1-3.Ⅲ:夢・・・夜の一幕


「ねえ、どういう事? アルゴノートって、あの1000年前に私達の祖先達と戦かったっていう三英雄の人だよね? それに“精霊王“ってこの世界を支える神存在ですよね?……あなたは一体何者なの?」


新月の森の集落で住民達と、俺が作った料理で宴会をした。

俺は族長宅から涼むため外に出た際に“精霊王”と会話をしていた。

“精霊王”との会話中に急に黙った“精霊王”に不思議がった瞬間だった。

アルトの後ろから1人の女の子が声を掛けてきた。

声を掛けて来たのはこの集落の住民で、森の中で襲われているのを助けた猫型獣人少女、ミュリアであった。

 

驚きの表情を浮かべているミュリアは俺に疑問に思った事を質問してきた。

俺は、その問いを無視する事もできた。だが、「どうせ聞かれたんだ。構わないか」と結論付けるとミュリアの質問に一つずつに答えた。


「そうだな。俺の本当の名はミュリアが聞いた通り、シン・アルゴノート。それが俺本来の名だ。そして、かつて、お前たちの一族、闇夜族を支配し戦いを挑んできた『魔王』を討伐した男だよ」

「……そうなの。でも、アルゴノートは1000年も前の人でしょ?なんで1000年も経っているのにアルトさんは生きているの?」

「それに関して俺も困惑したよ。…かつて俺は『魔王』を討つ為にあの“バカ精霊王“の奴と一つの契約を結んだんだ」


俺が“精霊王“をバカ呼ばわりしたのを聞いてミュリアは驚き目を丸くしていた。まあ、あれでも”精霊王“は『神存在』と言う特別な存在であるからな。信心深い者がアルトのセリフを聞いたら、激怒する程でもある。

アルトは特に気にせず続きを話し始めた。


「その契約で俺はこの世界とは異なる世界、つまり異世界に転移したんだ。転移したその世界では2年の時しか経ってなくてな。しかも記憶をなくしていた状態だったからな。正直困ったよ」


異なる世界と聞かされてミュリアはよく解らないという表情を浮かべた。まあいきなりそんな風に言われても分かる者はいないだろうな。

取り敢えず続きを話した。


「そうだ。その世界ではこの世界で言う魔力と言う概念がない世界だったよ。機械技術が発達していたよ」

「そうなんだ、うぅ~ん、想像もできないかなぁ。…アルトさんは、どうして、その異世界?って所から戻ってきたの?」

「ああ、それは簡単だよ。“精霊王“の奴がいきなりこっちに送り返したんだよ。まったくホント困った奴だよ。いっつも!」

「あはは、……アルトさんは、これからどうするの?」

「ん?あー、まだ決めてなかったんだがな。 とりあえずはステータス強化をしつつ今のこの世界を回るかな。そのついでに、この世界に封じている3つのアルゴノートの遺産を取りに行こうかと考えている」

「え? 英雄の遺産?…それって?」

「俺がこの世界を離れる前に、とある3つの迷宮にそれぞれ俺の力と言える宝具を封印しておいたんだよ」

「3つの迷宮って、族長様がおっしゃられていた、三大迷宮って呼んでいたあの?」

「そうか、今ではそう呼ばれているんだよな。 それは、かつて俺と仲間達で作ったもんでな。遺産に関しては、正直もう必要ないと思っていたからな。…だが、どうもキナ臭い感じがしていきたんでな。取りに行こうかと考えたわけだ。まあ、元々俺のなんだし…(“精霊王“の奴も何かしら目的があって俺を呼び戻したようだしな…)」

「…それって1000年も前に隠したんだよね?他の誰かに盗られてたりしてないの?」

「それは無いな。迷宮は天然を利用し、広く複雑だし、あそこには強力な魔物も存在するからな。何よりあれを守護している者達がまだ存在している様だからな。…それにもし持ち出されていたら本来の持ち主である俺が分からない訳がないからな」


目を閉じると微かだが守護の任についている者達の波長を感じる事が出来た。


「そうなんだ……」


その後、ミュリアの要望で異世界での事を聞かれ、近くにあった椅子に座りながら問題ない程度に話してやった。

どんな生活をしていたのか、どんな人がいたのか等を。

ミュリアは興味深く俺の話を聞いていた。話の中であの子の話をしたときに少しむっとした表情をしたりしていた。

そして…


「…さて、夜も遅いし、お喋りはここまでにしてそろそろ休むとしようか。ホワ~色々あったから眠たくなってきたしな」

「ふふ…そうですね。それではお休みなさい…アルトさん」


眠気もあり俺達は族長宅に入るとそれぞれの部屋へと戻った。

ミュリアは俺との会話にて、どこか深く考え込んでいる様子で時折複雑そうな表情をしていたのが印象に残った…

やはり明日の朝にでもここを発った方が良いと思いながら眠りについた……

そしてまだ少し明るくなった頃に俺は目覚めた。

目覚めの悪い俺にしては珍しいな。と苦笑した。

周囲の者達が寝むっているのを“気配感知“で探るとまだ眠っているようだった。

俺は布団から起きると、黎明学院の制服を羽織ると、次に剣を帯刀した俺は一度、現在のステータスを確認してみた。

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シン・アルト(アルゴノート)

:種族「人間族」:クラス「英雄」:属性「光」:性別「男」:年齢「17」

体力:300

魔力:1000→200

筋力:100→300(武闘発動時)

俊敏:100→300(縮地発動時)

耐性:200

魔防:200

『固有能力』

光乃利顕:『光』の属性を得て、『光魔法』を自由に操る事が出来る能力。また光属性の魔法の位(ランク)を1つ上げて使用行使できる。

王権律:所有者の望んだ技能を引き寄せる能力。引き寄せる事が出来る技能は初期のものである。

『特殊能力』

魔法適正:光属性

魔性枯渇:保有している魔力を消費するとそのままとなり魔力を回復できない。また、この能力がある限り魔法行使が出来ない。例外)固有能力『王権律』は展開できる。

『技能』

剣技:料理:縮地:武闘:気配感知:気配遮断:言語理解:

====================

確認して見て、やはり魔力が回復していないようだった。


(この魔力量なら“王権律“も、あと使えて1回か、2回が限度か)


己の能力分析の後、出て行く準備が出来たので畳んだ布団の上に、置き手紙を置く。

以前の俺なら気にせず出て行ったのだろうが、そうした方がいいと思い「丸くなったな…」と苦笑しながら手紙を残す事にした。

俺は“気配遮断“を発動すると、「じゃあな…」とミュリアの寝ているであろう方向に向けて呟くとこの集落を後にした……


++++


集落から離れた森の中にて、少し装備(人間の男から奪った剣に学生服を羽織っているのみ)に不安はあるが、とりあえず昨日、族長に教えてもらったこの森を抜けた所にある【王国】にある街を目指そうと歩き始めていた。

一先ず、この鬱陶しい“魔性枯渇“を消す方法と、装備の充実化を図る為、冒険者を斡旋しているギルドに行こうと考えていた。依頼を受けながら“魔性枯渇“の件の情報とステータスアップ、武装作成をしていこうと考えたのである。


しばらく歩いているとそういえば、まだ“気配遮断“したままだと気付いたアルトは「もう必要ないか」と“気配遮断“を解除した。

念の為に周囲に魔物とかがいないか確認する為、今度は“気配感知“を発動し周囲を探ってみると複数の人間の反応が感知できた。

しかし感知した方角が問題だった。その方角は今朝早くに出ていったばかりの集落のある方角だったのだ。集落のある方を向くと煙が上がっているのが見えたのだった…


アルトは「俺にはもう関係ない」と、無視して歩き出そうとした。

だが何故か足が止まってしまうのだった。

なぜか昨日の夜に話をしたミュリアの顔が浮かんだのだった。

なぜかはわからないが、襲われているのを見てなぜか助けてしまった少女。

なぜか初対面のはずが妙な親近感を抱いた不思議な少女。

そして、なぜかあの夜に話さなくてもいいはずの事を語っていた。

なぜか…


「なぜか」そんなことで頭がいっぱいになったアルトは一度溜め息をつくと髪を掻いた後、(全く俺も本当に甘くなったな)と、考えた時には集落の方に向って“縮地“を発動させ走りだしていたのだった…。

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