1-5:幕・・・そして覚醒の兆し

~???~

神話に出てきそうな神秘的な神殿が存在する空間内にて1つの声がある人物について話していた。

…声は一つ、だけど、まるで複数の同じ声を持ったものがいるかの様に話をしていた。

その声には“喜び”“憂い”“怒り””呆れ“”揶揄からかい“…が籠められていた。


“まったく~あの子ときたら~なにいきなり死にかけてるのかな~…ホントに変わったね~あちらの世界での経験かなあ~それとも…“

“困ったものですね~まっ、あの因子が近くにいたのだし~問題はなかったけど~“

“さてさて~これからどうなるか~彼には生きていてもらわないと意味がないんだから~“

“そうだね~の目的の為にもね~“

“ひとまず~3つの因子のうち~1つはもう目覚めてるし~“

“残りふたつの因子を目覚めさせるとしましょうか~“

“それまでは~かつての自分を磨く彼を見て楽しむとしましょうかな~“

“来たるべきトキの為に~“



――――――――――――――――――――――――――――


「……ここは?……!? 俺は確か…」


目覚め、布団で横になっていたアルトは体を起こしてみた。

周囲を見ると、どうやら昨晩泊まった族長宅の部屋のようだった。

アルトは「そういえば!?」と先の出来事を思い出し自分の体を確認して見た。しかしそこには、胸に槍で貫かれたはずの傷が見当たらなかった。


(どうなっているんだ?…たしかに俺はあの槍を躱す事ができず貫かれ、その際に血を失い過ぎた事と魔力が枯渇しかけた為に死に掛けたはずなのに?……そうだあの時、ミュリアが何かしたんだったな)


何をされたかは、朦朧とした状態だった故にいまいち覚えていなかったアルトだったが、冷静になった今、口の中に“血”の味がしたのを思い返す事が出来た。そして方法までは分からないがその“血”が自分を癒したのだとアルトは直感的に理解した。そしてそれを理解した故にアルトは思い出していた。かつて、1000年前に出会ったとある闇夜族の少女の能力を。


(そうだ…あの力は、確かに“アイツ“と同じ能力に近かった)


アルトは自分の身体に手を当てながら目を瞑ると、今の体の状態を確認してみた。

すると身体の内に魔力が満ちているのが確認出来た。


(―! どういうことだ? 確かあの特殊能力魔性枯渇がある限り魔力回復は出来ないはずでは?)


自分の状態に不思議に思ったアルトは“ステータスオープン”と唱え、今のステータスを確認してみた。

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シン・アルト(アルゴノート)

:種族「人間族」:クラス「英雄」:属性「光」:性別「男」:年齢「17」

体力:500

魔力:10000

筋力:300→500(武闘発動時)

俊敏:300→500(縮地発動時)

耐性:300

魔防:500

『固有能力』

光乃利顕セイクリッド・フォース:所有者に【光】の固有属性を与える。また【光魔法】を自由に操る事が出来る能力。光属性の魔法のランクを1つ上げて使用行使できる。

王権律レガリア・ウルク:所有者の望んだ技能を引き寄せる固有能力。引き寄せる事が出来る技能は初期のものである。

『特殊能力』

魔法適正:光属性(派生属性:雷)

呪喪刻印:魔法適性0で”技能”以外の魔法行使が出来ない特殊な状態異常能力バッドステータス

『技能』

剣技【魔核切りマナブレイク】:料理:魔力放出:錬成【投影】:

《王権律にて習得》

縮地:武闘:気配感知:気配遮断:言語理解:威圧:迅雷:


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…どういう訳か“特殊能力”の欄に今まであった【魔性枯渇】が消えていた。代わりに【呪喪刻印】という属性魔法を使えない“特殊能力”が明記されていた。相変わらずバットステータスだった…

ステータスや技能自体に関しては上昇していた…特に保有魔力量は倍になっていた。

一通り確認した後、一先ずは魔力が回復せず枯渇すると言う心配はしなくて良くなったようだ。

技能の大半は魔力を消費して行使するものが殆どなのだ。特にアルトの“固有技能”である“王権律レガリア・ウルク”の発動には魔力を多く消費する。その為、魔力回復は有り難かった。

ただ、相変わらず属性魔法の行使に制限が付いているのには溜め息が付く。

“固有技能”である“光乃利顕セイクリッド・フォース”を行使する事が相変わらず出来ないのは全く持って不満であった。


自身のステータスの確認をし終えステータスを消すと同時に溜め息を付いた時だった。不意に部屋のドアが開いた。

空いた扉の方に視線を向けるアルト。その視線の先には水桶と水桶から見えるタオルを左手に持ち、右手で扉の取手を掴んでいて、どこかぼぉ~とした様な表情をしたミュリアが立っていた。

アルトとミュリアの目が会うと、ミュリアは涙目になり、左手の持っていた水桶を落とした。

落としたことで床はバシャと水浸しになったがそんな些細な事どうでも良いと、唐突にミュリアは駆け寄ってくるとベッドに座っているアルトの胸に飛び込んできたのだった。

己の胸に飛び込んできたミュリアを慌てて抱き留める。

突然の行動に何が何だかわからないアルト。


「な、なんだ。どうした…」

「どうしたじゃ、ないですよぉ~―良かったですぅ、目が覚めたんですね…グスっ、だいじょうぶですか?…どこか体に、違和感はありませんか?」


涙を溜めたその眼で怒ると同時にアルトの安否に安堵した表情のミュリア。

どうやらかなり心配をかけたようだ…

アルトは、抱き付きながら泣いているミュリアの頭を撫でながら、問題ない事を伝えた。


「大丈夫だ。何ともない、むしろ軽くなったぐらいだ」

「グス、ホントですか?…無理してませんか?」

「ほんとだって、だから泣き止め、というか落ち着け」

「…アルトさん」


ここまで心配されると柄にもなく照れてしまうと同時に微笑ましい気分になるアルト。

そんな時、さらに2人の訪問者が現れた…


「なんだ、水浸しじゃないか…おぉ!アルトっ、目覚めた……のか?」

「何どうしたの、彼、目覚めた?…あら♪」


新たに訪れた声のした部屋の扉の方を見るとカンスとシーラの2人がこちらを興味深そうに、若干からかいの含んだ視線をアルトのいる方に向けて立っていた。


「よう…どうしたんだ2人とも?」


俺は怪訝そうに2人に声を掛けると、


「いえいえ…ふふ♪」

「いや~お熱いことだなと思ってな♪」


コイツらは何を言っているんだ?と思ったが、今の状況を顧みと、ベッドにミュリアが俺にしがみつくように抱きしめており、御互いに見つめあえる距離、いわゆるキスのできる距離と言えるものだった。

ミュリアが二人に気付きニヤッとした笑みを向けられているのに感づくと『うにゃ!?』と慌てた様に顔を真っ赤にし、パッと俺との距離を開けた。


そんなミュリアを微笑ましくニヤニヤとしていたカンスとシーラの2人に、何故か俺は無性に腹が立ったので、“威圧“を籠めた笑顔で睨みつけてやった。

すると俺の “威圧“に当てられ、カンスもシーラも少し青ざめるように「ハ、ハハ…」と引きつらせた。ざまあないな……


~~~~~~~~


「――結局、あの後どうなったんだ? 俺はさっき目覚めたばかりなんでな、詳しく聞きたいんだが?」


俺は人間達からの襲撃の際に意識を失った為、その後の事について3人に尋ねた。

話によると、まず、どうやら俺は二日も眠っていたようだ。まぁ、色々あり疲弊していたからな。

集落の方の被害は僅かの火災による焼跡のみで、住民に怪我をした者はいなかったようだ。

3人の迅速な対応が功を奏したようだ。

あとカンスとシーラから今回の襲撃者達が【ガルバス帝国】と言う、この森がある【夜国】の隣接する国の騎士の小隊だったようだ。その襲撃して来た者達の中で生き残っていた、俺の“威圧”に耐え切れず気を失っていた男からどうやら色々聞く事ができたようだ。

そいつから聞き出した目的はやはりと言うべきか奴隷を求めてやって来たという事だった。

この集落には“魔除けの結界”と言うアーティファクトがある。それは登録されている場所の周辺に悪意、害ある者を阻害し迷わせる効果があるのだ。それなのに此処に襲撃して来たこの連中は迷う事無くやって来た。

それは俺があの時に見逃した、連中と同行していた魔導士の男が持っていた杖の力で突き止めやってきたとの事だった。

そして色々と男から聞き出した後、その男をカンス達は見逃したとの事だ。

ただ帝国では敵前逃亡は重罪との事だ。恐らくその男は帝国に戻る事はそのまま死を意味するので、身を隠しての生活となるだろう…


「まぁ、そんなところだな、今わかっている事は。……それでなんだがよ、アルト、お前は今後どうするんだ?」


カンスは説明した後、今後について俺に聞いてきた。


「―そうだな。しばらくはここを拠点に色々準備をしてから今後について考えるとするさ」


少し考えた後、俺はそう告げた。その言葉にミュリア、カンス、シーラは嬉しそうに表情を崩す。

特にミュリアが嬉しそうに良い笑顔をしていた。


「本当ですか?…アルトさん、ここにいるんですか?」

「あぁ。俺はこれでも嘘が嫌いでな。だから信じていい。…今度は何も言わずに消えたりしないよ。それと、これからは呼び捨てでいいぞ」

「えっ?でも…」

「気にするな。と、いうよりお前、あの時確か俺を呼び捨てにしてただろ?だから気にせずそう呼べ。…俺もこれからはミュリアの事を“ミリー“と呼ばせてもらうからな」

「……わかったわ、その…アルト、よろしくね」

「あぁ、こちらこそよろしくな、ミリー」


こうして俺達の絆が深まったようだ。ミリーに関しては気になる事がまだまだあるがそれはまたの機会にするとしよう…

さてはて、これからどんな事が待っているのか。

1000年もの時間が経過したこの【アストラル】でどんなことが起きるのか、あの“バカ精霊王”も何か企んでいるぽいしな。まあ、退屈だけはしなくて良さそうだ。


…えっ、なに、集落が無事だったのと、俺が目覚めた記念に宴会?…しかも俺に作れと?…調子に乗ってるなこいつら!……まっ、いいか。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


(~?~)

ここは聖なる国とも呼ばれる【アストラル】に存在する国家の中では大きく栄えている国だ。

その国の奥地に聳える白く大きな城が存在した。

その城の一室、その部屋の大きなベッドに一人の少女が眠っていた。

その眠りについている少女はある時を境に約1000年の間この場所に眠り続けていた。

その少女は1000年と言う名の年月が経過して直、眠り続けている間、老いる事もなく姿が変わることなく眠り続けていた。


『――……っ…』


だが、少女が眠りに付く1000年前、その時代に『英雄』と呼ばれた少年がこの【アストラル】に帰還した事を切っ掛けにその少女は目覚め始めるのだった。


(~?~)

夜国の外れにある一つの集落に人間と闇夜族の血を引く少女が住んでいた。

その少女の外見は人間の血が濃かった為か闇夜族の特徴は無く殆ど人間と変わりなかった。

そして少女には不思議な能力を有していた。

混血の少女は変わらない毎日を過ごしていたある日、『英雄』と呼ばれた彼の者が【アストラル】に帰還した事で、少女は前世で共にした記憶を思い出したのだった。

そう、少女は死した後輪廻の輪を潜り再び転生したものであった。

そして思い出した前世の記憶に少女は歓喜した。

「今度こそ願いが叶う♪」と笑みを浮かべるのだった…


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