0-3.Ⅳ:現・・・初めての学園

夏の間、僕は施設での生活を送っていた。

その間に、子供達GBKゲーム・ボーイ・コンパクトという機械でソケット・モンスターと言うゲームをしたりした。この世界では人気があり色んなバージョンが出ているらしい。炎やら草と呼ばれる初期版に、宝石の名前を題したバージョンがあるようだ。僕が子供達に薦められたのは最新のVCヴァーチャルコンソールアクアブルーにライトイエローの2種類だった。

当然僕が本体とソフトを持ってないので買いに行く事にした。本体はそれなりの値が付いたけど持ち金はまだまだあるので問題ない。ソフトは、僕はアクアブルーにした。

お金に関しては、僕がここに倒れていた際に着ていた服のポケットに3つ程宝石が入っていたのだ。出元は分からないけど、なぜかこれは僕のものとはっきりしていたのだ。

始めて見た女性陣は眼を輝かせていたな。

ただ、持っていても宝の持ち腐れになるので、僕はこれらをお金に変換できないかと園長に訊ねた。僕と園長先生は質屋に赴き鑑定して貰うと、そのまま質に入れて替金した。僕にはお金の価値が分からないが、「かなりの値が付いたわ」と園長先生に教えてもらった。

他には、「子供達ばっかり構ってずるい!」と膨れる優菜と街の方に外出し買物に付き合ったりもした。勿論勉強にも精を出して取組んでいた。



夏休みの課題の自由研究として、僕はこの国の歴史に関係するものにしようと考えた。

僕は優菜や子供達と共に、隣街にある『歴史資料博物館』に赴いた。

本当は優菜と2人で行くはずだったが、子供達に知られると「2人だけなんてずるい!」と抗議され共に連れて行くことになった。


『歴史資料博物館』

この国の昔の文化の名残を保存し、後世に伝える事を目的に建てられた場所。

僕はパンフレットも見て【戦国時代】の展示に興味があった。

なんだろ、血肉湧き踊るとでも言うのだろうか。一目見て気になったのだ。

そこには鎧、甲冑や、見たこともない鋭さと鋭利さを兼ね備えた『刀』と言う物に魅入られていた。

なんとなく自分の知っているような気がしていたのは、相手を叩き切る『剣』だった。

だが、この『刀』は切断するが正しい気がした。

そして、この『刀』を見ていると自分でも作れるかな?と言う不思議な興味が湧いてくるのだった。

あとは、この『刀』を用いた剣術についても知る事が出来た。


「ほぉー、この、居合抜き…抜刀術って言うのか…面白そうだな…」

「アルト兄さん、抜刀術ならこのサムライXが参考になるよ」

「ふむ……ほぉ、色んな種類があるんだなぁ、ありがとうな、陸斗」

「いえいえ…」


僕は『刀』についての構想と見解を課題としてレポートにして提出した。

提出したら、なんか教師陣の社会科の教師から課題レポートが、かなり評価されたようだった。

それもあり、僕の知らない所で有名人扱いにされていた。

一年目の定期テストでは毎度【国語】85以上、【数学】100、【理科】時々うっかりして間違い90以上、【社会】90以上、【英語】100を叩き出していた。

周囲からは頭脳明晰な天才が現れたとか噂されていた。


「アルトって凄いね、本当に頭良いんだね。何かコツとかあるの?」

「うーん…学ぶのは好きだからと、としか言いようが無い…かな。そういえば、優菜の成績はどうなの?」

「うっ……普通くらい、だと思うわよ?」


優菜のテスト結果を見せてもらったが、平均点以上はあった。

優秀だと思うのだが、僕が言うと嫌味になるので言わない。

趾、他の教科では、優菜はある一つの科目以外、高い評価を得ていた。

【芸術】【音楽】の分野に秀でていた。僕もこの二つに関しては一定以下なのである。まあ、工作系は僕の方が得意なことが分かったけど。作るのは好きなのであった。

そして、皆に意外と言われたのが【家庭科】の調理だった。

絶品と、今まで食べた事がない味付けだと賞賛された。

逆に優菜は周囲から絶対味付けに参加させないと徹底されていた。

優菜が初めて受けた調理実習で、優菜の作ったものを食して倒れた被害者が大勢で出たのである。

まあ、僕も被害を受けたので分からない事も無い。

基本、僕が一緒の班になり、目を光らせつつ一緒に作った。

無論僕たちと組むほかの人は恐々していたけど。


そんな風に、過ごす学園生活の中で、僕は1人のクラスメイトに興味を持っていた。

その彼の名前は確か、砥部智樹とべともきだった。

彼と初めて会話したのは夏季休業が明けて学園生活が再開されて、1月経った理科の授業であった。

その日の理科は【科学】と言う分野だった。

僕はこの科学に、深い興味が湧いていた。


「……そうかぁ、この2つは、こうすると…うぅん、難しいな……」


実験の際にいまいち要領を得ない僕は、四苦八苦しながら教科書にそって繰り返していた。

同じ班であった優菜もあまり得意ではないと、解らないようだった。

もう一度して見るか。そう思い直し再開しようとした時だった。

隣の班だった彼が四苦八苦している僕たちに見兼ねて教えてくれたのだ。

彼は的確な手際で感心する僕達であった。

その日は彼と一緒に盛り上がるように授業を受けた。

楽しいと素直に思った。


「今日はありがとう。色々興味深い事が理解できたよ。えっと…」

「どういたしまして、かな、アルト君。俺は砥部智樹。智樹って呼んでくれたらいいよ」

「分かった、智樹。僕もアルトって呼び捨てでいいよ」


僕は彼と意気投合し一緒の授業をよく受ける様になった。

僕、優菜、智樹のグループが出来た。

合間に僕は智樹の事を聞いた。

智樹は科学部と言う部活に入部していた。

僕は智樹に【科学部】についてどの様な部活なのか聞いた。


「科学部?うぅん、そうだねえ、一言で言うと…」

「…一言で言うと?」

「それは……オタクの集まり場だァ!」

「……ハイ?…オタク?」

「そうだよ。科学部と銘打ってるけど、その実態は自分の興味ある物を持ち込み自由に出来る場所なんだ。俺は、プラモを持ち込んで制作しているよ」

「プラモ?……それってプラモデルってヤツかい?」


確か夏休みの時に五郎がHGの模型を作ってたな。アレが確かプラモデルってやつだったはず。

因みに難しいと泣き付かれて手伝ったのは秘密だ。


「あぁ、そうだ。これがなかなか奥が深いんだよ。細かい所に拘るのに根気がいるしね。因みに俺が制作しているのは、【銃】って言うモデルガンだ」


僕は智樹が口にした【銃】と言うものに興味を持った。


「それって、あれか?確か歴史館にあった火縄銃ってヤツか?」

「へっ。い、いや、全然違うって…俺が作ってるのはもっと最新の……」


智樹は言葉を一度区切ると、そう言えばと、僕が記憶喪失である事を思い出してくれたようだ。


「そうか、そうだったね。アルトは記憶がないんだっけ?…なら、分からないのも仕方ないか。うぅん……そうだ!ならさ今日の放課後うちの部に来なよ。丁度出来上がってるのが一つあったはずだし」

「本当に、いいの!?なら、放課後に御邪魔させてもらいに行くよ。どこが部室なの?」

「部室は理科室の隣にある準備室だから。じゃ…おっとチャイムか。じゃあ放課後にな」

「ああ、楽しみにしてるよ!」


そうして僕は放課後に科学部に赴く事になった。

未知なるモノに触れるのは何時になってもワクワクして来るのだった。



そして放課後、僕は理科準備室にやって来た。

コンコンと扉を叩いた後「失礼します」と扉を開けた。

中には3人の男子部員が何やらそれぞれ別の何かを作ったり、ブツブツと紙に向かって呟いていた。

チョット引き気味なった。何だか異様な空気感がある気がと本能的に感じたのだと思う。

そんな僕に気付いたのか智樹が僕の元に近付いて口を開く。若干不思議そうな表情をしているのが気になった。


「やぁ!アルト、来てくれたんだね。ようこそ科学部へ、歓迎するよ!……なんで瀬々羅さんが一緒に?」


智樹の視線は、僕の後ろにいる優菜に向けられていた。

そんな若干歓迎されていない様な智樹の視線に優菜は、


「なに?私が一緒だと駄目な様な部活なの?」


冷やかな眼で智樹に答える。智樹は「ひっ!?」と小さい悲鳴を上げた。

そうなのだ。放課後になって僕は、先に向かった智樹が待っている科学部に向かおうとしたのだが、


『アルト、何処に行くの?帰らないの?えっ、部活?科学部に行く?……科学部ってあれって聞いてるし、ブツブツ…』

『どうしたんだ優菜?どう―』

『わかったわ!私も一緒に行くわ!アルトだけだと心配だから!』

『……よく解らんけど、行くか?』

『うん!行きましょう!アルトに相応しいかどうか見せてもらいましょうか、フフフ』


その時の優菜は若干「怖いな」と背筋が冷えた僕だった。


そんなやり取りの後、優菜にビクビクしている智樹に案内され、僕は智樹の作ったと言うモデルガンを見せてもらった。今まで見た事もない角郭かくかくとしたシルバーのフォルム。こう魅せられるモノがあると一目見て感じたのだった。


「ほぉ~これが…」

「ふぅん、良く出来てるわね」

「そ、そうでしょ!それが今最新モデルの本物の銃なんだ。それにこれは少し改造を施してるんだ。ちょっとこっちに来てくれるか?」


そう言うと、智樹は僕と優菜を準備室の隣、つまり理科室に移動するよう促した。


「ちょっと、待っててね。的を吊るしてくるから」


そう言うと智樹は予め天井からぶら下がっていた糸に1mm位の薄い板を設置した。

僕達からは、5mくらい離れた位置だ。

設置が終わった智樹は僕達の元に戻ると、先程のシルバーのモデルガンを構える。

標的はあの薄い板のようだ。


「行くぜ、よく見てろよ!……ふっ!」


狙いを定めた智樹は引き金を引いた。モデルガンから『パシューン』と射出音が響く。

それ程大きな音ではないが驚きに値した。

けど……


「あはは…お恥ずかしながら、外したみたいだ…ガンシューティングは難しいんだ、あはは」


モデルガンから射出した玉は明後日の方向に飛んで行った。

なるほど、銃とは斯くに狙いを絞るのが難しい武器の様だ。

いや、アレはモデルガン。つまりレプリカだ。

本物ではない。それでも扱いが難しい。そこに好奇心が湧いてくる。

自分も試し打ちして見たいと。

僕は智樹に、御願いしてみた。智樹は「まあ、人に向けなきゃ大丈夫だろうけど」とOKをもらったが、優菜が「危ないわ!」と否定的だった。

僕は何とか優菜を説得すると、智樹からモデルガンを受け取る。受け取り時優菜からジトッとした「余計な事をしてくれたわね」と言う気持ちを含められた目を向けられ、智樹の手は震えていた。

僕は小さく「ゴメンネ」と智樹に呟いた。智樹も若干青ざめながら苦笑気味に「気にするな、ハハハ…」と返してくれた。


受け取ったモデルガンを標的の板に向けてみる。

右手で持ち、左手は狙いがずれたり反動に耐えるようにと右手を支える。

銃口と標的を合わせ狙いをつける。この時の僕はまるでハンターの如き眼をしていたのだろう。

獲物は決して逃がさない!

そういう眼をしていた。

そして一呼吸した後、僕は気を決し、モデルガンの引き金を引いた。


『パシューン』と発射音が響いた後だった。何かが当たった衝撃音が響いた。

命中したのは標的の薄い板だった。

見事撃ち込んだのだ。

板の中央部には穴があった。


「ア、アルトって、す、凄いね?初めて、しかも真ん中に当てるなんて…」

「いやいや、まぐれだって。運がよかっただけだよ。でも、撃たせて貰って思ったけど、なかなかの重量だねこの銃って。本物はもっと重いのかなぁ?」

「そうだね、このモデルガンは改造してる分、普通の一般モデルより重量があるよ。まあ、俺も本物を見たことないからなんとも言えないけど、本物の銃には鉛の玉が含まれるからな。それは重みが加わると思うよ。詳しくはネットとかで調べるといいと思うよ」


ネット?それは何か聞く前に優菜が僕の手を取る。

どうしたのと目を優菜に向けると、


「ほら、もう十分堪能したでしょ?それにもういい時間なんだから、夕飯の担当、アルトなんだから、作る時間なくなるよ。あの子達も待っているでしょうしね」


優菜に言われて「はっ!」と外に目を向ける。

外は夕方になっていた。今日は週末。僕と優菜は学園の許可を貰い週末の土日は孤児院に帰宅できるようになっていた。許可がすんなり出たのは僕の成績が高い事があったが、大多数は園長先生の計らいらしい。不思議な人だ。


「そっかぁ、なら早く帰ったほうがいいよ?いやぁ俺も楽しかったから、また学校で色々話そうぜ!」

「うん。僕も今日は楽しかったよ…わわ!?分かったって帰るから、引っ張るなって!じゃ、じゃあな、月曜日になぁ!」

「もう!早く行くよ、ばかアルト」


僕は、優菜に引っ張られるようにいそいそと帰る事になった。

この後孤児院に戻るまで不機嫌でプクっと頬を膨らませている優菜を宥めるのに苦労する僕だった。


「ハハ、瀬々羅さんって意外と嫉妬深いんだねぇ。それにアレは絶対アルトの事を想ってるんだろうな。肝心のアルトは全然気付いてないっぽいけど…しかし、怖かったな……」


準備室に戻ると智樹はそう口を零しながら腕を擦る。

恐怖。この日、智樹は2つの恐怖を感じたのだった。

一つは嫉妬深い優菜の視線。

そして、本人も気付いていないが、アルトが引き金を引いた瞬間確かに感じたのだ。鳥肌が立つほどに。

「まあ、いいか」と些細な事と忘れる事にした智樹は寮に帰るのだった。

そしてこの日よりアルトと友達の関係を築き、優菜の冷やかな視線の中、一緒に部活をしたりするようになった。


そう、この彼の存在が後にアルトの秘めた才能の開花と共に、新たな創造の扉を開く事になるのだが、それは、もう少し後の話だった。

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