んだことでほぼ回復した。

今後を考えこの世界の実状を早めに確認したいと言う思惑もあり旅に出ようと考えに至っていた。

それに人の街の方や、国が管理している迷宮に潜った方が選り良い素材も多く手に入る。

アルトの中には魔導銃以外のアーティファクトの構想が色々浮かんでいる。

だが作製には質の良い素材が不可欠。その為やはり出て行くと決めたのだ。


そう決めたアルトは族長宅に集まった者達。

族長のニュートラル、カンスとシーラ、そしてミュリアに、満月の森の集落が無くなった為族長宅に泊まっているシルフィとエト。そして丁度居合せた住人達。

それら集まりし者達にそう告げた。

『いきなりは出て行かない』そう言ったのだ。だからこそそれを告げず行くのはどうかと思ったのだ。

そしてアルトが話し終えると思いの外、引き止める声が多い。

特にカンスとシーラだ。

だが、なんと言われようと此処を出る。


説得して来たがアルトの意思が固いのを知ると、渋々納得してくれた。


「悪いな。まあ、ここに関しては【魔除けの結界】の効果を更に上げておいたから、早々邪気を持つ者は近寄れねぇし問題ないだろ。…また尋ねに来るからよ」

「…残念じゃが、致し方なしじゃのぉ」

「本気かよ、たくっ。折角人間で初めて信じられる、友になれたってのに」

「ホントね…貴方がここに来て、雰囲気が良くなった気がするしね」

「また来てくれよぉ!そして…」

「「「また美味いご飯を作ってよぉ!!」」」

「……説得してきた理由って飯なのか?…まあいいや。尋ねた時には、また美味いの御馳走してやるから」

「「「やった――!」」」


呆れながら苦笑した。

全くだな、本当に…


さて、報告は済んだ。

あとは……


「俺は3日後にここを出て行く。ミリー、どうする?」

「えっ!?」

「お前さえよければ、付いて来るか?」

「でも、私が居ても…」

「俺は、あの時告げた言葉に偽りはない」

「あの時の言葉…あっ!」


俺がミリーに告げた言葉。それは、パートナーと言う言葉。

それに気づいたのかミリーは頬を染める。


「でも、皆を残して―」

「おいおい、ミュリア。好きな相手はちゃんと捕まえておけって。アルトはきっとモテる筈だ。ちゃんと唾を付けとけ」

「そうよ、強い、料理美味いの優良物件よ!逃しちゃダメ。私達の事なら心配ないから。だから行ってきなさい」


集落の皆の事を、残していくのが引っ掛かりになっていたようだが、他の者達は寧ろ付いて行かなくてどうするんだ!とミュリアの背中を押す。


「…あ、ありがと、うぅ、行って来るの。そしてちゃんと、帰って来るね」

「ああ、元気でやって来い。アルト、ミュリアをしっかり守れよ。ミュリアは俺達の妹みたいなもんなんだからな」

「そうね。しっかりね。もし、ミュリアを泣かせたら許さないからね」

「ああ、肝に免じておくよ……前からちょっと聞いて見たいと思ってたんだが、2人、息が合ってるしいつも一緒に行動してる気がするんだよな。もしかして付き合ったりしてる仲なのか?」


いつも一緒にいるしな。そう思っても不思議でないんだが、二人はキョトンとした後御互いの方を向くと笑みを浮かべあう。そして笑いながら教えてくれた。

なんと二人は双子なんだそうだ。気付くの無理だろ。と言うか全然似てないし……

俺は2人の答えに間の抜けた表情をしていたんだろうな。

皆笑っていた。ミュリアも。



そしてアレから3日が経過した。


集落の門の前に準備を終えたアルトとミュリア。

見送りにと代表してカンスとシーラの2人。族長のニュートラルは体調があまりと言う事で休んでいる。


「準備は出来たか」

「ああ、世話になった」

「そんなことないわよ。むしろ世話になったのは私達だもの」

「そうだな。お前がいなかったらどうなってかわかんねえしな。感謝しかねえよ」

「まあ、また何時か寄る気だから。おっと、そうだコイツを渡し忘れるとこだった。まずシーラにコイツだ」

「これって?」


此処を出て行くと決めた日にアルトは世話になった礼としてカンスとシーラの武器を改造する事にした。それぞれにカンスから片刃の大剣と質の良さそうな弓を預かっていたのだ。

”空間魔法”が付加されており大きなものでも収納できる不思議バックからシーラ用に改造した武器を渡す。

渡されたシーラは不思議そうな表情を浮かべる。

それは受け渡されたのが不思議な形の同じ形をした双剣だったからだ。


「ねえ、アルト?どうして剣なの?私の獲物は弓よ?」


「?」が浮かぶシーラ。そんなシーラにアルトは笑みと共に改造したこの武器を説明する。


「ああ、コイツは歴とした弓でもある。この双剣の柄の部分に連結部分があるんだよ。まず合わせて見ろ」

「ここを?…きゃ!?」

「おお!弓になったぞ!」


柄の部分を連結させるとガシャと言う稼働音と共に弓の形態に調整され剣の先の尖り部分を通して光の弦が張られた。


「コイツの銘は【アガート・ガルム】だ。弓と双剣の形を持つ俺特製のアーティファクトだ」

「アルト特製。…嬉しいのだけど、でもどうして剣も?私、剣はそれほど位の腕なんだけど?」

「それはだな。改造化する際に色々考えて弓だと接近されるとやはりどうにもならないと考えてな。なら弓と剣の両方を合わせればいいと思ったんだよ。でっ、完成したのがコイツと言うわけだ、。やり方次第ではコイツは相手を油断させられる。剣で応戦しつつ距離が開いた瞬間に弓の形態で相手を戸惑わせすかさず射貫く。逆もありだ。遠距離から攻めてくる相手をまず射抜く。躱された場合間合いに侵入される。その瞬間相手は弓は近接戦に不向きと油断するはずだ。そこをすかさず剣の形態に戻せば相手の不意を突いて倒すことが出来るってことだな」

「…なんていうか、そのありがとうね。最後の最後に凄い贈り物貰っちゃった気がするわ。その、大事にするわね」

「ああ、また来るときにその弓剣アガート・ガルムを使いこなせるようになっててくれればいい。それだけでいい。…さて、お次にはっと」

「おお!次は俺か……って、俺のあまり変わってねえ気がすんだが?」


シーラの改造されたアーティファクトに、自分のも何か凄い細工がされているんだよなぁと期待していたカンスだったが、アルトが取り出した武器を見て思わず期待外れだと言う表情を浮かべる。

アルトが取り出したのは以前同様に片刃の大剣だった。剣の大きさや形が異なるが、これがどのような機能を有してるのか皆目見当も得なかった。


「ふふ、まずはコイツ、【アガート・グラム】を握ってみろ。それで実感を得られるだろうしな」


そう告げるとアルトはカンスに大剣アガート・グラムを渡す。


「実感ねぇ。これでどう…うぉ!?なんだコレめちゃくちゃ軽いぞ!」


受け取ったカンスはまるで羽のように軽いアガート・グラムに驚く。


「そうだろうな。なら次に軽く剣を振り下ろして見ろ。それと振り下ろす瞬間に柄の部分にあるスイッチを押して見ろ。驚くし」

「なんだかよく分かんねえけど…―せやぁあぁ…おぉ!?」


カンスはアルトに促され両手で握るアガート・グラムを勢いよくまず上に上げる。そして重さを感じさせないアガート・グラムを振り下ろす。

その振り下ろす瞬間にアルトに教えられたスイッチをカチッと押すと、アガート・グラムの重量が急に増加した。

急な増加変化に驚き戸惑いながらそのままの勢いでアガート・グラムを振り下ろした。

ドカァアーンと、地面に振り落とされた剣により地面にはクレーターが出来ていた。

言葉を失うカンス達。満足の出来だと自画自賛するアルト。


「な、なんだよ、これ?軽かったり重くなったり、これがコイツの能力なのか?」

「正確には違うな。アガート・グラムの能力は硬度の変化だ。それと重力操作を加えたもんだ」


改めてアガート・グラムの説明をカンスにする。

このアガート・グラムの材料には”重力石”と言うアルトが作製した魔晶石を用いている。

硬度の強化によってアガート・グラムの強度が変化し通常は軽い硬度にし、相手を攻撃する際や相手の攻撃を防御する際に硬度を上げれば先の様に破壊力は上がるし、守りにも使えるのである。

そしてその能力を円滑に行わせるのが”重力操作”である。


「…ああ、なんか凄いもん貰っちまった気がする」

「しばらくは慣れること、だな。シーラもだが、そいつを使いこなせるように頑張れ。…そうだな、俺がまた此処に訪れる際にどれだけ使いこなせるようになっているか確かめさせてもらうからな。モノに出来てなかったら大いに笑ってやるからな」

「なっ!嘗めるなよ、必ず使いこなしてお前の驚く顔を見てやるからな!」

「そうね。ふふ、、修練してあなたの鼻を明かしてあげるわ!」

「そいつは楽しみだ」



そして2人にアーティファクトを渡しいよいよ準備が整い集落を出る。

そう思っていたのだが、そこに待ったが掛かった。


「…二人とも、待って」

「ん?お前は…」

「シルフィ?」


待ったを掛けたのはシルフィだった。

見送りにでも来てくれたのか?なんて思っていたのだが、目の前のシルフィはなんか旅に出る様な荷物を持っていた。

(…まさか?)とアルトとミュリアが思っていると、


「…私も、付いて行きます」

「いや、なんで?」

「…絶対付いて行きます」

「いや―」

「…付いて行きます」

「……」


繰り返される。意志が固いと見える。


「あはは。意外とシルフィって頑固なんだよ」

「…はい。絶対です。楽しみです」

「おい、良いのかアンタは?」

「はい。巫女様が決めた事です。快く送り出すのが付き人の役割です」


”巫女”の立場を持つ者が闇夜の国を出ていいのか?そう思っていたアルト。

最後に説得を期待したのだが一緒に現れたエトは止めるどころか送り出すのに賛成した。

…いや、付き人なら止めろよ。

これは連れて行くしかないのかな…はぁ。


そんな締まらないやり取りの後、アルト、ミュリア、そしてシルフィの3人で旅に出る。

アルト達の当面の目的地は【シュメール王国】。

かつて【英雄アルゴノート】によって構築された英雄の血を継ぐ王国。

その王国領内にある【英雄の遺産】を得る為に。




==========



~シュメール王国~

広い豪華な白質の広間。

その広間の中央には赤いカーペットが奥にまで伸びている。

そしてカーペットの奥に階段があり、その昇った先には黄金の玉座があった。

その玉座には1人の人物が座っていた。

この玉座には制約が施されており。この玉座に座れるのはシュメール王家の者のみなのだ。

その王家の血を持つ者のみが腰掛ける事が出来る玉座に座っている。つまりのこの座っている人物こそがシュメール王国を統べるシュメール国王その人だった。


広間には玉座に深々と座る王の他にも人が集まっていた。

その者は王国の宰相の地位の者や、王国の騎士団に所属する高位騎士、身分ある貴族が跪くように連なっている。


この場に集まった者はこれより行われる儀式を拝謁する為に集っていた。

それは、この世界の神として崇められている“精霊王”より神託を告げられし、この世界とは別の世界。つまり異世界から4人の【勇者】を招き寄せる儀式だった。


別世界の人間を招くと言う前代未聞の試みに興味津々と言った様子の者達。

そして王の宣言と共にざわつきのある空気が鎮まる。そして広間の中央に眩い光で満ち大きな魔法陣が描かれる。

空間内を覆い尽くす程の光が収まる。

集まりし者達は目を見開き驚きの声を漏らす。

描かれ召喚陣。その陣には、まだ年若い二人の少年と、二人の少女の姿があった。


この世界【アストラル】に異邦人が招かれた。

いきなりの事態に困惑する少年少女。

その困惑している招かれし者の中には、1000年前に【魔王】を倒しこの王国の礎を築いた【英雄】と称された少年に親い者の姿があった。



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