0-3.Ⅱ:現・・・初めての学園

クラスのみんなの友好的な雰囲気のおかげで僕は不自由のない学園生活を送る事が出来ている。

特に優菜には感謝し切れない。優菜とは寮も一緒だ。

この黎明れいめい学園は男女平等がモットーとしている。だからこの学園のカリキュラムは男女一緒に行うものが殆どだ。体育や家庭科も一緒。寮生活も一緒なのだ。

………


転入して数日が経った。

これは体育の時間での一幕。

今日の授業は剣道と言うスポーツだ。

今日で2回目の授業。

この授業が実は楽しみだったりする。


この授業では剣道着に袴の上に、面、小手、胴、垂と言う防具を纏い、竹刀を武器に相手から、面、小手、胴の一本、技ありを取るスポーツなのだ。

初めて受けた剣道の授業で、なぜか竹刀が手に馴染む感覚があった。

授業の殆どは型の練習と素振り、打ち込みを行うものだった。そして最後に練習試合を行う流れだった。

正直、最初の方は物足りなさを感じていた。

【剣道は剣の理法の修錬による人間形成の道である】

剣道の基本理念だ。それを聞いて僕は心の中でこう思っていた。

“甘いモノだな!と……

しかし授業なのだ。真面目に受けないといけないので、退屈な気持ちのまま受け続けた。

そんな僕に気付いていたのかな。優菜は苦笑しながら僕を見ていた。

仕方ないと竹刀を振る。退屈な時間の中何かを掴めればいいなと言う感じにとにかく振るう。

振う毎になんだろ?

持っていたものを取り戻すかのような、そんな感覚を覚えてきていた。

シュッ!シュッ!!

感覚に身を任せる様に閉眼して、最後に本気で打ち込む。

フッと竹刀を振り下ろした瞬間だった。周囲が無音になったかのように静かになっていた。

息を吐き、構えを解く。


「……ん?…どうしたんだ、皆?」


クラスメイト達は驚いた様に僕を見ていた。

どうやら最後の打ち込みが凄くて驚いたとの事だった。

まったく見えなかったそうだ。


「ア、 アルトって剣道経験者だったのか?物凄いっとしか言えねえぞっ、今の!?」

「剣道の経験はない、と思うよ。まあ記憶がないからわかんないけどね」


1回目はそんな感じで終わった。


今日は稽古試合を行うとの事でひそかに楽しみだった。

しっかりストレッチをして体を解しておく。

そして二人一組による型取り、打ち込みの練習を取る。

そして楽しみだった稽古試合の時間となった。

まずは体育担当教師の男と、剣道部に所属している男とで模範試合をするようだ。

僕はじっと観察するように見つめる。

優菜も僕の隣で一緒に観戦する。

そして試合が始まった。

観察していて「つまらないな…」と思わず呟きが出ていた。その呟きを聞いた優菜が「えっ?」と声が聴こえた。


結果として試合は教師の男の勝利で終わる。


その後何人かの試合が進む。

「まだかな僕の番……」と自分の番が早く来ないかと、まるで子供の様に待っていた。


「はい、そこまで!互い礼。……さて次は、瀬々羅!」

「あっ、はい!アルトより先に呼ばれたわ。行って来るね、応援しててね」

「ああ、しっかり見ているしがんばれぇ」

「うん♪」


嬉しそうに向かう優菜。しっかり応援してあげよう。そう思った時だった。

一人の男子が僕のそばに近付いてきた。

その男子は最初に試合をした剣道部の男子だった。

隣のクラスなので名前は知らない。面識もないはずなのだがいったい何の用だろう。


「お前、確かアルトって名前だよな?」

「うん、そうだよ。僕に何か用?」

「次、俺と戦え!前の授業の最後の素振り、アレを見て手合わせしたいと思っていたんだ。だから俺と戦ってくれ!」


僕を相手に指名した名前は稲垣禅いながきぜんの眼を見た。真剣さを感じ取れるいい目だと思った。僕は「いいよ、やろうか」と挑戦を受けた。


「よしっ、さっそく先生に御願いしてくるぜ!…あっ、あと、瀬々羅さんの応援してやれよ!」

「うん……って、もう終わりそう?」

「やあああ!!」

「そこまでッ、瀬々羅なかなか良い感じに竹刀を振れていたぞ」

「ありがとうございます」

「……まずい、見てなかった…」


面を外して僕の隣に戻ってくる優菜に罪悪感が沸いてくる。応援して無かったが故に…

戻って来た笑みを浮かべる優菜。「やったよー、応援してくれたー」と笑顔で聞いてくる優菜に、済まなそうに「ごめん!」と最後だけしか見てなかったと謝った。優菜は頬を膨らませ不機嫌そうに睨んでくるのだった。

とにかく謝りつくした。


「むう…今度はちゃんと見て応援してよ、まったくぅ!」


と赦してくれ…えっ?放課後美味しいデザート作れ?……分かった。それで許してもらえるなら御安い御用さ。


「ええっと、次はそこの瀬々羅に謝ってる、シン。こっち来い!ご指名だ!」

「あっ、はい。今行きます……行ってくるね、優菜」

「うん、がんばってね、無茶しちゃだめだよ?」

「分かってる……フフ」


優菜の応援を胸にして向かう。

うん、ワクワクしっぱなしだ。

因みに教師の人は基本ファミリーネームで呼ぶらしいので、アルトは名前なので、シンと呼ばれる。



呼ばれて僕は稲垣禅と対峙する。

まずは互いに礼をする。

竹刀を合わせ離れる。

相手は気合の入った声を出す。

僕はそんな相手を、ただその動きを、一瞬を逃さないかの如く見通す。

経験者と言う事もあり、先程まで見ていた誰よりも重圧を感じる。

ただ、誰よりも感じるだけだ。脅威には感じない。それが僕の実直な感想だった。


「はあああっ、行くぜ!」


相手から摺足で一歩踏み込むと竹刀を僕に振りかぶる。

狙いは僕の竹刀を握る右小手だった。


「甘いっ!はっ!」


迫る竹刀を、予測の範囲内だったので竹刀で防ぐ。

相手は驚く。一瞬隙が出来ているほどに。周囲の先生も学生達も驚きに口が空いているようだ。

僕は防いだ竹刀を弾く様に、距離を取る。

今ので僕は相手の力量を把握できた。


「今度はこちらから行きます、っつ!」


僕の声に動揺していた相手の男子は慌て気味に構えを直す。

僕は一足で相手に迫り竹刀を振う。狙いは先程彼が打ち込んできた右小手。

彼も僕の狙いに感づいたのか、竹刀で防御する。

竹刀と竹刀の衝撃音が木魂する。


「くうっ、お前っ、手加減でも、してるのかぁ?」

「…なに、が?」


僕がどうやら全力で竹刀を振っていないことに気付いたようだ。内心僕は(気付かれたのか、良い目をしているな)と彼に称賛を送った。

鍔迫り合いの状態で彼は僕に告げてくる。


「俺は、これでも、剣道経験者だ!相手の力量を、推し量るくらいできる!それに、はっああぁ!」

「!?」


彼は力を込めた声と共に僕の竹刀を弾き、仕切り直すと息を整える。

残り時間は1分もない。

次の攻防が最後となる。

彼は鬼気迫る様に僕を威嚇してくる。


「はぁ…次が、最後だ…だから、お前の本当の全力を、あの時見惚れたお前の剣を、俺に見せてくれ!」


必死な形相と言うのだろうか。面をしているので表情までは解らない。だが、面から伺える眼は真剣そのものだった。

僕に全力を、あの時に感じた、自分の内に秘められた何かを解き放ってまで剣を交えたいと言う彼。


「アルトぉ!頑張れぇ!」


僕の耳にはっきりと届いた。

優菜の応援する声が。

僕は覚悟を決めた。そして僕は構えていた竹刀を右手でだらんと下げた。

彼は僕の行動に「何の真似だ?」憤りを露わにしていた。

周囲も不思議そうな声がひそひそと零れる。

僕は気にせず、彼に向かって宣言する。


「……行きます。この一撃に僕の全て…籠めます…」

「!?」


その宣言にて僕は先程までとは違い、明らかな殺気を籠めた目を彼に叩き付ける。

“剣気”をぶつけた。

当てられた彼はビクッと震えたように見える。

一歩後退するほどに。


僕は無動の状態から足から指先までに力を籠める。

そして、一瞬にて駆ける。彼は反応出来ず、何が起きたか解らないという表情を浮かべる。唯分かるのは、自分の右胴に撃たれた衝撃があると言う事だった。


僕はそんな彼に近付く。


「どう、だったかな?僕は全力を出したつもりだけど?」

「…えっ……参った……ここまでなんてな…」

「そ、そこまでっ!」


この授業の後、彼こと稲垣禅とは親友の関係となった。

たびたび僕のクラスに訪れては、部活勧誘を必死に頼んでくるようになった。

一年目は色んなことに興味があったから部活には所属しなかった。

二年目の夏には、どうしてもと御願いをされ練習試合に参加した。

5体5の団体戦で、僕は先鋒、最初になった。

…「やりすぎたなぁ」と思う程に僕はやってしまった。

1人で5人全員を倒してしまったからだ。

一緒に応援してくれた優菜は凄いと喜んでいた。

その場にいた優菜以外の全員が絶句したのは当然だった。

無論勧誘が激しくなったも当然の流れでしつこい勧誘に僕は仕方ないと準部員と言う形で入部する事になった。


そして夏の個人戦に参加し全国大会まで進み、優菜や子供たちの前で見事優勝を果たしてしまったのだった。




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