2-3.Ⅲ:翼…洞窟探索③
ミュリアに昔の事を語った後、御互いに2時間程休息する事にし、その後一気に最下層まで降りる事にした。
まずは、アルトが見張り番を務め、ミュリアが2時間休むことになっている。
始めての洞窟探索に緊張もあったのだろう。ミュリアはスヤスヤと寝息を立て始めた。
安心する様にアルトの肩に頭を乗せるように寝入るミュリア。
そんなミュリアを微笑ましそうに見つめるアルト。
「無邪気なもんだな……」
2人の周囲には魔物除けの結界が施されているので、アルト以上の実力を持つ魔物以外は決して近付くことはない。
実際敵の反応がすると近付こうとする魔物もいたが、その魔物は結界の範囲に近付くだけで嫌な予感=敵わない脅威を感じさせられ踵を返していくのだった。
中には鈍感な魔物もおり近付いていくが、アルトの”気配感知”に引っ掛かった時点で頭上に仕掛けてある罠が発動し押し潰され絶命するのだった。
「……ムニャ、ムニャ…アルト~」
「…俺の夢でも見てるのか?」
微笑みと寝言にミュリアが起きない様に左はミュリアの寄り添っているので、開いている右手でアルトはミュリアのフワフワとした髪を撫でるのだった。
「…こうしてるとなんでだろうな。なんでか、アイツの事を思い出しちまうことがあるんだよな。…似てない、はずだ。種族も違うし髪の色も違う。それにアイツはもっと胸があったしな」
「……ムニュゥ…胸なんて、飾りなのぉ…ムニャ、ムニャ…」
「起きてるのか?…いや、寝てるか……気になる事柄か…フフッ」
ミュリアもない事もないのだが、どうやら隣集落に親友がおり、その親友は自分と同じくらいの背丈や体格なのに胸が大きい娘がいるらしく、羨ましいと思っているらしい。
微笑ましい笑みを浮かべながらミュリアが起きるまでその髪を撫でて過ごすのだった。
+
あっと言う間に2時間が経過した。
交代の時間になったのでいまだに寝息を立てているミュリアを起こすため声を掛けるアルト。
「おぉい、ミリー!2時間経ったぞ!起きろぉ!」
「ムニュウ?…ムニュ、もう時間、なのね…ふわぁ~」
「ほい、おはようさん。そんじゃ、次の見張り番悪いが頼むぞ――」
「はぁい…って、もう寝てる!?」
腕を組みながら既に眠りに入っていたアルトに「寝付き早っ!」と思わずツッコミを入れるミュリア。
「……なんだろ、既視感を感じるわ…」
ミュリアは隣集落に住んでいる親友の事が頭に浮かんだ。
あの子も物凄く寝付きが速いし、と。
「……アルト」
「スー、スー」
小声で呼んでみたが完全に寝入っている様だった。
無論、敵害となるものが近づけば瞬時にアルトは目を覚ますことが出来る。
休眠する事で魔力の回復に繋がるのでアルトは寝入るとなかなか値を覚ますことはないと言えたのだった。
時折周囲をキョロキョロと警戒する様に目を向けるミュリア。
結界の効果もあり近付く魔物はいない。
(ほんと凄いな、アルトの作るアーティファクトって…)
そう思った後、ミュリアはキョロキョロと視線を動かした後、寝入っているアルトのその顔を見つめる。
安らかな表情で眠るアルト。
普段は大人みたいで、大胆不敵な姿が格好良いのだが、今はまるで子供のようだと思うミュリア。
「……はっ!私ってば何を…むにゅう…」
アルトの表情を見つめると一か所に視線が寄ってしまうミュリア。それは定期的に寝息を繰り返すアルトの口、いや唇だった。
アルトの唇に視線が集まるとミュリアは頬を染めこう思っていた。
『あの時みたいにキスしたいなぁ~』
だった。そしてそんな思いを考えにミュリアはさらに真っ赤になると、
『寝込みを襲うなんてダメだよぉ!』
と自分の考えを否定し真っ赤になっている自分の頬を抑えるように両手を添え羞恥に悶えていた。
そんなことをアルトが目覚めるまでの間繰り返すミュリアだった。
寝起きのアルトは、なぜか真っ赤になって、なぜか恥ずかし気なミュリアに不思議そうな表情を浮かべるのだった。
+
「さてっ、行くか」
「う、うん」
「…どうした風でも引いたか?顔まだ赤いぞ?」
「ア、アルトは気にしなくてもいいの!――」
(はふぅ…凄く恥ずかしいよぉ~)
(変な奴だな……まさかな)
そんなやり取りの後、洞窟内を探索しつつ出会う魔物を倒していく。
下に降りていく毎に魔物のレベルも少しずつ上がってきたが、そこはチート技能持ちのアルトと、4属性持ちの規格外の魔法の使い手であるミュリアの敵ではなく、順調に攻略を進める。
話しながらの余裕すらあった。
そしてアルトとミュリアはこの洞窟の最下層と思われる階までやってきた。
そこは一階層同様に何もない空間だった。
「ねぇ、アルト此処が最後みたいだけど。どう?」
洞窟内の探索解析にとアルトは解析ツールの眼鏡型アーティファクトを付けていた。
「うぅん…この下にやっぱり何かあるみたいなんだが…とりあえず周囲を探すか。もしかしたら何かのスイッチがあるのかもしれないしな」
「分かったの…!?」
「なんだ、地震か!?」
とにかく周囲を確認して回ろうとしたそのすぐ後だった。
急に洞窟内が振動を始めたのだ。
「地震!?なに、これ!?」
「何かの仕掛けか?だがそんな気配はなかったはずだが…!?」
振動は1分くらいで止まった。
とりあえず地震が止まった事にホッとする二人だったが、次の瞬間に2人の足元の地面に亀裂が走ったのだった。その亀裂はどんどん広がった。
そして――
「お、おいおい!?まじか…」
「あ、アルトぉ?」
足元の地面に亀裂が走っていく様に嫌な予感がしたアルト。
今アルト達がいるのは空間内のほぼ中央部。降りてきた場所まで走ろうものなら亀裂が早まる可能性が多分にあった。
走れないなら空を浮遊するしかないと考え、アルトは風の浮力を起こす魔晶石を取り出すと、その魔晶石に魔力を注ぎ起動させようとした。
だがなぜか発動しなかった。
試しにとミュリアも”風”の魔法を発動しようとした。
だが、結果は風の魔晶石同様になぜか発動する事が出来なかった。
まるで魔力の発動を遮断する何かがあるかのように。
「うん。覚悟しとく方がいいな、これは…」
「そんなぁ~」
その一言を最後に2人の足元は崩落したのだった。
「あぁあああああああああー!!?」
「うにゃああぁあああああー!!?」
そして二人は絶叫を上げながら崩落に巻き込まれ、最下層よりもさらに下に存在した問題の階層に落ちていくのであった。
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