1-3.Ⅱ:夢・・・時の流れと宴会
「まずは、そうだな。今は史歴何年くらいだ?」
「年数?うむぅ――たしか、史歴1666であったはずですな……」
(なんだと!?)
俺は椅子に座っている人物、名前はニュートラルと言う、新月の森の集落の族長から今の暦を聞いて初めは信じられなかった。
あちらの世界に転移する前が史歴666程であったはずなのでアルトは心底驚きに支配され呆然としていた。
「それは本当なのか?あの時からだぞ!?」
「あの時とはどの時からか存じませぬが、今の暦に間違いはないですぞよ」
(おいおい、マジかよ。時間の流れ違いすぎだろ…しかし、1000年か…いくらアイツらも流石に生きてはいないだろう…)
アルトは、嘗ての『魔王』を倒した際の同志であり仲間だった『聖騎士』や『大賢者』達の事を愁う様に想った。
そんな消沈し落ち込んだような表情をしているアルトをミュリアは不思議そうに(どうしたんだろ?)と見詰めていた。
その後、気を取り直したアルトはニュートラルに質問を続けた。
「歴は分かった。次だが今どんな国があって、その国の情勢とか分かるか?分かる範囲で言いから教えてくれ」
「ふむ。そうじゃなぁ。まずはどんな国があるかについてかのぉ。しかし、お主は、今ある国がどんなものかも知らなんだようだのぉ」
「あぁ。まあ、なんもない田舎から出てきたようなものでな。どんな国があるかも正直知らん」
そう言うとミュリア、カンス、シーラは不思議そうな表情を浮かべていた。普通は自分の暮らし属する国くらいは知っているのが普通だからだろう。
アルトは3人の表情を気にせず族長の説明を聞いた。
今のこの
この集落は国境に近めの場所の様だ。『夜国ウルク』は大陸の南方に位置しており、森林地帯が多いのはあの時と変らないようだ。
名の通り『王』と言った存在はおらず各集落で暮らし、その集落の代表達で連携や情報のやり取りを行っているようだ。因みにこの集落の代表はニュートラルで、体調が悪い時はカンスが代行しているようだ。
次にこの集落から西方にある国はかつての
この国は大陸でも大きな国の1つで、代々アルトリア、つまりアルゴノートの血統の血縁者が王となり統治しているようだ。
またこの王国の近場には【三大迷宮】と呼ばれる場所がある。
三大迷宮についてはまたの機会にしよう……
(取り敢えずこの後は王国目指すのがいいかな。アレの回収の必要もあるしな)
そして夜国ウルク、シュメール王国と隣接している『ガルバス帝国』だな。
どうやらこのガルバス帝国はシュメール王国の一部の者達が離反し作り上げた国家の様だ。軍事国家としての面が強く代々離反した者達の最も強かった人物を、リーダーを皇帝としているようだ。
帝国の話をする際、ミュリア、カンス、シーラはしかめっ面を浮かべたりと、あまり良い評判とは言えない国だとアルトは感じた。
それも当然で帝国は奴隷制度を採用しており、特に闇夜族の者を家畜のような扱いをしており、集落を襲い奴隷として攫う事もあるようだ。
どうもミュリアを襲ったのはこの帝国の騎士かもとの事だった。
(あいつ等は奴隷を求めて来たってことか…)
シュメール王国のさらに北方に中立を掲げている『リーン共和国』と呼ばれる国があるようだ。この共和国は商業都市としての面があり、別名商人の国と言われるほどである。この国に手を出すという事は商人全てを敵にすると言われるほどである。
そして、共和国から北西の海を渡る先に三大迷宮の1つがあるようだ。
(物資は大切だからな…覚えておくかな……あと、立ち寄るのも忘れない様にしないとな)
そして帝国の東方にある巨大な砂漠地区の先にあるのが、現在の最大にして宗教国家である『イーリアス聖王国』が存在するようだ。
この国は元々アルゴノートの盟友であった『聖騎士』の故郷であり、興した国家で、宗教的な面から人ならざる者である闇夜族に対して【人間至上主義】と言う価値観を持っているが故に嫌悪している者が多いとされている。
(はぁ…アイツの故郷であり、興した国とはいえ、何ともなあ……まあ、昔俺も揉めたしな、あの連中とは)
最後に大陸の西東にある一年中吹雪いており人が住むのは不可能とまで言われているリューン雪原。ここに三大迷宮の3つ目があると言われている。
とまあ、今存在する国の情報等を聞いた後、取り敢えずこれからについて考え始めようと思ったんだが、ニュートラルが「…今日は遅いし、ここに泊まられてはどうか?」と提案して来た。いつの間にか日が落ちてきており間もなく夜になるようだった。森に囲まれておりあまり日が入りにくい事もあるだろう。
アルトはニュートラルの提案に対して、
「いいのか?ここでは俺は異分子な存在のはずだ。アンタは良くても他の者が歓迎するとは思えないが?…先に言っとくが、俺は、俺に害をもたらす存在に容赦をするつもりはないぞ」
「なぁに、どの様な存在であろうと、我々の一族は皆家族も同然、その家族を助けてくれた者を邪険にはできまいて」
それを聞いて正直お人好しだなと思うも、もう夜になるし、野宿するにはいささか装備が足りないと考え、現状それが一番良いと判断し、アルトはニュートラルの提案を受け入れた。
さすがに疲れたようでニュートラルはその後、ベッドにて休むようだ。面会後、アルトはここに泊めてもらう事になり、ミュリアに泊めてもらう部屋まで案内された。
案内された部屋は机にベッドがあり寝泊まりするには十分な環境だった。
アルトが部屋に入った後、ミュリアは「何かありましたら、声を掛けてください。私もここに住んでいますので」と自室の場所を教えた後部屋の方に向かっていった。
・・・
俺はしばらく部屋にあったベッドに横になりつつゆったりとしていると、
「そろそろ夕飯くらいか」
と、至った。
正直空腹感が半端なかったのだ。
今日、朝は
アルトはベッドから体を起こし部屋を出ると、ミュリアの部屋を目指した。
「えっと。確か此処って言ってたな」
アルトはミュリアの部屋に着くと、「ミュリア、聞きたい事があるんだ、開けるぞ!」と言うと、中のミュリアは何やら慌てたように「え、ま、まって!?」と言ったが、アルトは気にせずドアを開けてしまった。
ドアを開けたアルトは、そのまま硬直した。「しまった!」と言わんばかりに。
その理由は、部屋の主である、ミュリアの姿が原因だった。
ミュリアは着替えていたのか着ていた服を脱ぎ下着の状態だったからだ。
ミュリアは顔を真っ赤にするとその眼は涙目になり叫ぼうとした。
その瞬間、アルトは瞬時に「すまん!!」と言うのと同時にドアを閉めたのだった。
意外と防音性のある素材で出来ている家だったので、ミュリアの悲鳴が外に漏れる事はなかった。
他の者に聞かれたら面倒事になっていただろう。一瞬の判断でドアを閉めたのは良かったと言えた。そして、アルトは「やっちまったなあ~」と後悔しつつ溜め息を付くのだった。
暫くした後、ドアが開き、顔を真っ赤にし頬を膨らませ、明らかに怒ってますよ!と言わんばかりにアルトを睨んでいるミュリアが出てきた。
「…アルトさん。何か言う事はありませんか?」
「あぁ、すまん。悪かった。とにかく悪かった」
アルトはとにかく、今回は自分に非があるのでとにかくミュリアに謝った。
何度も謝るアルトに、ミュリアは大きく溜息をつくと怒った表情から呆れた表情で、
「……はぁ~。もう良いですよ。次からは気を付けてくださいよ!…まったくぅ、女性の部屋に入る時はちゃんと許可を貰ってからですよ。もう…」
と、赦してくれた。
赦してくれた後、「それで何か用ですか?」と言われた後、アルトは食事が出来る、もしくは作れる場所をミュリアに聞くと、「…アルトさんは料理出来るんですか!?」と、ジト眼から目を丸くして驚かれた。
(そんなに驚く事か?)
ミュリアに案内された厨房に入るとまず置いてある食材や調味料等がどうか確認すると「まあなんとかなるか」と料理を始めた。
アルトは手際よく下ごしらえをしていった。
…アルトは物心ついた時から1人だった。
かつての『魔王』との戦いに身を置くまでは一人で冒険者として旅をしていた。
一人旅に必要と“精霊王”に言われ、簡単なものから難しそうなものまで旅の中で作れるようになっていた。
しかも、
故にアルトは地球の料理とアストラルの料理の両方を習得し今ではアルトの料理スキルはかなりのものとなっていた。
(そういえば、あいつ、あの後どうなったんだろうか?)
放課後に待っていてと約束していた優菜の事を思い出しつつ料理をしていると、気になるのか一緒にその様子を見ていたミュリアはわくわくと耳をピクッと動かしながら俺の動作を見ていた。
アルトは「一緒に作るか?」と、ミュリアに聞いたが、ミュリアは顔を赤くするとすごい勢いで首を横に振った。どうやらミュリアは料理が得意ではないようだ。
アルトは、ミュリアのその様子に苦笑した。
そしてアルトが料理を1品作り終えた頃に、アルトとミュリアの様子を見に来たカンスとシーラの2人が入ってきた。
どうやら2人は様子を見に来てまず2人の部屋に行こうとしたようだが、何やら美味しそうな匂いにつられて食堂にやってきたようだ。
料理を作っているのがアルトだと知ると2人も最初のミュリア同様に驚いた様子だった。
(そんなに俺は料理をするように見えないのだろうか?)
そんな風に考えていたら、気が付くと集落の住人達(特に子供達)も匂いが気になっていたのかコッソリと覗いていたようだ。
…さすが獣人族と言った所か…獣人族は種族特性で五感に優れているのだ。
その様子に「やれやれ」と思いつつ苦笑したアルトは、ミュリアに他の集まった者達に、一緒に食べるか聞いてもらうことにした。
やっぱり食事は多い方が楽しいからな。…こんな風に思うなんて俺も丸くなったな、ホント。
ミュリアが集まって来ていた他の皆にどうか聞くと「食べたい!」皆口を開いた。
中には口の端によだれが垂れている者すらいた。
(そんなに食いたいのか?)
そんなこんなで俺は一宿の礼としても他の者達の分も作っていった。
他の者たちも俺の料理している様子が見たいようで覗く者がいた。
皆、作っているものが今まで見たことのない不思議なもの(今回作っているのは地球の料理)が多かったようで懐疑的だったが、出来上がった美味しそうな匂いに皆「…ゴクン」と喉を鳴らしていた。
その様子からアルトは「…まっ、作っているのは、あちらの料理だからな」と、小さく呟いた。
(”……あちらの世界?“)
そして料理が出来上がったので集まった者達に出来たのを一番広い大広間に運んでもらい、宴会騒ぎをする事になった…
皆、祈りの言葉を呟いた後、一斉に料理に手を伸ばしていった。
警戒心って何だろうか。友好的でない人間が作った物を遠慮なく手にする。普通なら毒とか疑うんじゃないのだろうか…
そんな疑問を抱いていたアルトにカンスが語った。
「俺ら獣人族の多くは五感、特に嗅覚が発達しているからな。匂いで大抵、何か入ってたりしても分かっちまうのさ。にしても…この、サクッとしたこの芋?うまいなあ~」
まあ、知っているがな。
ポテトフライを頬ばっているカンス達のその様子に美味しい物は、世界最強?とアルトは苦笑するのだった。…
そしてあっという間にお開きとなり「凄くうまかったよ」「これなら何時までもここにいて欲しいな」等と言ってくれた。特に、門から一緒にいたカンスとシーラ、そしてミュリアと仲良く騒いだ。
宴会がお開きになり参加した住民たちはそれぞれの家に帰った後、俺は族長宅から少し外に出て涼しんでいた。
「ゆったりとした時間だったな。まっ、久々に楽しかったからいいか……これからどうするか……」
アルトは、今は亡き旧友達との思い出や、今後の方針について考えていると“精霊王“の声が聴こえてきた。
「“おやおや…優しそうな表情だね…いやはや~…“」
「…」
「“あの頃に比べて優しくなってるねェ~
「ふん。まあ、そうだな。あちらで過ごした“僕“として過ごした記憶があるからだろうな。…それにしても、俺も驚いたよ…たった2年が、まさか1000年もの時が過ぎていた事にはな」
「“そうだねえ~時間の概念に関しては仕方ないよ…
「どういうことだ? 俺が必要とは? それに1000年が経過したからって」
「…“言葉の通りよ。この世界で1000年の時が経過した事でこの世界に再び綻びが発生し始めているの。…かつて、『魔王』が発生した時のようにね……ん?“」
「何!? それは、どういうことだ!…おい“精霊王“?…おーい!」
話の途中で急に“精霊王“の声が途絶えた。…「どうしたんだ?」と思った瞬間、俺の後ろから一人の気配を感じた。
「ねえ、どういう事? あっちの世界やら精霊王やら…それに“アルゴノート“ってどういう事?」
そこにいたのは驚いた表情をしていたミュリアだった……
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