2-2.Ⅲ:翼…ミュリアの可能性

悠々と倒したゴブリンの魔石や爪や牙を素材として剥ぎ取りながらミュリアの方に観察するアルト。

因みに、アルトの討伐時間は5秒である。

風の加護を付加させ殺傷能力を強化した剣で相手に”瞬足”を発動し接近、目にも止まらぬ速さで間合いに入られ混乱するゴブリン2体に剣を振るい首を飛ばし倒したのである。

アルト的には”瞬足”に速度も遅いと感じていたりする。


「ミュリアの戦いを始めてちゃんと見るけど、なかなかだな。……なんで初めて出逢った時に苦戦してたんだ?」


ミュリアの戦い方になかなかと感想を抱きつつ初めてミュリアと出会った時。つまり帝国兵との事である。正直言って今のミュリアならあの時の帝国兵位なら何とかなった気がするんだが?と不思議そうに首を傾げるアルト。


そしてどうやら決着したようでミュリアがアルトの方に意識を向けてくる。


「終わった……よ…」

「おう、倒せたんだな……どうしたんだ?なんで膨れてるんだ?」

「むう~何でもないよぉ~」

「ん?」


なんだか頬を膨らませ不満そうなミュリアにどうしたのかと不思議そうなアルト。

ミュリアはアルトが飄々と倒したゴブリンを素材に解体していて自分の方を気にかけていなかったと思い膨れていただけなのだ。実際はしっかり気にかけ見ていたので誤解であるのだが。

よくわからん奴だと首を傾げるアルトだった。


そのあと、ミュリアの倒したゴブリンも素材に解体した後、再びほかの魔物を求めて探索していたのだが、なぜか遭遇するのはゴブリンにゴブリンよりも大きめのサイズをしたゴブリンオーク、火を噴くレッドゴブリンと、なぜかゴブリン種ばかりと遭遇するのだった。

この辺の魔物事情はどうなってるのだろうか?

とにかくアルトとミュリアは発見したゴブリン種を狩り続けた。

レッドゴブリンには使い道のありそうな素材も手に入りとりあえず空も暗くなってきたので、今日はこの辺で終了し新月の森の集落に戻ることにした。


今日の事を集落に戻った後カンス達に教えるとなぜか笑われるのだった。


夕食(アルト製)を終えた後、アルトは自室に戻ると、早速とばかりに今日手に入れた魔石や素材を机に取り出す。

今日いくつか魔晶石を消費したので補充分を作成する為である。

「よし…」と作業に入ろうとすると部屋の扉にノックする音が聞こえた。

この時間にアルトの部屋を訪ねるのはミュリアしかいないと判断する。


「どうしたミリー?開いてるから入ってもいいぞ?」


そう椅子に座りながら入る許可の声を掛ける。

「おじゃまします~」と入ってくるミュリア。

開けたドアを閉めると椅子に座ってこちらに身体を向けているアルトの傍に寄る。


「どうしたんだこんな時間に?明日も素材集めをしに行くからしっかり休んだ方がいいぞ?」

「その、ね。私…アルトの役に立ってた?…一緒にいても迷惑じゃなかった?」


ミュリアは今日の事を振り返り不安そうにアルトに確認する。

ゴブリン程度なら問題なかったが火を噴くレッドゴブリンや体格のあるゴブリンオークには苦戦する事があった。その度にアルトに援護してもらい倒すといったこともあった。

「なんだ、そんなことか?」と苦笑するアルト。そんな苦笑するアルトに「私は真剣なんだよ!」と頬を膨らませ抗議するミュリア。

アルトはミュリアをベッドに誘うと隣に座らせる。

優し気にミュリアの髪をなでながらアルトは声にする。


「まず最初に言っとくぞ。俺はミリーが役に立っていないなんて思っちゃいないぞ。むしろ俺の想像以上に戦えてるから驚いてたくらいだぞ?特に最初のゴブリンなんてそうだ」

「あっ…ちゃんと見てくれてたんだ」


あの時は見てくれてないと誤解し不満だったが、誤解だと知り嬉しそうに顔を緩む。アルトはその様子に苦笑するとミュリアの頭をさらに撫でる。撫でた時に猫耳に触れ「にゃ、にゃ~」と羞恥から赤面するのだった。


「それにな、ミリーにはミリーにしかできない戦い方ってやつがあるんだ。それは今の俺じゃできないことでもあるんだ」

「私だけの戦い方?それって?」

「まずはミリーの持つ能力特性を把握し伸ばすことだな」

「能力特性……」


アルトは一つ一つミュリアの持つ可能性を教えていく。無論全て教えるのではない。

教えられたものは自分のモノにはならない。それがアルトなりの自己の高め方なのである。


「まずはそうだな。人には3つの能力特性があるのは知ってるな?」

「えっ、うん。たしか、その人しか扱えない特別なもので、たしか”固有能力”だよね?」

「そうだ。”固有能力”、俺の”王権律レガリア・ウルク”なんかがそうだな。ミリーの”血塊源界ブラッド・ヴェイン”なんかもそうだ」

「うん。私のは血を媒介に相手の人を癒すことが出来るものだね」

「まあ、それの他にも使い道はあると思うが、一先ず次だな」

「次は、えっと種族特性だよね?」

「正確には”特殊技能”だな。ミリーの場合は獣人族特有の身体強化だな。聴力の機能が発達しているんだよな。今日の戦いの中でもよく不意からの攻撃に反応していたみたいだな」


五感強化による効果で不意の対応にも対処しやすい利点がある。

他のも通常の習得できる技能について教えると、ミュリアがアルトに真剣な表情で願う。


「ねえ、アルトは私の能力の使い方を、その、よく知ってるんだよね?だったら―」

「まあ、そうだな。アイツと同じなら本当の使い方を教えられるだろうがな。だが、自分の技能の使い方は自分自身で見つけるしかないんだよ」

「自分自身で?」

「そうだ。他人から得たものでは真に得られるものがないからな……まあ助言くらいはするがな……」

(俺が“アストレア”のバカから学んだようにな…)

「むー…」



そんなミュリアにアルトは3つ助言をした。

1つは、自分の種族特性をもっと理解する事。

1つは、自分がどのような戦闘タイプかを理解する事。

1つは自分の固有能力をどの様に組み入れるか。


これらを組み合わせる事でミュリアには多くの可能性を秘めているとアルトは伝えた。

考え込んでいるミュリア。「むむ…」と。


そのあとミュリアは「1人で考えてみるね」と自分の部屋の方に向かった。

部屋を出て行ったミュリアにアルトは少しとは言え力のアドバイスをして良かったのかと頭に浮かぶ。それはかつて【魔王】となってしまった”アイツ”と同じ道を進ませるのではと言う後悔でもあった。


「……今考えてもしかたない、か――」


そう呟くと机の前に戻り椅子に座るとアルトは魔晶石の作成と新しい武器の構想に取り掛かるのだった。


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