2-5.Ⅲ:翼…阿鼻驚嘆の地獄絵巻「VS帝国兵」
「…よし、問題なく“転移”する事が出来たな。あのウサ耳女から受け取った集落の座標は間違いなかったかな。上手く機能出来て良かった」
アルトとミュリアは先程までいた【新月の森】の集落にあった“オベリスク”を介して、【新月の森】集落の隣接集落である【満月の森】の集落跡に存在する“オベリスク”の前に立っていた。
“オベリスク”には認識している土地周辺から本体のある空間内に、害する意思のある者を拒み警報を
それは、この“オベリスク”に座標を記録する事で、記録した“オベリスク”の座標同士で“転移”する事が出来るのだ。
この事を知っているのは恐らく各集落の長である者と、この”オベリスク“の製作者であるアルトだけだろう。
この事が悪意ある者に知られれば悪用される為に秘匿されているはずである。
まあ、座標は一定周期で変化するから御互いに知らせ合う必要がある。
【新月の森・集落】の座標はアルトが、”オベリスク”の効能を上げた際に解析済みだった。
しかし、【満月の森・集落】にあるはずの”オベリスク”の座標を、この世界に帰還したばかりのアルトが知るはずもない。
族長に訊ねると渋々と言った感じではあったが座標を教えて貰った。だが、襲撃時に、恐らく
試してみたがうんともすんとも機能しなかった。
【新月の森】の集落から隣の【満月の森】の集落までは歩いて半日かかる距離にあった。
とてもではないが間に合わないだろう。
まあ、2年前(この世界では1000年)の、全盛期のアルトなら1時間もあれば辿り着く事も出来ただろうか。今のアルトの身体スペックは全盛期以下の状態だから。それにミュリアも一緒なのでと“転移”するのは必須であった。
アルトは一緒に“転移”したパートナーであるミュリアに目を向ける。
……何だかご機嫌斜めのようだった。
ミュリアはアルトを見上げる様に頬を膨らませつつ『怒ってますよっ!』とジト眼で睨んでいる。
「ど、どうかしたか、ミリー?何を怒ってるんだ?」
「……むぅ!アルトぉ、いきなり
「……それはすまない。急いでいたしあとでいいかなって思ってだな…」
「今度からはちゃんと説明して!お願いだからっ!」
「……すまん」
説明もなくいきなり“転移”させた事に対して怒っているミュリアに、配慮が足りなかったと素直に謝った。…なんか最近こんなのばっかりな気がするとどこか懐かしい気持ちになるアルトだった。
ミュリアに誤り機嫌が直った所で…2人は周囲に目を向ける。
酷い有様であった。家は燃え廃墟となり崩壊しており至る所に血生臭い跡が残っていた。
恐らく生存者はいない事が分かる。ミュリアも悲痛の眼を向けている。
兎に角とアルトは眼を閉じると、無駄だと思うが“気配感知”を集落全体を範囲に発動させた。
生き残りがいるとは思えないが念の為と、恐らく引き上げたであろう帝国の騎士がいる可能性もあり集落全体を感知できる規模で発動したのだ。
結果は反応なし、だった。
「………何も感じないな」
「……そうなんだ…酷いよ…」
感知できるものはないと目を開けながら呟く。
ミュリアは、どうしてこんな酷い事をするの!と帝国の人間に対して憤りをその眼に宿していた。
アルトは、ミュリアの頭を優しく撫でる。
ミュリアに憤りのある表情は似合わないと慰めるように撫でてやる。
ミュリアも「うにゅ~」と少しずつ落ちついてきた。
何だか蕩けた様な真っ赤になっていたりするミュリアだった。
+
アルトは正確な帝国の拠点を探るべく“碑眼”の力を使った。
“碑眼”は己の必要な事象を解析し理解する力がある。
今回使用するのは“周辺解析”である。
魔力量によって解析範囲が異なるが、俺の魔力量は10000を優に超えている。
10キロくらいなら問題なく感知解析できる。
そしてこの集落から北西2キロ程離れた位置に1つの可能性のあるポイントを発見した。
恐らく感知したこの場所で間違いないだろう。多くの人間の反応の中に、一つだけ人間以外の反応を感知したのだ。
現状で1つの反応のみと言う点から、【満月の森】から連れて行かれた集落の住人でなく、今回助けるべきターゲットである【シルフィ】と言う名の少女で間違いないと判断した。
アルトはその事をミュリアに伝えるとすぐさま行動に移した。
+
1時間後――
俺達は周囲が岩場である場所にある、石造物の砦に来ていた。
岩場の隅に気配を殺しながら隠れるアルトとミュリア。
「―ここに居るの、シルフィ…」
「あぁ…ここまで近くまで来れば解る。ここに居るのは間違いないだろう…」
小声で話し確認する。
この砦の中から”碑眼”の右眼から
ミュリアから聞いてはいたが、中々上等な魔力量を感じる。
少し疑問にも思っていたりする。
この少女の魔力は巨大と言えるものと推察できる。正直この少女の潜在能力はこの砦にいるであろう人間達を凌駕している。
なのに、抵抗する事もなく捕まった事実が妙に違和感を抱かせる。
「…さて、これからだが。作戦はいたってシンプルだ。俺がこれから思いっ切り派手に暴れて、砦にいる奴らを誘き寄せる。その隙にミリーが、建物内に潜入しターゲットに接触、助け出すだ」
「…危険すぎだよ!いくらアルトが強いからって正面から1人でなんて…」
「…ミリーにさせるよりはいいはずだ。…なに、感知して見たが建物内には精々、40人くらいの人間がいるだけだ。今回の装備で十分対抗できる。…だから、ミリーは気にせず、その友とやらを助けて来い!」
1人陽動として立ち回るアルトを心配するミュリア。そんなミュリアに問題なんてないと余裕の表情で答える。
ミュリアも友を救うには陽動を行い中の人間を引っ張り出さないといけない、という事を理解しそれを成す事が出来るのもアルトだと分かっている。
色々葛藤するも最終的にはアルトのプランを了承した。
「…無茶は駄目だよ!絶対だよ!」
「分かってる。ちょっとは信じろ、
「……分かったの。でも、うっかりはしないでね」
ちゃんと“うっかり”しない様にと釘を刺される。
その言葉に、苦笑しながら自分の事を把握されてきたなと思うのと同時に昔にあの娘にも同じ様に釘をよく刺されていたなと思うのだった。
+
「さてっと……そんじゃまぁ、派手に暴れるとしますかっ!」
俺は気配を殺しながら砦の正面の門の前まで近づく。
俺が”気配遮断”を発動させると肉眼で捉える事すら難しくなる。
と言うか警戒心がまるでない。夜中である事と自分達帝国に襲撃を掛けてくる者がいるわけがない、とでもいうかのような無警戒さに呆れる。見張りすら立てていないのだから。
まあ、こうしてやすやすと近付けるのだから帝国の馬鹿共に感謝しておくとしよう。
俺は制服の上着のポケットから大きさ10cm程の真っ赤な魔晶石を取り出す。
真っ赤な魔晶石の中には”火“の属性の術式が籠められたプレートが内包されている。
俺は取り出した
そして魔力が籠った事でレッドクリスタルが紅い光が漏れてくる。起動成功だなと、俺は左手に握ったレッドクリスタルを屈強そうな砦の門にヒョイっと投げる。
投げられたレッドクリスタルはそのまま門にぶち当たる。その瞬間一際大きな真紅の光と共に爆発音が木霊した。
砦の門は木っ端微塵に吹き飛んだ。
「うん。純度の高い魔石に“
今まで作っていた純度の低い魔石を材料にしていた“魔晶石”と違い、今回のは時間もなかったが簡単な急ごしらえで作製した純度の高い“魔晶石”だ。まあ威力は先の通りだな。
火力がイマイチ足りない気がしたが、それはまた改良するかと考えていると、いきなりの爆音と砦の扉が跡形も無くなくっているのに驚く帝国の鎧を纏った者達が出てきた。
出て来た者達は驚きと共に、こんな事を仕出かした犯人、つまり俺に対して叫ぶ。
「なんだあぁ、これはぁ、一体どこのどいつだぁ!」
「誰だよっ、こんなふざけた真似しやがったのわあぁ!」
「おいおい、こちたぁ、寝てたとこなんだぜぇ、ただで済むと思うなよぉ!」
おうおう、皆殺気立ってるねぇ、中には眠っていた奴もいるようだ。
皆機嫌悪そうだ。
……ふふ、悪いがもっと、嫌…最悪の悪夢をプレゼントしてやるとしようか。
コイツらの命を地獄廻りの片道切符として!
俺は口角をニヤッとあげながら”気配遮断”を解除する。
そして帝国の雑魚共にフレンドリーな感じに声を掛ける。
「やあ!帝国のハイエナの諸君!君達には俺がこれから行う実験のサンプルになってもらうよ」
「っつ!?」
「てめえ、何処から、現れやがった!?」
「こいつは、テメエがやりやがったのかぁ!」
「なんだ、コイツの格好は?見た事ねぇぞ?」
「人間見てぇだが、何処の国のもんだぁ!」
眼の前にいきなり現れた俺に動揺するも、流石に訓練された騎士と言った所だろうか、
意外と連中の対応の柔軟性に感心しつつ俺は今回の目的、“実験”と〝陽動”と”殲滅”を始める。
俺は体から魔力を漏れ出させる。
俺が戦意を見せた事で、前衛であろう騎士達が剣や槍を構え殺気立つ。
相手は1人で襲撃して来た命知らず、多数でさっさと片付けようと言った魂胆だろう。
連中が一歩踏み締ようとした瞬間だった。
“ズドォ――ン!!”
この世界には馴染の無いであろう炸裂音、銃声が響いた。
「なっ、なんだ?…ヒッ!?何が起き―」
「おいおい、余所見とは舐めてるのか?」
まあ驚くのも無理はないだろう。不可思議な炸裂音がした直後、自分達の仲間6人が倒れたのだ。
今まさに俺に向かって来ようとしていた前衛の4人に、後方で呪文詠唱を行っていた2人だ。
しかも6人共狂いなくそれぞれの額を撃ち込まれ絶命しているのだから其方の方に気を向けるのは仕方ない事だろう。
だが…それは此処、戦場では命取りと言える愚行であった。
俺の声にハッと俺の方に意識と顔を向けた瞬間、一発の銃声と共にその男も先に撃ち殺された者達と同じ末路をたどった。
残っている者達は兎に角俺に集中した方が良いと困惑の中判断する。
「な、なんなんだ、きさま、は…その武器は何だ?」
「見た事も、ねえぞ…あんな武器」
「弓とかでもねえし、魔法でもねえ、ぞ」
「うん。お前達が知る必要はないよ……どうせ、ここで死ぬんだからな」
俺の右手に構えられている未知の武器の威力に戦慄して青ざめている者達に、俺は冷酷で無慈悲な宣言を行う。
連中はその宣言を聞いた瞬間、絶叫と言える叫びながらなりふり構わず向かってくる。
殺される前に殺すって感じだろうな。
まだ不慣れの
叫びながら必死の形相で槍を繰り出してきた。
俺はその槍を、体を逸らして躱すと左の【雷切】でそいつの腕ごと槍を切り裂く。それと同時に右の大口径六連リボルバー式マグナム銃【バリスター】でそいつの頭を撃ち抜き絶命させる。
絶命したその男だけでなく、先に絶命した哀れな者達は銃痕の周囲は焼き漕がれており撃ち抜かれた方は中身がぶちまけられる様に死んでいる。
これは俺の【雷切】の力である“雷”のオーラを纏う“纏雷”の効果である。
今回使用する弾丸は通常弾と炸裂弾のみだ。通常弾であれここまでの威力が出るのは可笑しいが、その威力を作り出しているのが“纏雷”である。弾丸が発射される瞬間“纏雷”によって威力、速度が増幅されているのだ。言うなれば一種のレールガンの状態となっているのだ。
そして【雷切】。切断力を最高度に強化されており、鎧であろうとまるで紙をスパッと切るかのように切断できる。
「なんなんだ、コイツわあ!…おい、他の奴も応援で呼んで来い!」
「りょ、了解!」
(ほぉ、良い判断だ…さてミリー、後はしっかりやれよ)
俺は応援を要請しに行った奴は無視して他の者を相手取る。
俺の目的の一つである陽動は応援として砦内の殆どの者を引き摺り出す事で、砦内を空にするのが目的だからだ。
「くつぉそぉおおぉ!」
「死ねえぇえええ!」
剣を持った鬼気迫るようで未知の武器に脅えを含んだ
俺は向かってくる男2人に右の【バリスター】の銃口を向ける。そして引き金を引こうと指を引く。
未知の兵器を向けられ「ヒイー」と悲鳴を漏らし恐怖で顔が歪む男。
だが銃声はなかった。
間抜け顔をさらした2人の男は「間抜けがぁ、不発かぁ!」とニタァとした表情を浮かべる。
そんな表情が変化する面白い馬鹿共に絶望を笑み共に与える。
俺は一言告げる。
「――“
その一声に反応して【バリスター】の弾倉が光を放つ。
そして引き金を引く。
その瞬間四発分の銃声が轟く。
ニヤついていた馬鹿2人と、その背後にいた男2人を狙った。四人共「なんで!?」と言った表情のまま絶命した。
【バリスタ―】はただの銃ではない。魔法の力を組み合わせてくみ出された兵器、魔導銃なのだ。
銃の最大の欠点はその次弾の装填である。
このバリスターにはその欠点を補う機能としてモノを移動させる技能”転送”が組み込まれている。”オベリスク”の機能とほぼ同じものである。ただこのバリスターは銃弾の補填のみを機能としている。
起動コードである”
つまり予備の弾が存在する限り弾切れの心配をする必要がないのである。
俺の蹂躪劇は援護に着た者達が到着するまで続く。
既に10名以上がバリスタ―と雷切によって絶命している。その殆どが無残な、眼を覆うような残酷的な死に方をしていた。
銃弾によって頭部を撃ち抜かれ脳天を吹き飛ばされたり、鎧ごと体の部位を、紙を切るかの如く鋭さで切断された者達。
“阿鼻叫喚の地獄絵巻”
そんな言葉が相応しい空間が出来上がっていた。
まだ生き残っている騎士達は「まだ、増援はまだかぁ!」と叫んだりと、明らかに俺に恐怖していた。
それはまるでこの地に死神が降臨したかのように映っているだろう。
俺は叫んだ騎士に引き金を引き頭部を撃ち抜く。
圧倒的だった。
「“
「……なんだ…これ!?」
「…おい、おい…」
「なにしてやがんだぁ!早く手を貸せぇ!多勢でこの敵を葬るんだよぉ!!」
増援で着た騎士はあまりの光景に言葉が出ず、他の騎士は集中して俺を殺す様に指示を飛ばす。
俺は内心にニヤリとする。
【バリスター】と【雷切】による圧倒的な蹂躙劇を行う傍ら、”碑眼“の力で砦内の反応を探っていた。
そしてどうやら砦内にいる人間は目的の
これならミュリア一人でも切り抜けられると判断する。
「さてっと!―残りのゴミ掃除と行きますか!」
今回の目的もほぼ達成できた。
今回の最大の目的は初めて作製したアーテイファクト、
正直満足の出来だった。出来過ぎで銃に頼り切りになり依存し溺れないか注意が必要なくらいだなと、問題点はそれくらいだった。
威力も問題なく、弾丸も特殊弾を使う事無く済んだ。威力の調整も幾つか理解した。貫通したりして他の罪なき人を殺すのは流石に忍びない。
後、1人でと提案したのはこの血生臭い残酷な光景をミュリアに見せるのはどうかと言う配慮である。
・・・・・・
そして、数分後増援に向かって来た騎士を含めて、アルト1人によって殲滅された。
阿鼻驚嘆の地獄絵巻。
その言葉がふさわしい風景が出来上がった。
ミュリアと合流前にアルトは煆焼石を取り出すと帝国騎士の遺体を燃やし尽くした。
+
ミュリアSide=^_^=
アルトの無双が終わる、少し前。
アルトが陽動を始めた証で、大きな爆音が響いた。
建物中にいた多くの人間達が正面、つまりアルトの方に向かった。
ミュリアは、息を殺しながら目的のシルフィの捕まっている牢を目指した。
「確か、アルトによれば、こっちに…アルト、大丈夫かな…」
1人多数の相手をしているアルトを心配しながらもミュリアは目的地に近づく。
ミュリアは気配を薄くする黒いローブを纏い、自身の能力である”五感感知“で相手の位置を把握しながら進む。
そして目的の牢に近づくと、ミュリアにもシルフィの存在がはっきりと感知できた。
(待っててね……もう少しで…?)
何やら更に騒ぎが大きくなってきた。
ミュリアの耳に、幾つかの効きなれない音が届いたりしていた。
周囲にいた騎士達も慌ただしく増援に駆り出された。
(アルト、やっぱりすごいんだなあ)
多くの敵を圧倒しているからこその相手の慌て様。
アルトの実力を信じ、残り少なくなった牢に近づく。
見張りは2人。
(いける…アルトの作ってくれた好機、逃さない!)
「一体、どうなってんだ!?」
「おいおい、他の奴らの慌て様、尋常じゃねえぞ」
「俺達は、ここから離れられねえしよぉ」
「そ、そうだな…今日の戦利品を逃したら、俺達が殺されるしな」
「……残念」
「あぁ?…ぐはあ!?」
「どうし…はあぁ!?」
油断している2人の男との距離を詰めると同時にミュリアは持っていた杖で腹部と後頭部に一撃を入れ気絶させた。
「眠っててね…」
ミュリアは地属性の拘束の魔法を気絶している2人に掛けると、牢に近づく。
牢の中には、幼い頃に知り合い友達になった、シルフィ・ビスマルクが椅子に座りながら眠っていた。
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