0-2.Ⅲ:現・・・僕が『僕』として

新生活から2か月が過ぎたある日。


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…そんなこんなで孤児院での生活を始めて二ヶ月が過ぎた。

記憶がない故に解らない、というか「なにこれ?」と思う場面が何度かあった。

その度に、この孤児院『ふれあい』の責任者であり皆の御母さん役である優しく頬らかな園長先生、いつも僕を支えてくれた同年代の少女、優菜。そして共に暮らす子供達と支えられながら生活していた。

子供達は全員で7人。


やんちゃで活発な少年、五郎ごろう

遊ぶのが大好きだが勉強は苦手なのだ。今は小学4年生だ。


「アルト兄ちゃん!一緒にキャッチボールしようぜ!」

「キャッチボール?…ふむふむ、なるほど…よし、やろうか!でも、ちゃんと勉強もするんだぞ?」

「えぇえ!?」


眼鏡をかけた物知りな少年、陸斗りくと

よく僕に色んな本(漫画本含む)を薦めてくれる。今は吾郎の1つ下の3年生だ。


「アルト兄さん、この本どうかな?難しくない漢字とかないから読みやすいよ!」

「本……うん、読めそうだ。ありがとうな『ナデナデ』」

「うう、恥ずかしいよっ、えへへ」


一見少女と見間違えそうな外見がコンプレックスの少年、勝実かつみ

男らしく振り舞いたいらしいが、どうしても女の子ぽく見えるのだ。実際僕も可愛いと思う事ないかな…。まあ、今はまだ小学3年だ。これから成長していくだろうしな……。


「お兄ちゃん、そのねぇ?」

「ん?どうしたんだい?」

「どうしたら、お兄ちゃんみたいに恰好良くなれるの?」

「勝実は線が細いからね、運動とか頑張れば筋肉が付くよ。筋が付けば自ずと男らしくなれる気がするかな」

「…運動苦手、だけど…うん、がんばる!」ムンと気合を入れているんだろうけど…

「(…可愛い気がするな)」


僕をお兄様と呼んで慕ってくれる女の子、舞華まいか

この7人では最年長の小学5年生なのだ。自己自讃な所はあるが色々手伝いも進んで行う良い子だ。


「私がお兄様を支えて見せますわぁ!ああ!流石私ですわ!」

「おお、サンキューな。でもみんなも手伝ってくれるからぼちぼちでいいぞ」

「わかりましたわ、お兄様。何か御用でしたら私に、なんなりとどうぞ、ですわ」


大人しい物静かな少女、里久りく

口数は少ないが、よく周囲を観察している不思議な子だ。今は小学4年生だ。


「……ジー…」

「ん?どうしたんだい?僕を見て面白いか?」

「…うん、面白い……だから、ジー…」


どこかいつも怯えを含んでいる少女、沙羅さら

避けられ気味なため園長先生に事情を聞いて、両親に虐待を受けていた過去があるとの事だった。

この7人では最年少の小学2年生だ。


「…沙羅?隅で何してるんだ?」

「!?……『ブルブル』……何っ…」

「……なんだかわからないが、ごめんな怖がらせてしまったか?」

「……う、ううん…ごめん、なさい」


遊んでとよく誘ってくる熊のぬいぐるみを抱きしめている少女、恵理香えりか

ゴスロリと言う変わった服を着ている(似合っているからいい)、お人形の様な子だな。今は小学3年生だ。


「おにいちゃーん、きょうもあそぼー!」

「ごめんな、今日は勉強が……」

「えぇ~ヤダあ~…いっしょにあそぶのぉ~」

「…はぁ……まあ、いいかな。分かったよ、何をして遊ぶんだ?ほらほら、泣いてると時間なくなるよ」

「わあ~い、ありがとー!えっとねえ~」


この7名の子供達に、僕、優菜、園長を含めた10名で楽しく暮らしていた。



ある程度のこの世界の知識を学ぶ事が出来たと実感し始めた頃だった。

園長先生からある提案を受けた。


「えっ?学校に入って見る気はないか、ですか?」

「ええ。ここでの生活にも慣れ、基本的な知識を学ぶ事が出来た。ですが、ここではそれ以上より知識を得られませんからね。それにあなたも、年齢もおそらくですが優菜と同じくらいでしょう。学校に通う事で色々学ぶことも出来ましょう。そして、やはりここでは同年代の友達を作る事は出ませんからね」

「それは、そうですね…ここにいるのは、優菜以外は小学生の子供達が殆どですし。まあ、僕も気にはなってはいましたし」


僕は基本知識を学び終える間、ずっと此処で暮らしていた。。

他の子供達や優菜は当然学校に通っている。

皆が帰って来て色々と話を聞かせてくれたのに、僕も気になっていた。

興味があったのだ。

だから僕は園長先生にお願いした。


「分かりました…ん、おや?」

「ただいまぁ~!」

「ん、この声は優菜だな」


どうやら優菜が学校から帰ってきた様だ。

帰ってきた優菜はリビングルームで園長先生と僕が話をしているのに気付いた。


「あっ!先生、もしかしてあの話をアルトに?」

「ええ、今その話をしていた所ですよ。決まったとこでもありますけど」

「そうなんだぁ。で、アルトは何処に通うの?」

「まだ決めてない……この資料の中から選べるんだよね?」

「はい。ここから近い学校の資料ですよ」


テーブルには3つの学校案内の資料が置いてあった。一つ一つ手に取ってみて見るが、これっていう決定感にかけていた。僕は優菜に聞いた。


「優菜は何処に通っているの?」

「えっ?えっとね、私はここよ。この【黎明れいめい学園】と言う共学の学校よ」

「……優菜がいるなら、ここにするよ」

「ほ、本当に?…そっかぁ~私と一緒が良いのかぁ~」

「?」

「あらあら、嬉しそうにしちゃって優菜ってば。でも、あの子達が騒がないといいのだけど」

「あの子たちが騒ぐかもってどうしてです?」


学園に通うだけで子供達が騒ぐのが不思議な僕に園長先生は教えてくれた。

どうやら僕が選んだ【黎明学園】は全寮制の学校であるらしい。基本は在籍している学生は寮生活を送る事になる。つまりここで出て行くという事だ。

まあ騒ぐ光景が何となく思い浮かんでくるな。と、まだ学校から帰って来ていないあの子達を想像して苦笑する僕だった。

実際、このあと皆に報告したら「なんでだよぉ~」「ヤダぁ~」「……さみ、しいよ」と大騒ぎだった。

園長先生と優菜の説得で渋々ではあるが皆、納得してくれた。


(なんでこんなに慕われるんだろ?自分的には人付き合いが得意と言えない気がするのにな……)





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