1-4.Ⅱ:夢・・・襲撃と再会と「VS帝国兵➀」

ミュリア達の住む集落に、ただの冒険者と言った風貌ではなく、何処か一国に属する武装し鎧を着こんだ男達が近づきつつあった。

剣や槍、弓と言った武器を携えていた。明らかに魔物狩りをしに来たわけではないだろう。別の意味で捉えるなら“狩り”で間違いはないかもしれないが…

その集団の中で唯一、槍を持っている集団の中の隊長と思われる男が、集団の中では明らかに違う装いをしている男に話し掛けた。

話し掛けられた男は杖を持った魔導師風の容貌をしていた。


「それでェ~もう直たどり着くんだろうなぁ、その獣共の集落って言うのは?」

「ええ。この杖もこっちの方を指し示してますからね。間違いないですよ」


魔導師風の男の杖には紫の丸い宝玉が付いており、その宝玉はミュリア達の集落の方を矢印の様に指していた。


「くくく。いやあ~良い冒険者を引き込めましたね、隊長」

「我々だけでは集落の位置まで探る事が出来ませんからね」

「ああ。悪意ある者は近づけない結界とは、面倒なもんだからなあ。ふふふ、アンタには期待してるぜ。この後の事もな」

「ええ。依頼された分はきっちり働かせて頂きますよ、隊長さん」

「ん…隊長!あれじゃねぇですかい」

「…間違いないですね。宝玉はアレらを指してますから」

「よし!そんじゃま。やるとするか。いいか野郎ども!この中にいる奴らを捕まえ連れ帰るのが今回の任務だぁ!先行した馬鹿2人のような無様は晒すんじゃねぇぞ!」

「隊長、捕まえるのは全員ですかぁ~」

「いや、老人とかはいらねえ。他逆らう奴もいらねぇ。向かってくる奴がいたら遠慮なく殺せ!……さてぇ、まずは陽動に一発火矢でも放つとするか」

「…ならこちらをどうぞ。火の鉱石で作った特別性ですよ」

「はっ!気が利くねぇ!おい!お前さっさと打っちまえ」

「了解!」


赤い鏃をした弓を襲撃者の弓使いは集落に向けて項を描く様に放った。


++++


魔除けの結界であるオベリスククリスタルが害ある存在の訪れを告げるように光り出す。

非常事態の証にカンスは皆を守るために行動に移す。

激情に駆られそうな心を何とか落ち着けながら、ミュリアに相手の人数を確認した。

この集落でミュリア以上の聴覚の良い者はいない。


「クソ!ミュリア、音の出所は何処からだ?数は解るか?」

「えっと、正門の方に聴こえるよ!…数は、正確には解らないけど、10人はいると思う」


10人か…精鋭部隊とかじゃないなら、なんとかなるか。…しかし。


「…どの国が一体何をしに来たのかしら?」

「そんなもの!…だが、確かに目的が何のか、この村には魔除けの結界があるはずだ。この集落に害や悪意のある者は近付く事ができないはず…とにかく、皆を―!?」


俺は集落の皆の安全を第一に確保しようと、シーラとミュリアに指示を出そうとした時だった。

俺には視覚が良いという超感覚がある。特に飛行物に対して優れている。

その超感覚に、何かが此方に撃ち込まれる感覚が伝わってきた。

察知した方に目を向けると、外から一つの矢が撃ち込まれてきたのだった。

打ち込まれた弓矢の鏃が赤く、その鏃に嫌な感じがした。


カンスの予感は当たっていた。その赤い矢は運悪くか積まれていた丸太に突き刺さった。

そして、その矢が刺さった丸太部分に火が付いた。その火は勢いよく燃え上がった。ただの火矢ではなかった。

この騒ぎに既に非常事態を勘付いていた村の住人はパニックとなった。


「クッ!? いきなり撃ってくるだと! とにかくシーラは火を消すんだ! ミュリアは村の者を族長宅の安全な地下に避難させるんだ。早く!!」


この集落には、もしも何者かが襲撃して来た時の様に族長の家の下に村人を全員収納できる程の広さの地下空洞があるのだ。何かあればそこに行くのが一番安全と言えたのだ。


「カンスはどうするの、まさか1人で!?」

「そのまさかだよ!俺は外に出て少しでも避難の時間を稼ぐ!…その間に少しでも多く住民を生き残れるように動くんだ!いいな!!」


そう2人に怒鳴るように告げた後、俺は背中に背負っている自前の両手持ち用の片刃剣を鞘から抜くと急いで集落の門の方へ駆け出した。


ミュリアとシーラも、カンスに言われた通りに、燃え上がった火を消したり、皆を族長の家にある地下部屋へと誘導し始めた…



「この!いきなり何しやがるんだァ、この人間どもがァ!」


カンスは怒りの表情を浮かべながら、門から出ると持っていた剣で武装していた人間に向かっていった。


(1,2…5,6.いや、森に後2人はいるか? くっ!多勢に無勢ってやつか)


カンスは襲撃者の人数を把握すると少しでもミュリアやシーラが住人達を避難出来る様にと時間を稼ぐ為にと前に飛び出した。


「はっ!1人でのこのこと出てきやがってよぉ。弓兵やっちまえ!」


槍を持った男が嫌みたらしい笑みを受けべながら、森に潜む弓兵に命じると、森の中からいくつもの矢が飛び出したカンス目掛けて放たれてきた。


「くっ!こんなもので!」


俺は咄嗟に飛んできた弓矢を、剣で器用に回避しつつ集落の門まで後退した。

カンスには“矢よけの加護“という種族特性を持っていたので、瞬時に回避行動を取る事が出来たのだった。


門の端から状況を確認しようとした時、2人の、鎧を纏い、剣を持った人間の男がこちらに迫ってきた。

カンスはその鎧に見覚えがあった。その鎧はガルバス帝国の騎士が身につけているものだった。

ガルバス帝国は奴隷制度を有しており、特に闇夜族の事は奴隷以下の存在だと認識しているような国だった。


俺は「ふざけるなよ!」と向かってくる帝国兵を迎撃する為に門の影から出た。

此奴等はきっと奴隷を求めてここに来たと推察した。無性に怒りが沸いてくる。

俺達を何だと思ってやがるんだ!と激しい情動に駆られる。

やはり人間等、俺達に害を齎す者でしかない!そう思えてしまう。

俺はそんな激情の中、アイツの事が浮かんだ。


(あいつは…アルトは、違った…アイツは…)


俺は顔を振ると、向かって来る人間に向けて怒声と共に迎撃する。


「なめるなぁ!」


迫ってきた一人の人間の剣を弾くと同時に素早く剣を返し相手の胴を切り裂き倒すと、迫ってくるもう一人に狙いを変えた瞬間だった。

集落の方から一本の矢が迫っていたもう一人の男の額に刺さった。

カンスは目線を門の方に向けると弓を射た後のシーラの姿が眼に映った。

額を討ち抜かれた男は後ろに倒れ絶命した。


「おいおい。まだいたのかぁ、威勢の良いのがぁよぉ!」

「しかも女ですぜ、隊長!」

「女は死なない程度に痛めつけちまえぇ!あの男はさっさと始末しちまえぇ!」


隊長の男が叫んだと同時にカンスに向かって飛んできた矢を回避すると、カンスはあの連中の下劣な視線と言葉に不愉快そうに眉をひそめているシーラのいる門まで後退した。


「待たせたわね。村の火は何とか鎮火出来たわ。みんな無事よ。これからは私も助太刀するわ!」

「あの、私もお手伝いします!」


シーラだけでなくどうやらミュリアも援護に来てくれたようだ…

ミュリアの手には、魔力の宿った特別性の杖が握られていた。

その杖は、杖の先に魔法石が付いており、魔力を籠める事でその魔法石の硬度を上げたりする事が出来る特注品なのである。

本来、獣人族は魔力を持たない種族なのだ。しかし、どういう訳かミュリアには獣人族が本来持ちえない魔力を、それもかなりの量を秘めていたのだ。

この事が分かったのは、隣接にある満月の森の集落の親友である翼を有する、とある少女が教えてくれたのだ。そしてなぜか族長が持っていたこの杖を譲り受けたのだった。


「ミュリアまで…あまり無茶するなよ!」


カンスは2人も他の者達と共に一緒に避難してくれればと苦笑しつつ、心強いかなと思い直した。

その瞬間、急に外の空気が重くなったように嫌な感じをカンスは肌で感じた…

門の隙間から確認すると集団の中で一人の魔導士風の男が何やら詠唱を唱えており、その手に大きな火球が精製されていった。

俺には魔力は備わっていないが本能が「アレは不味い!」叫んでいた。慌てた様に飛び出していった。

あの魔法が放たれたら自分達も危険だが、もし集落に当たり燃え広がれば、集落は消えてしまうと感じたのだ…ミュリアとシーラも同様に感じたようで共に出た。


三人が魔導士の男の詠唱を止めようとするも、残りの3人の、槍を持った隊長と思われる男と、剣と楯を持った兵が邪魔で近付く事が出来なかった。


「くっ!この、どけぇええ!」

「くくく、そいつは出来ねえ相談だなぁ!」

「このぉ!っ」

「弓なんざ、打たせねぇよ!」

「ガキは引っ込んで震えてりゃいいんだよぉ」

「舐めないでよねぇ!」

「……オーケー!詠唱完了!退かない巻き添えですよ!」

「よし。下がれお前らぁ!」

「「了解!」」

「「「!?」」」


魔導士の男が、詠唱が完了したと仲間の騎士に告げると、騎士達はカンス達から一気に離れ魔導師の魔法範囲内から離脱した。

魔導師の男は両手を空に掲げており、その手には人一人分くらいはある劫火の魔球が出来ていた。

騎士達はカンス達の妨害をしつつ魔導師の魔法範囲内に誘導していたのだった。


「ふふ。さぁ!喰らってもらいますよぉ!」


魔導師の男は殲滅級の威力がある劫火球の魔法をカンス達に向かって放った。


「くっ!」


劫火球が3人に放たれた瞬間、カンスは「少しでも楯になればいい!」とミュリアやシーラの前に両手を横に出し受けようとした。

その様子に2人は悲鳴を上げようとした。

そんな時だった。

3人と劫火球との間に一人の人間の少年が空から降ってきた。そして、その少年は右手に持っていた剣を横薙ぎに振ると、その火球の魔法はその剣圧で切り払われ消滅したのだった。


「よお!どうやら間に合ったようだな。…皆、生きてるか」


今まさに、火球を切り払い消滅させると言う離れ業をやってのけ、笑みを浮かべながらカンス達に振り向いていたのは、昨日ミュリアを救い、集落で宴会を通じて楽しんだ、何故か気の合い、友人となれたと思った。そして朝早く、この村から出て行ったはずの“シン・アルト“であった。

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