0-5:幕・・・運命の時…僕が『俺』になる時故郷に戻る。
この世界での生活は楽しかった。
僕には記憶がないが、恐らくこんな風に沢山の人の中で触れ合うような生活はなかった様に、今ではそう感じている。
僕は今日まで沢山の未知なるモノに触れた。知らない事を知って学び得るのは嬉しいと実感していた。
その目新しい物の中ではこの世界、と言うよりこの国の武装の類、見た事もない『刀』や『甲冑』、そして僕が最も興味を惹かれたのは機械文明、そして科学知識だった。
得に『銃』と言うものに魅力を感じた。僕はネットワーク技術を利用し興味のある物を徹底的に調べつくした。その物を構成する格子、そして素材に付いて詳しく知った。
材料が手に入れば自分で作る事が出来る。そう確信するに至っていた。
それに、僕はこの世界で友人とまで言える存在にも巡り会えた。
記憶を失い倒れていた僕をいつも支えてくれた優菜。そして園長先生に、吾郎、陸斗、勝実、舞華、里久、沙羅、恵理香の子供達。2年経ち皆それぞれに成長し大人となっていった。
剣道の授業にて手合わせを切っ掛けに交流し今では剣道部部長にして僕を除いて最強の剣道少年である、稲垣禅。
科学の授業を切っ掛けに親しくなった、砥部智樹。智樹の知識が僕の新たな扉を開く切っ掛けになった。感謝しきれない。
途中編入である僕を、記憶のない僕に親身になってくれた快いクラスメイト達。
他に沢山の、新鮮な出会いと経験に、本当に毎日が楽しかった。
………でも…
…でも、どうしてだろうか…僕の心の中にいる、まるでもう1人の自分が叫ぶのだ。
…大事な者を忘れたままで良いのか?
…物足りなさはないのか?
…この世界に留まっていていいのか?
と、訴えている様だった。
そんな空虚感を覚える様になったある日だった。
あの不可思議な夢を見始めたのは……
+
正直最近見る変な夢のせいか寝不足気味でもあった。
その日は昼食も摂らずにほとんどの授業を寝てしまったようだった。
先生達も全然起きない僕に呆れた様子でスルーする事にしたようだ。
智樹達にも苦笑して呆れられてしまった。
意外だったのは別のクラスの優菜も今日はどうやら起しに来てはくれなかったようだった。
そして放課後となった。
ホームルームがいつもより少し早く終わった。
智樹達に遊びに誘われたが「この後用事があって今日は無理」と挨拶すると僕は教室を出てゆっくりと歩きながら朝に優菜が待っていて欲しいと言っていた校舎裏に向かった。
(優菜のやつ何の用だろうか?)
と、アルトの頭には告白されること等まるでなかった。
というよりも好意を持たれているとさえ微かに抱いている程度で気付いてすらいなかったのであった。まさに朴念仁である。
「優菜はまだ、か…まあ、のんびりと待つかな。必ずって一……ン?なんだ、アレは?」
校舎裏に着くと肝心の優菜はまだだったが、そこには不思議な光を纏ったなにかがいた。
不思議な光を纏ったなにかが僕に気付いたかのように、こちらにフラ~と向かってきた。そしてその“光”は近づきつつ僕に話しかけてきた。その際どうしてか僕は動く気がしなかった。
「“逢いたかったわ。
(あれ、この声…もしかして最近、夢に出てきていた声じゃ?と言うよりこれ、僕の事を”アルゴノート“って呼んだのか!?アルゴノートって誰の事!?…なんだろ、その名前、なんだか懐かしい気が…)
夢に出てきていた声の主に、「一体何なんだ⁉」と疑問に思った瞬間、目の前の存在が物凄い光を解き放った。
そして僕は動く事も出来ずその発する光に触れた瞬間だった。まるでスイッチを「カチッ」と入れ替えるかのように“俺“の意識が、シン・アルゴノートとしての記憶が甦ったのだった。
「“フフ…どうやら無事に
俺は声を出す間もなく周囲の光が更に弾けた瞬間、この身がこの世界の次元と、あの世界の次元との狭間を跳躍する感覚に包まれたのだった。
「あのバカ“精霊王ぉ“! なにが『“待ってるねぇ♪♪“』だァ――!!」
と、俺は大きく叫ぶのだった。
・
・
・
「くっ、ここは?ってこの魔力の感じは…まさか」
そして気づくと俺は懐かしい雰囲気をもった先程までいた地球にはない概念である魔素に満ちた世界。その世界の深い森の中に俺は立っていたのだった……
そう、俺は帰ってきたのだ。俺の生まれ故郷である『精霊世界・アストラル』に……
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