第2章~【翼】~

2-1:翼・・・新たな出会いの序幕…創造《クリエイト》

2章タイトル…The boy of a medium and the hero of the wing=「翼の巫女と英雄の少年」

*2章プロローグ

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~【夜国】にある、とある集落~

ここは新月の森の近隣に位置する、満月の森と呼ばれる集落。その集落の中で一番でかい屋敷があった。

その屋敷の一室に、前髪が長いショートヘアーの銀髪に薄い藍色の眠たげな様で神秘的な瞳をしている少女の姿があった。


見る者がいれば皆がその少女の姿の神秘性に心振るえたであろうか。その理由は、その少女の背中には髪の色と同じ美しい銀翼があった。

その少女は闇夜族の中でも数少ない種族である翼人族フェザーフォルクの者であった。


眼を閉じて瞑想していた少女は何やら外から騒がしい気配を感じた。何所か火の香りも交じっているとも。


「……騒々しいわね」


すると、いつも一緒にいて世話をしてくれている侍女である兎の獣人族の女性エトが慌てた様に部屋に駆け込んできた。


「…み、巫女様! 直ちにここからお逃げ下さい! 帝国の人間共が…!?」


慌てる侍女に不思議そうな表情の白銀の髪の少女。

次の瞬間、複数の鎧や武器を武装した不躾な男達がこの部屋に侵入してきた。


「ハハ!…ホントに居やがったぜ!」

「こりゃあ!高く売れますぜ、隊長!」

「ホントだな!ただ奴隷になる奴を求めて来ただけだったがなぁ~こいつは上玉だぜぇ~」 


「……愚かですね」


不躾に、嫌な視線を特に年齢の割に豊満な胸に向けてくる人間共に少女は不機嫌そうに眉を寄せる。

少女は侵入者に風魔法を放とうと手を向けようとした時だった。

少女に語り掛ける声がそれを止めた。


(…?……?……分かりました。あなたの導きに従います。……出逢いが訪れるのですか…一先ずはエトを、あの子の所に送りましょう…)



これは、銀翼の翼人族フェザーフォルクの少女と、1000年の時を超えこの世界に帰還した、かつて【闇夜の魔王】を討ち世界を平定した【英雄】と呼ばれた少年が出会う少し前の一幕……




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シン・アルトが【アストラル】に戻って来てから2週間が経った。


現在、俺は“闇夜族”と“人ならざる者”と呼ばれる者達の国である【夜国】。

その【夜国】にある新月の森の奥にある、獣人族が多く暮らす集落に滞在していた。


俺は今族長宅に住まわせてもらっている。

そして俺が今行っているのは“創造クリエイト”と呼ばれるものだ。


創造クリエイト


それは俺が生まれ持っていた唯一のオリジナル技能だ。

俺が会得している”技能“の大半は”王権律レガリア・ウルク“の恩恵によるものだ。

俺自身の唯一の才能。一つは“料理”だ。ただ、これは必要だから身に付いたものだ。

だから、俺にとっての才能は“創造クリエイト”する事だった。


話が逸れたかな。

創造クリエイト”とは3つの分類をまとめた技能の事である。

鉱石や魔石を分解・理解・再構築し、新たな鉱石を作り出す“錬金アルケミスト”。

複数の薬品を掛け合わせ新たな薬品として作り出す“調合パラミシス”。

そして素材を元に新たな武器を作り出す“錬鉄アイロン”。

これら3つを合わせた名称が“創造クリエイト”なのである。

そしてこの“創造クリエイト”の真髄は、“錬金アルケミスト”“調合パラミシス” “錬鉄アイロン”、これら3つの技能を1つにして機能させる事で、強力な力を有した遺物、アーティファクトを生み出す事が出来るのだ。このアーティファクト作製は3つの技能を所有している者でも創り出す事は難しい。

嘗ての俺は多種多様のアーティファクトを創り出した。この村の“魔除けの結界クリスタル・オベリスク”も実を言えば俺が創った物なのだ。

因みにあの頃の俺は、他の“錬金アルケミスト”“調合パラミシス”“錬鉄アイロン”の技能を有していた者から【神童】として崇められていたりした。


まず俺は“呪喪刻印”と言うバッドステータスの為、現在属性魔法を使う事が出来ない。これはかなりの痛手と言えた。属性魔法は色んな場面で有効に使う事が出来るからだ。

今俺の所有している武器は帝国軍を倒した際に奪った剣のみだ。

近接戦闘では剣のみでも問題はないが遠距離から攻撃には正直対処しきれない、そう判断した。

だからまず俺は“創造クリエイト”を用いて、属性を魔石に付加させる事でその効果を発動する”魔晶石“を作る事にした。

この方法なら属性魔法を封じられていようが魔力さえあれば”魔晶石”に込められた力を開放する事できる。

ただ、この”魔晶石“を作るには、魔物の核である”魔石“が必要となる。

この村にもいくつか魔石がストックされていたのである条件を受ける代わりに譲ってもらった。

その譲ってもらった“魔石”を用いて“魔晶石”を作り出していく。

そして作り出した“魔晶石”は全部で10個。

正直心持たない数だと思った。


そう思った俺はある条件を満たす魔石集めと素材集めを行う事に決めた。

足りないなら補充すればいいのだ。

それに、収集のついでに『英雄』と呼ばれたあの頃と比べて、まったくお話にならないくらいの差があるステータスを鍛える意味もあった。


さっそくと俺は剣と作った”魔晶石“を制服のポケットに入れると部屋を出る。

出た先でこの族長宅に住んでおり、俺がこの世界に帰還した日に偶然ではあるが助けた少女と出くわした。


「あれ?アルト、何処か行くの?頑張って何か行っているから休憩にと思って飲み物持って来たのだけど?」


両手にお盆を持っている少女。そのお盆には2つのアプルと言う果実で作った飲み物が入ったコップがあった。

この少女の名前はミュリア・ダークマター。俺はミリーと愛称で呼んでいる。

150cmくらいの小柄で、フワッとした腰の下くらいの長さの橙色の髪、幼さがあるがきりっとした瞳、何処かアイツを思い起こさせる感じがする。年相応のスタイルをしていると思う。言うなればスレンダーボディかなと思う。胸は……まあ、これから成長していくだろうかな…

そしてミュリア最大の特徴は、なんといっても頭部にある猫耳である。ミュリアは猫型の獣人なのである。

ミュリアの猫耳はフワッと温かく、何度か頭を撫でる事があるのだが、その際に触れる触感が心地良いのである。

それにその際に照れるミュリアを見るのも楽しみだったりする。

ミュリアは猫の獣人族だ。しかし、ミュリアには他の獣人族とは違う点があった。

それは魔力をその身に秘めているという事だった。

基本的に獣人族は魔力が殆ど得ない種族なのである。その代わりに身体機能が優れている者が多く、特に五感を司る器官が発達している。

ミュリアは耳の聴覚が優れており、村の守り人であるカンスとシーラは視力が優れていた。

魔力を持ち得ない種族であるにも関わらず、ミュリアには正直俺に匹敵する程の魔力を保有しているのだ。

恐らくだが、それはミュリアのファミリーネームが関係していると思われる。

【ダークマター】

その名は、かつて、1000年前に闇夜の者達を支配し人間に戦いを挑んだ【魔王】の種族であり、ファミリーネームでもある。

だが、ミュリアは【魔王】の血を引く者ではないはずだ。これは断言できる。

何故なら、【魔王】を倒したのは他ならぬ俺自身なのだからな。

間違いはない。

俺の推察ではアイツには獣人族タイプの姉がいたので、ミュリアは【魔王】の姉の血筋、そして先祖返りしたのではないかと考えている。

何故先祖返りしたのかと考えたかは、ミュリアの持つ固有技能にある。

ミュリアには、【魔王】の血筋同様に、血液を媒介に能力を発現する事が出来るからだ。

ミュリアの場合は血液を循環させる事で欠損を即時修復する事が出来るのである。

あの日、帝国の小隊が襲撃した際に、俺は不覚を取って死の一歩手前の状態となった。

その致命傷を癒し回復させてくれたのが固有能力である“血塊源界ブラッド・ヴェイン”を発現させたミュリアだった。

その時に俺はミュリアの正体の末端に気付いた。


「どうしたの?」

「……」


不思議そうな表情のミュリア。

ミュリアに魔物狩りに行く事を伝えて良いものかと考える。

伝えたら絶対付いて来ると言い出す気がするんだよな。

俺がどうしようかと考えて黙っていると、ミュリアの表情が怪訝そうな表情へと変わる。

何だかジトッとした眼を向けてくる。


「……」

「ジト―――」


その視線に居心地が悪くなった俺は、ミュリアに正直に伝えた。

魔石と素材の収集の為に魔物狩りに行くと。

すると案の定、ミュリアは、


「私も、アルトと一緒に行く!アルト1人だと無茶するかもしれないから、私が見張るの!」


と言い出した。

俺は、最初は却下したのだが、それからずっとジィーと責めるような俺を見つめ続けるミリーに居心地が悪くなり、ミリーに根負けした俺は大きくため息を付いた。「……わかった。いいぞ、付いてきても…」と言った時のミリーの笑顔は輝いているように感じた。



一旦部屋に戻る。

戻る際にミュリアに自分の武器である杖を持ってくるように指示した。

何故だろう?と思うも俺に言われた通り部屋から、先端に真紅の球体が付いた杖を持ってミュリアが入って来る。

俺はそれを受け取ると1つの“魔晶石”を取り出す。

そして俺は“創造クリエイト”を発動する。

俺の手から金色の魔力が迸る。それはスパークの様でもあった。

その様子を見ていたミュリアは驚く。


「わぁ…綺麗ぇ…」


俺は集中しミュリアの杖に“魔晶石”に付加させていた能力を移植していく。

そして作業が完了すると“魔晶石”が消失し、見た目は変わらないが、幾つかの効果が付加された杖へと変貌した。

その杖を俺はミュリアに渡す。

受け取るミュリア。


「ほい、これで戦力的にも向上したはずだ」

「なんだか、今までのと違う感じがするよ…」

「ああ、その杖には俺がいくつかの能力効果を付加したからな」


俺は、この杖ルビーステッキに付加した能力をミュリアに説明する。

今回付加させたのは“火属性”と“硬化”の二つだ。

まずは“硬化”。まあその名の通りなのだが、この“硬化”を付加させた事でこのルビーステッキの強度を上げた。かなり強めに付加させたから並大抵の攻撃でないと壊れたりはしないだろう。

次に“火属性”だな。これは属性魔法に分類されるもので、今の俺には単体では役に立たないものだ。だが、能力を付加させる事で魔力を流す事で発現させる事が出来る。

付加された能力だが、杖自体が“火”の属性を帯び、“火”が苦手な魔物に対して有効的な一撃となる。俺の知る限り“火”の属性に耐性のある魔物は森の中にはいない筈だ。また、魔力を流す事でルビーの球体部分に炎を纏わせる事も出来る。

俺は試しに使って見ろとミュリアを促す。

問題はないと思うが念の為の確認である。


「うん、分かった……」


ミュリアはルビーステッキを両手で握る。そして予め説明した魔力通しの方法を実践する。

ミュリアの魔力通しは問題なく行う事が出来、魔力がルビーの部分に集まり赤く光る。そしてルビーの部分が燃える様に炎が生み出された。


「わわっ、出来たよ、アルト!」

「ああ、上手く機能しているようだ。(…しかし、先程説明しただけでこうも上手く魔力を操り発現させる事が出来るなんてな。以外にもミリーには魔法の才があるのかもしれないな)」

「ね、ねえ、アルト?これどうやって止めるの!?」


慌てた様に尋ねるミュリア。


「先程の要領を逆にすればいい、魔力を通すのではなく止める様にすれば消えるはずだ」

「わ、分かった……」


集中するミュリア。何とかと止めようとしている様だが少々苦戦している様だ。

俺は仕方ないなと苦戦しているミュリアの手に右手を添える。


「うにゃ!?」

「……何慌ててるんだ?いいから集中しろ、この感覚を覚えないと使いこなせないんだからな」

「(うにゅ…誰のせいだと思ってるのよぉ!もぉ!)……」


内心アルトの手の温度にドキマギしつつ、ミュリアは魔力を静止する感覚を覚える。

そして数秒後、燃えていた炎が沈下した。


「とまあ、この杖の感じをマスターしてくれ…ん?」

「何か燃えている匂いがしたんだが何かあったのか!?」


俺がミュリアに声を掛けた時だった。ドタバタとした足音と共に部屋の扉を勢いよく開け放ち入って来たのはカンスとシーラの御馴染の2人だった。

どうやら先程発現させた“火”の匂いを嗅ぎ取って慌てて駆け付けたようだ。

俺は二人に事情を説明したのだが、


「「家の、部屋の中でそんな事をするなぁ!!」」


と物凄く怒られた。

俺とミュリア(特に俺が)は怒気のある2人に誠心誠意謝った。

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