1-4.Ⅲ:夢・・・圧倒する者と血癒「VS帝国兵②」
「まったく…久しぶりだったが上手くいったようだな」
俺は殲滅級の劫火球の魔法を切り払った剣を一息付ながら2度振るった。
振って見てやはり鈍っているなと感じる。ここ2年まともな剣を振ってなかったから仕方ない。
先程の火球を切り払ったのは、俺の持つ“剣技“の1つで、魔法の核となる部分を斬る事で、構成されている魔力を霧散させる絶技である。その名は”
現在“碑眼”は習得していないが、あの程度の魔法くらいなら核を見つけるくらい問題なかった。
魔法には基本属性、特殊属性、固有属性の計3つに分類される。
基本属性は4種類。【火、水、風、地】の4種類だ。
そしてこの4種類以外の属性【雷】等が特殊属性となる。
さらに特別な属性である固有属性。この属性は特別な恩恵を受けた者だけが持つ事が出来る希少属性だ。例えとしては俺の持つ【光】の属性や、アイツの持っていた【闇】があがる。
他には、魔法には
先程あの魔導師の男が使ったのは【殲滅級】の火炎魔法のようだが、正直威力も精度も低く【精霊級】と同じ位に感じた。
「…お前、出て行ったんじゃなかったのか?…なんで?」
カンスは突如現れた俺に、まるで「なんでいるんだ?」とありえない者でも見たような目で見つめながら声をかけてくる。
唐突に出現した見慣れない俺に警戒し様子を見ている4人の帝国兵や魔導士に意識を向けながら、俺はカンスの質問に対して、ミュリアに少し視線を向けつつ答えた。
俺の視線に気付いたのかミュリアの頬が羞恥で赤くなった。
その視線はまるでミュリアの為に戻ってくれたように思わせてくれたからだ。
「……うにゃ///!」
「―ふっ。正直に言うとそのつもりだったのだがな。森の中で偶然この方向に煙が見えてな。…気付いちまった以上は、流石に見捨てると目覚めが悪くなりそうだからな。まっ、成り行きってやつだ」
そんな風に何でもないように語る俺にカンス達は唖然となる。
俺はその様子に不敵な笑みを浮かべる。そんな俺に不愉快な男の怒声が届く。
「貴様!見た所人間のようだな!なぜ俺達の邪魔をする!!」
連中の隊長と思われる槍を持った男が、俺を睨む様に威嚇しながら怒鳴ってきた。
なんか、正直アレと同類扱いされるのは勘弁してもらいたいな。と内心溜息をついた。
そしてアルトはその男にここに何の目的で来たのか逆に聞き返した。
「邪魔も何もない。こいつ等には一宿の恩がある。気にいらないものは排除するのが、俺のやり方でな。…それよりもお前達はなぜこいつ等を、というか、この集落を襲ったんだ?こいつらが何かしたのか?」
「はん!貴様には関係ない話だ!…おい、弓兵、何をしている!早く援護をしろ!」
隊長の男は森にいるであろう仲間の弓兵に指示を飛ばすも、返事がなかった……
俺は呆れた様に隊長の男に声をかける。
「…無駄だよ。森に潜んでいた奴らなら、ここに着いた際に俺が瞬殺しといたからな。あと残っているのはお前達4人だけだよ」
「何だと!? バカな! いつの間に!?」
俺は集落の近くに来ると相手に気付かれないようにと忍び足で周囲を“気配感知“で確認した。同時にと“気配遮断“を全開で発動したのだ。俺が全力”気配”が隠せば感知能力が優れた者でも補足するのは難しい。実際感知能力に長けているミュリア達は俺の存在に気付けなかった。だからこそ俺の突然の襲来に驚いていたのだから。
俺は感知した敵を確認後、“縮地“を発動し、まず面倒な遠距離要員を潰す為に一気に森に伏せていた2人の弓兵を他の連中に気付かれぬように切り伏せていった。まあ真相はそんなものである。
アルトは明らかに狼狽している男達に笑みを浮かべつつ、無慈悲な言葉を送った。
「さぁて~、覚悟は出来ているんだよな? お前達は俺の逆鱗に触れたんだ。唯で帰れると思うなよ」
俺は“王権律“を発動し“威圧“を得たと同時に相手の4人に”威圧“をぶつけるように睨みつけた。
俺の圧倒的な殺気も込められた“威圧“を受け4人の内、青い顔し震えている男は俺の“威圧“に耐え切れず、気を失うように倒れた。
これで残ったのは槍を持った隊長の男と、剣を持った男、そして魔導士の男だけとなった。
この状況に、魔導士の男は慌てる。
「おいおい、こんなはずじゃなかったのに!何だよ!簡単な依頼だっていうから乗ったのに!割にあわねぇぞ!おい!」
どうやら魔導士の男は依頼を受け同行した冒険者のようだった。アルトは“威圧“を強めながら魔導士の男に剣を向けて問うた。
「そこのお前!どうする俺と一戦交える覚悟はあるか?無いなら今回は見逃してやるから、さっさと此処から去れ!」
俺が見逃す言葉を告げると魔導士の男は少し迷った様だが、男は何かを口ずさむ様に詠唱すると、その手に持つ杖の先端の宝石が光るとまるで煙の様に姿を消した。どうやら依頼と己の命を天秤にかけ、己の命を選んだようだ。当然の選択といえた…
おそらく転移の魔法を使ったのだろう。魔法が使えない今では羨ましいとアルトは思った。
「…さぁてぇ、これで残りはお前たち二人だなぁ。どうする?命乞いでもするか?聞く気は無いがな!俺はもう決めたからな、ここでお前等を殲滅するってなぁ!」
慈悲の欠片もない容赦のない物言いにミュリア達も難い相手でもあっても同情する様に苦笑いをしていた。
剣を持った騎士は逃げられないと悟ったのか俺に剣を構えた。隊長の方も槍を構えた。
ミュリア達も加勢しようとしたが俺が止めた。この程度の奴らには必要ないと判断したからだ。
相手の二人は武器を俺に構え突撃してきた。
俺は、迫りくるその2人の動きが正直、遅すぎる動きに映っていた。
「はああぁ!死ねえぇ!!」
「遅いな……」
先に間合いの長い槍を持つ隊長の方に狙いを定めると、突き出してきた槍を避わした俺は躱した瞬間にそいつの右腕を剣で切り裂いた。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
その瞬間、右腕の健を切り裂かれ、握っていられなくなった槍を落とした隊長の男は絶叫を上げ跪いた。
アルトはそれを無視して次に狙いを定め、もう一人の男が振って来た剣を、“武闘“で筋力を上げた剣で受け止めた。
そして受け止めた瞬間にアルトは“王権律“を発動する。体に雷の魔力を帯びさせる事が出来る“迅雷“を得ると、そのまま剣に雷を流し込んだ。
…だが“王権律“を発動した事で、アルトの保有している魔力がほぼ0となったようでほんの一瞬だがフラッとなりそうになるもアルトは気合で持たせた。
アルトの“迅雷“は剣を通じて相手の剣を、相手自身を痺れさせた。痺れた事で体を弛緩し動きが鈍った相手の剣をアルトは弾き飛ばした。
そしてそのままの勢いで相手の体を切り裂き絶命させた。
+
ミュリアside――
息も乱していないアルトの圧倒的な実力を、同じ人間に対して容赦なく命を奪った彼を見てカンスとシーラは驚嘆な思いで見ていた。
「なんだあれ?まるで赤子を相手にしてるようだな…」
「圧倒的ね、それに…」
「アルトさん……」
ミュリアは昨夜に彼が【魔王殺しの英雄】と呼ばれた
ミュリアは全てが終わった思いそんな彼に近づいて行った。
…唯1つの事を失念していたが…
※~
敵side――
アルトに右腕を切り裂かれた隊長の男は痛みに絶句しつつ心の中で憤っていた。
(ばかな!グっ!こんな筈では…楽な任務になるはずだった。…クッ、こんな奴がいるんなんて。…!)
この状況に貶められたアルトに視線を向けようとすると、そのアルトに近づこうとするミュリアが視界に映った。
その瞬間右腕を切り裂かれ跪いていた男は笑みを浮かべると自棄になったのか、体を、左腕を支えに起こすと素早く左手で傍に落ちていた槍を掴むと、任務を邪魔してくれたアルトに近づいてくるミュリアを標的にし、ミュリア目掛けて掴んだら槍を投擲したのだった…
+++++
ミュリアside――
「ハッ!?」
アルトの傍に行こうとした私は、いきなり起き上がり
突然の事で反応できずその場に立ち往生した私は、自分に飛んでくるであろうその槍を躱す事が出来ないと察知した私は目をギュッと瞑った。
しかしいつまで経ってもその痛みが私を襲う事はなかった。
その代わりにミュリアの超感覚が自分の近くで何かが突き刺さる生々しい音と、血の匂いが感じられた。「まさか!?」という思いでミュリアはゆっくりと目を開けた。
目を開けたそこには衝撃的な光景が映った。ミュリアを庇い胸に槍が刺さり血を流しながら立っているアルトがいた……
「……まっ、たく、ほん、と…俺も、焼きが、回ったなっ…」
アルトは嗤笑しながら呟いた。その瞬間口から多くの血は吐血した。そのまま立っていられず仰向けに倒れこんだ。倒れた場所にも多くの血が流れた。
アルトの胸には一本の槍が突き刺さっていたのだ。
それはミュリアに向け投射された槍だった。
普段の状態のアルトならミュリアに投擲される槍を難なく打ち払う事もできただろう。しかし、先程の戦いの最中に “王権律”を使った事で自身の保有していた魔力をほぼ使ってしまったのだ。その為、アルトは軽い魔力酔いの状態となっていたのだ。
そんな状態でアルトはミュリアを救う為、本人も無自覚に、いや、微かに過去の記憶が浮かんだのかもしれない。そんな思いが本人の意思とは別に勝手に体を動かし、ミュリアの前に飛び出していた。
その結果、アルトはミュリアを庇い躱す事が出来ず槍が胸に突き刺さったのだった。
「くっそォー!…へっ、だが、ざまあみr」
「てめぇえ!よくもぉ―!!」
最後の悪あがきの抵抗をした隊長の男は邪魔をしたアルトに一矢報いたと笑みを浮かべたと同時に、カンスが怒りのまま持っていた剣で、その男を切り裂き絶命させた。
私は慌てて倒れた血塗れのアルトに縋りついた。涙を流しながら…
「…どうして……かばったんですか?…私なんかを…」
ミュリアは泣きながらアルトに問うた。
「…知らん、 ぐふっ! 勝手に体が動いた、…まったく“僕“は…」
近寄ってきたカンスやシーラも悲痛な表情でこちらを見ていた。槍は心臓を外していたが血が多く流れ過ぎたようだ…アルトの命はもって数秒となるだろう。
さらに、血を吐いたアルトを見て、ミュリアは一つの決断をした。
「…大丈夫、あなたは、アルトは、私が必ず、救います……」
「なにを?」とアルトは薄れ行く意識の中で思っていると、ミュリアは自分の唇の端を噛み血を滲ませた。
そしてミュリアはそのままアルトに口付けた。
「…な、何を、んっ!?」
アルトは久々の感覚に動揺したその瞬間、口の中に“血”が流し込まれた。
その“血”を飲み込んだ瞬間、アルトの体が赤く光った。
ミュリアが口付けを終え、離れると体に違和感があった。まだ体が動かないので目線だけで自分の体を確認すると胸に突き刺さっていた槍がなく、傷跡すらなくなっていたのだ。
俺は何が起こったのかさっぱり理解できなかったが、血を多く流した事や魔力が枯渇した状態だった為かそのまま意識を失ったのだった……
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