2-2.Ⅳ:翼…魔法と属性化身

次の日の朝。

準備を終えるとミュリアを伴い素材集めに向かった。


何やら思案顔のミュリア。

恐らく昨日告げた助言を参考に自分になりに、自分の能力を生かした戦い方について考えているのだろう。

ふとミュリアがアルトに尋ねた。


「ねえ、アルト?少し考えてみたんだけど聞いてくれる?」

「ああ、いいぞ。それで?」

「えっとね。まず私には普通の獣人族の人より高い魔力があるんだよね。私、その魔力を有効に使えたらって考えたの」


通常の獣人族には魔力を持つ者は少ない。だが、ミュリアには今のアルトに匹敵する魔力量を秘めているのだ。

ミュリアはこの高い魔力値を生かせる戦術を考えていたのだ。


「その、私にも使えるのかな、魔法?」


ミュリアは魔法を使えるなら、今現在魔法の使えない状態のアルトの役になるのではと考えたのだ。

思案そうに腕を組むアルト。

「そこに行き着いたか」と考えていた。アルトとしては「身体機能を生かした能力活用」を考えていた。

たしかに膨大な魔力があるのだから魔法を有効活用するのは得策である。

魔法とは幾つかの制約があるが、魔力さえあれば誰でも習得する事が出来る技能である。

自分の魔力を属性化身と呼ばれる存在に与える事で魔法行使が可能となるのだ。

中には例外が存在するが基本はこの属性化身と誓約する事で魔法行使が可能となる。


―属性化身―

それはこの世界アストラルに存在する霊的存在で、自然界其の物と言える存在なのである。

それぞれ、火の化身=フレイディア。水の化身=アクアタイン。風の化身=シルフ。地の化身=グランマーグ。

この4つの化身と契約する事で、それぞれ契約した化身の属性を司る魔法を発動する事が出来る。またこの4つ以外にも特殊な属性を持つ者にはその属性にあった化身と契約を行う事も出来るのだ。

ただ、契約できる化身は格一体なのだが、契約時に契約できる力量によって行使可能の魔法レベルが変わるのである。

?⇒神話級⇒帝級⇒殲滅級⇒精霊級⇒自然級と契約できるレベルが異なるのである。

因みにこの化身の頂点に位置している存在こそがこの世界その神存在として崇められているのが”精霊王=アストレア”である。


とりあえずアルトはミュリアに習得可能だと伝えその方法も教えた。

ミュリアはさっそくと契約の儀式を行う。

儀式自体は簡単と言える。

自身の魔力を自然界に注ぎ世界其の物と言える化身を引き込むことである。

この際に実行者の魔法適正によって契約できるレベルが異なる。


目を閉じるとミュリアは魔力を開放する。要領はルビーロッドへの魔力通しと同じなので問題なく行えた。

しばらくしてミュリアに向かって何処となく4つの光現れる。

その光は各4つの属性の色であった。

「おおっ!」と驚きの声を漏らすアルト。

そんな驚いたアルトの声を聴いて目を閉じていたミュリアは目を開ける。


「わわっ、ねえ、アルト?これが自然の化身?って言うの?」


自分の周りに浮遊している赤、緑、青、地色の光の神秘さのある綺麗な姿に声を漏らすミュリア。


「ああ、間違いねえな。それが”属性の化身”だ。しかし、驚いたな。まさか4つも集まるとはな」


アルトが驚いたのは、通常契約できるのは一つ、または二つの属性化身なのである。しかしミュリアに集まったのは基本属性四種であった。

ミュリアは魔法適正の方が優秀だと思うのと同時に、流石は”アイツ”の血筋だなとアルトは思うのだった。


「アルト?この後はどうしたらいいの?」

「ん?ああ、集まった化身を自分の中に招けば完了だ」

「私の中に――」


ミュリアは両腕を広げ受け入れる態勢を取る。すると浮遊していた化身の光は引き寄せられるようにミュリアの中に入っていく。


「これで?」

「ああ、これでミュリアも魔法を使う事が出来るようになったはずだ。まあたぶんだが集まったのはそれ程高いレベルじゃなかったし扱える規模もそうだな、精霊級位だと思うぞ。まあ四つも属性があれば色々応用も出来るだろうし、あとはミリーの頑張り次第だな」

「うん!頑張ってうまく扱えるようになるように頑張る!」


そのあとはアルトが各四種の低級の魔法をミュリアに教えると、その日はミュリアの魔法の扱いと慣れに重点を置きつつ素材集めに勤しむのだった。



「ん?なんだ、こっちから濃度の濃い魔素を感じるな?」

「ほんとだ。んん、行ってみる?」

「ああ、良い素材があればいいしな。ほんじゃ行ってみるか」


感じた魔素の方へと足を運ぶアルトとミュリア。

その感じた場所に辿り着くと、其処は中々大きめの洞穴だった。

その洞窟からは魔素が充満していて、なかなかの魔物に出会える可能性のある場所だった。


魔物は魔素のある所に発生する。その魔素が充満していればしている程、強い魔物に出会える。つまり質の良い素材が手に入る可能性が高くなる。


「…此処みたい、だけど……アルト、今からここに挑戦するの?」

「いや、洞穴タイプの迷宮だと流石に装備を整えてからの方がいいだろうな。魔晶石もいくつか消費したし、迷宮探索用の道具も用意した方がいいしな。だから今日はここまでにして、明日ここにきて挑むことにしようか」

「分かったわ。うぅん!私も始めて魔法なんて使ったから疲れちゃったしアルトの考えに賛成するわ」


今日の狩りを終えた二人は集落に戻る。

明日の洞窟探索に向けて、今日手に入れた魔石やら魔物の素材を元にいくつかのアーティファクトを作製を行い準備を整えるアルト。


「――こんなもんか…たくさんの素材を入れられるように”収納”効果を付加させたリュックに、おそらく洞窟内は暗いだろうから月の光を籠めた魔晶石…月光石に、洞窟内を解析できる眼鏡ってところだろうか。しかしなぁ、本当にしたいのはこっちだからなぁ。明日に期待だな…」


明日の為に作成したアーティファクトをリュックの中に入れつつ、机の端にある失敗作に目を向け溜息を付くアルト。

アルトの視界にあったもの。それはこの世界には全く馴染みのないはずの武器のレプリカだ。

”これ”の作製の練習で出来た”おもちゃ”を見てミュリア、カンス、シーラは「なに、これ?こんなの見たこともない…」と見たことのない”それ”を不思議そうにしていた。

1000年経過していようが”これ”の存在は、いまだこの世界アストラルにとって異物に値するものだった。

唯一成功したのは”それ”に使用する一つ10mm程の弾であった。

アルトはその弾を親指でピンと上に飛ばしそのままリュックの中に入れた。

「よし…」と準備を完了したアルトは風呂で体を洗ったのちベッドに入り眠りについた。


「…うぅん…これなら…あっ!これいけるかも♪…」


夕食後、アルトのアーティファクト作製を、その場で一緒だったカンスとシーラと見物した後、ミュリアは今日習得した魔法の練習を繰り返し行っていたミュリア。

魔法には、その魔法を発動する際に発動する魔法の式と言霊を捧げないといけない。

魔法の式とは魔法陣の事である。そして言霊とは詠唱の事を現すのである。

つまり魔法行使には魔方式である魔法陣を展開し、展開した魔法陣に籠められた術を解き放つ為の発動キーが詠唱を行う事で始めて行使できる、そういうプロセスがあるのである。

ミュリアも今日、魔法を習得し、始めは基本通りに魔法陣を形成し詠唱を行い魔法を発動していた。

しかし、その過程では魔法行使に時間が掛かり過ぎると、今のミュリアの魔法レベルでは戦いに向かないと判断した。

ミュリアはアルトに相談して良い方法がないか尋ねた。

すると、アルトからあらかじめルビーロッドに魔法陣を仕込んではと言う助言をもらった。

魔法を扱う者の大半は杖や剣にあらかじめ魔法陣を仕込み魔法発動の短縮を行っている。

ミュリアはアルトの助言の通りルビー部分に相性の良い”火”の魔法陣を仕込むことにした。

これにより”火”の魔法に関しては魔法陣の展開を省略する事で、あとは詠唱を唱える事で魔法を発動する事が出来るようになった。

しかし、ミュリアは満足していなかった。

魔法陣をルビーロッドに刻めるのは触媒にしている魔石の属性による。今のルビーでは”火”のみしか適応できない。つまり”火”以外の残りの”水”、”風”、”地”に関しては魔法陣を展開するプロセスが必要となる。

それではせっかく初級クラスまでしか習得できないとしても4属性魔法を扱えるアドバンテージを活かし切れない。

そこでミュリアは考えた。考えに考えを重ねて一つの可能性に行き着いた。

自分の持つ”固有能力”を、”血”を媒介にして体其の物に魔法陣を刻んでは如何だろうかと。

今までは自分の能力を”血癒ブラッドヒール”にのみと思っていた。

しかしミュリアはかつて自分によく似た能力をアルトから聞き知った。

かつて――1000年前に闇夜の者達をその”血”で支配した【魔王】と言う存在を。

自分にも似た力がある。ならば他の応用を行えるのではと考えた。

その結果、ミュリアは一つの”能力スキル”を習得した。

魔血設置ブラッド・スイッチ”。

自らの血肉に魔方式を刻み、刻まれし魔方式を読み取ることで直接魔法展開を可能にする能力スキルだった。この能力スキルによって詠唱も必要なくなったのだ。

ただ、デメリットもあった。

それは”魔血設置ブラッド・スイッチ”の行使には多くの魔力を必要とする事だった。

それでもミュリアには通常よりも多い魔力を秘めていた故に使い所を誤らなければ問題なく使えるなと考えた。

ミュリアはこの能力を編み出した後直ぐにアルトに伝えようと思った。

けれどミュリアはやめた。

明日の洞窟探索の時に初めて見せて驚かせよう!と思い直した。

ミュリアはワクワクとした楽しみのまま、どこか自分の体の一部が熱く疼いている不思議な感じ抱きながら明日に向けて休むのだった。




そして―――次の日、アルトとミュリアは素材を求め、洞窟に入っていった。


”伝説の英雄”と呼ばれた少年にとって忘れ難いはずの場所へと―――

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