0-2.Ⅱ:現・・・僕が『僕』として

僕が此処での生活を受け入れて、まずこの施設の概要や決まり事、つまりルールの説明を聞いた。

この施設がある街は、安城木あじろぎ町と言う街だそうだ。

そして、この施設の名称は『ふれあいの里』と言い、親を失ったり、親権放棄等の理由で1人となった子供を受け入れる場所だ。ここで暮らす子供は身元があやふやな子もいる。まあ、僕がそれに該当しているわけだ。そして、社会に出て行ける年齢に達した者は施設を出る、という事だそうだ。

この説明後、僕は自分の身元の受け入れはどうするのか聞くと園長先生が何とかして下さるそうだ。

だから心配はいりませんよ、言われ僕も納得した。

一通りの説明を聞いた後、僕はベッドから体を起きてみた。

うん。ふらつきもないし体の方は特に問題はなさそうだった。まあ、チョット体が重いかな?と思わなくもなかったけど。勿論太っているわけではない。寧ろしっかりした筋肉がついている良い身体つきをしていた。


「うん、問題ない……けど…服かな、問題は」


僕の着ていた服は黒のシャツにズボンと言う出で立ちだった。

その着ている服はどこかしらが破けていたりとボロボロと言う感じだった。


「ふふ、こちらで見繕った服です。こちらに着替えるといいですよ」

「まあ、男の子だしサイズがある程度あってたら問題なと思うけど、違和感あったら言ってね」

「あ、ありがとう。何から何まですみません」

「ふふ、それはいわない約束ですよ」

「そうだよ!これからは一緒に暮らす、そのぉ、家族、みたいなものなんだから、遠慮はなしだよ!」


2人の御厚意に感謝し受け取った服に着替える。

僕は上から着替えようと脱いでいくと、ユウナが真っ赤になりながら慌てて部屋を出て行く。

園長先生も「あらあら、あの子もそんな年になったのねぇ」と笑顔を浮かべ部屋を出て行く。「着替えが出来たら出てきてください。部屋の外で待っているから」と外から声が聞こえた。

僕は「わかりました」と声を掛けた後、待たせるのは忍びないと服を脱いでいく。

そして、受け取った新しい服に着替えていく。

着替えての感想だが、サイズなどは特に問題はなさそうだった。ただどうやら先程まで着ていていた服と、今纏っている服とは材質が多少異なるという事に気付く。

まあ、着られる分には問題はなさそうなので気にしない事にした。

それより気になったのは自分の身体かな。体のあちこちにあまり目立たないけど小さな傷があった。

まあ、うっすらとあるだけなので注意して見な限りは分からないくらいだと気にしない事にした。

気にしたって今の僕には判らないのだからしょうがない。


白い半袖のシャツに、紺色のジャージを穿いて着替えは完了した。

着替えが終わった後、待たせている園長とユウナのいる外に向かう。

ドアを開ける。


「お待たせしました、2人共」

「いえいえ、良く似合ってますよ。ねえ、優菜?」

「ほえ?は、はい、うん、そのぉ、似合ってるよ、アルト」


僕の姿を見て園長は笑みを浮かべて似合っていると褒めてくれた。その後何やら含みのある笑みをユウナに園長は向けた。ぼお~と僕を見ていたユウナは園長の恐らくからかいを含んだ声に反応し、頬を染めつつ僕に似合ってると褒めてくれた。

何だか気恥しい気分になる僕だった。


そんなやり取りの後、まずこの施設で生活している他の子供達の紹介をしてくれるようだった。

皆、遊戯室にいるとの事で遊戯室に案内される。

そして2人の後に遊戯室に入ると、中には7人の少年少女の姿があった。


「皆さん、今日から此処で一緒に暮らす、アルト君です。さあ、アルト君一言挨拶を御願いしますね」


挨拶をするように促された僕は「はい」と答えると子供達をそれとなく観察してみた。

年はまだ年少と言うくらいだろうか、僕と同い年くらいの子は、僕の隣にいるユウナくらいかなと思った。

皆、僕の事をジッと見つめてくる。たぶん僕の人となりを彼らなりに判断しようとしているのかなと考えた。


「えっと、今日からお世話になるシン・アルトです。その、仲良くしてくれると嬉しい、かな」


多分笑みを浮かべられたと思う。

個性はないけど変な自己紹介の挨拶にはならなかったと思う。

どうかな?受け入れられたのかな?

そんな風に少々不安に思った時だった。


「わぁ~新しい家族だぁ~」

「なんか外国の人みたいな名前なんだねぇ~」

「やったぁ~お兄ちゃんが増えるぅ~」

「うう……優しい?……」

「遊んでくれる、かな?」

「フフ、どうやら皆に受け入れてもらえたみたいだね、アルト」

「ああ、そうみたいだね」


内心ホッとした僕に、笑顔で良かったねと言ってくれるユウナ。


この後、御互いの自己紹介をした。色々事情のある子供が多く暮らしているので、中には遠巻きから見つめる子もいれば、積極的に話しかけてくる子もいた。

自己紹介の中でこの国特有なのだろうか。

不思議な響き名の前をしている子が殆どだった。


「ん?どうしたの、アルト?」

「えっ?ああ、いや、やっぱり不思議な響きがするなぁと思ってさ」

「不思議な響き?」

「うん。皆の名前がね」

「……もしかしたら、アルトって漢字ってわかる?」

「いや。そのカンジ?と言うのかが不思議な響きの正体なのかい?」

「何だか大げさね、ちょっと待っててね」


ユウナは何か書くものを探しに行くと、ペンと白い表面のボードを持ってきた。

そしてそのボードに、ユウナの名前を漢字と言うもので書いてくれた。


「これで、こうっと。これで、瀬々羅優菜って書くの。見た事ない、こういう字?」

「ああ、見た事もない…と思う。記憶がないから何とも言えないけど。……そうか、ユウナはこういう字なのか……」

「ああ!優菜お姉ちゃんばっかりズルい!アルト兄ちゃん!俺のも覚えてくれよ!」

「ぬけがけだぁ!僕のもぉ!」

「あのぉ…私も……」

「ああ、わかった!ちゃんと覚えるから、皆順番にね」

「「「はーい!」」」

「あはは、凄いね、アルトは。もう皆に懐かれてるし」


皆の名前の字を教えて貰いながらそのまま漢字について優菜に教えて貰う事になった。

取り敢えず子供たちの字と簡単な読み書きのできるものから教わった。

子供達も一緒に勉強する事になったが誰も嫌そうにはしてなかった。

寧ろ楽しそうだった。








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