2-3.Ⅱ:翼…洞窟探索➁
洞窟に入って数時間が経過していた。
アルトとミュリアは現在15階層辺りで休息を取っていた。
洞窟の壁を背にしながら休む二人。
2人の周囲にはアルト特製の”威圧”が籠められた魔物除けの結界を発生させる魔晶石が設置されている。
15階層まで下りてきたが、2人が苦戦するまでの難敵と言える魔物に遭遇することはなかった。
「さてっと」
アルトはリュックから今日今現在手に入れた素材や魔石を取り出し並べる。
「何度見ても不思議だね、その鞄」
リュックの容量以上の物を次々取り出し並べる様子を不思議そうな眼差しで見つめるミュリア。
アルト特製の”空間魔法”が付加されている鞄なのだ。
この鞄に収納可能容量はトラックのコンテナくらいなのである。
もっとも、
「”王鍵”に比べれば小物入れくらいだけどな」
「”王鍵”?」
アルトが嘗て所持していた3つの宝物。
その一つが”王鍵”である。
”王鍵”とは、最高位の魔法と呼ばれる”空間魔法”を利用して生み出されたアーティファクトである。無論、製作者はアルトである。
自身の持つ”
この”王鍵”の収納可能空間領域は大陸一国分はあると考えている。と言うよりアルト自身も把握できない程の規模であるとも言える。
アルトが1000年前(本人としては2年前)に作製したアーティファクトの全てがこの”王鍵”の中に封印されている。
そして、その”王鍵”はこの世界にある【三大迷宮】の何処かに封じられている。
そうアルトはミュリアに説明すると、ミュリアは只々驚くしかなかった。
アルトは洞窟に入って入手した素材や魔石を並べると確認する。
「うぅん、コレとコレを組み換えれば、アレになるか…それにコレも……」
「ねぇ、アルトぉ…アルトぉってばぁ!…むうぅ!」
考えに耽り始めるアルト。
集中しているのかミュリアが声を掛けているのだが気付くことなく試行錯誤を続けるアルトに、ミュリアは頬を膨らませる様に不満一杯になるのだった。
試行錯誤し始めてしばらくしてアルトは思考から戻る。
「うん。一先ずあの二つの目途は付いたな。ただなぁ……どうした、ミリー?フグみたいに膨れて?」
「むぅ…やっと戻って来たの……って誰がフグ?みたいよぉ!」
今回の素材集めの目的である3つのうち、2つの作製の目途を付けたのだが、一番作製を行いたい物の素材が足りない事に残念感を抱きながら、そう言えばとミュリアの方の目を向けると頬を膨らませたミュリアの姿が映る。その姿に膨れた様子がフグのようだなと告げたのだ。
そしてミュリアもそのフグと言うものが何かはわからないが馬鹿にされた例えである事は何となく理解し声を荒げ文句を言う。
ハハッと笑うアルト。
怒るミュリア。
このやり取りにアルトは只々懐かしさを思い出していた。
昔…
「むぅ~」
「そろそろ機嫌を直せよミリー。悪かったからさ」
「むぅ………反省してる?」
「ああ、悪かったよ」
「…なら許してあげる。…あっ、そうだ!ねぇ、アルト、昔の事を教えてくれる?」
「――昔?」
「うん。アルトが”英ゆ―」
「悪いが俺が”英雄”なんて呼ばれた時の事は語るつもりはないぞ」
はっきりと拒絶するアルト。
アルトにしては”英雄”と呼ばれる事になったあの大戦を語る、つまり【魔王】との事を語ることに値する。それはアルトの心の奥にある悲しみに触れるも同義なのだった。
「えっと…アルト、怒ってる…」
「……”英雄”」
「えっ?」
不機嫌そうな表情のアルトにどうしてそこまで怒った風なんだろうか?と困惑気味に尋ねるミュリア。
そのミュリアに、アルトは声を紡ぐ。
「……”英雄”ってやつが何か知ってるか?」
「ん?それってアルトの事でしょ?」
「あぁ、言い方を変えるか。ミリーは、何をもって”英雄”の称号を得るかわかるか?」
「……”魔王”を倒すこと?」
アルトの質問を考えたがミュリアに思い浮かぶのは【魔王】を倒した事。そしてその後の戦後の平定を行った事だった。
アルトはミュリアの答えに首を振る。
「それは結果に過ぎないな。間違いではないが違うとも言える」
「どういう事?よくわからないわ」
「…俺は――俺は、”英雄”になんて興味はなかった。ただ”アイツ”を止める。それしか考えていなかった。結果として俺は”アイツ”をこの手で討ち”英雄”なんて持て囃された。俺は――”英雄”なんて望んでいなかったんだよ」
「望んでいなかった…」
(時々、アルトの会話に出て来た”アイツ”ってもしかして…【魔王】の事、なんだ。…それに、今のからアルトと【魔王】は親しい間柄だったんじゃないの?)
(…ハア…余計なことを思い出したな、まったく)
「”英雄”ってのはなミリー。何かを成したことを周りが騒ぎ奉る存在の事を言うんだ。自ら望んで行った行為では真の意味で”英雄”とは言えないんだよ。俺は望んでいなかった。不本意にも得たモノなんだよ。だから、悪いが俺を”英雄”扱いするのは勿論だが、その経緯を俺の口から語る気はないってことだけ知っておいてくれ。まあ、それ以外の事だったら昔の事を教えてもいいぜ」
「…わかったわ。これからは気を付けるね。……それじゃ、昔の事教えてくれる?話せる範囲でいいから」
「あぁ……そうだなぁ――」
その後、アルトは昔の事をミュリアに語った。
昔を思い出すように語るアルト。時折思い出し笑いを浮かべたりするそんなアルトの語りに、ミュリアは”アイツ”=【魔王】に興味を抱き始めていくのだった。
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