0-2.Ⅰ:現・・・僕が『僕』として

0-1の2年前。転移した日。


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僕の名前はシン・アルト。

僕の事を一言で表すと記憶喪失が挙がる。

僕は、自分の名前以外の事を何も覚えていなかった。

名前も、初めて僕が名を聞かれた時に、誰かがそう言っていたような気がした。と言う曖昧なものなのだ。まあ、僕の名を呼んでくれるに心地良さを感じるから間違いはないと思う。

僕の住んでいるこの国は一般的に漢字と言う和風の名をしている。アルトと言う響きはあまりないとの事だった。

僕の容姿だけど、2年間で急成長したかな。身長も2年前は優菜より少し高い170くらいだったけど、今では180cmまで伸びた。よく羨ましがられる、主に男子からだ。この国の平均身長は170前後なのだそうだ。

髪はこの国の人と変わらない黒で、ツンツンした髪をしている。……なんでか解らないけど、この髪に違和感を感じるのだった。

そして瞳。瞳も髪同様に黒だ。優菜によれば、何だか惹きこまれそうな深い色だとか。自分ではよく解らない。そしてこの瞳も、髪同様に違和感が今でもある。



……僕が、僕として目覚めたのは2年前のある施設のベッドだった。

僕はベッドに寝かされ横になっていた。

目覚めた僕はゆっくりと体を起こしていく。そして体を起こすと、1人の見知らぬ女の子が椅子に座った態勢で眠っているのに気付いた。

眠っている女の子は時折コックリと頭が動いたりしていた。その動きにそのポニーテールが動きに合わせ動くのだ。何だか面白いなあ、と見ているとガチャっとドアが開いた。

その空いたドアの音に眠っていた女の子はハッ!と起き顔を上げると、丁度僕と視線が合わさる。


「……!?」


女の子の顔は真っ赤になった。多分恥ずかしかったのだと思った。僕は何だか微笑ましいとうっすらと笑みを浮かべる。



ドアから入って来た、そこそこ年齢を重ねているであろう温厚そうな笑みを浮かべた女性が僕のベッドの横に椅子を置き座ると、僕に話し掛けて来た。


「あらあら、起きたのですね。初めましてですね……体の方はどうですか?」

「…どう、とは?」

「そうですね、まずはあなたが此処に居る事の説明からしましょうか。ここは身寄りのない子供を保護し暮らす施設です。あなたは、この施設の前に気を失って倒れていたのですよ」

「此処の前に、倒れて……」

「はい。因みに、あなたが倒れているのを見つけたのはこの子ですよ」

「えっ?」


僕は話していた女性の横に座っている女の子に顔を向ける。


「ええ。驚いたわよ、うちの前に急に倒れているんですもの。本当に大丈夫?体、何処も悪くない?えっと、あなたの名前は聞いていい?私の名前は瀬々羅優菜せせらゆうなと言うのよ」


心配そうに話してくる黒髪ポニーの少女ユウナ。

ユウナ…何だかあまり聞きなれない響きだなと思った。そして、ユウナに僕の名を尋ねられて、僕は1つの事に気今更ながら気付く。

自分の事がなんでだろうか、まったく覚えていなかったのである。


「…どうしたの?」


必死に自分の事を思い出そうとしていた僕に心配気にユウナが聞いてくる。

ハッ!とする僕。


「……いや、覚えていない…みたいなんだ、何も判らないんだ……」

「えっ!?」

「そうなのですか…」


ユウナと温厚そうな此処の施設長だと言う女性は驚き困ったような表情を浮かべる。


「覚えていない?今までどうしていたか等もですか?名前もですか?」

「ええ……いや、まってください…………アルト…」

「アルト?それは、あなたの名前でしょうか?」

「はい。…僕の名は、シン・アルト。それが僕の名だと思います」

「……シン・アルト……不思議な名前ね…」


僕が自分の名を思い出そうとした時だった。何だか記憶の片隅に「アルト!」と僕を呼んでいる気がした。僕はその名を直感的に「そうなんだ」と認識すると施設長とユウナにその名を告げた。

ユウナは僕の告げた「シン・アルト」という名に不思議そうに呟いていた。


その後、今後についてどうするかと言う話になった。

記憶もなく孤児の僕に行く当てもない。

これからどうするか、普通なら混乱し慌てるのだろうが、何故か僕には不安はなかった。

まるで、今までも一人だったから問題はない、と言う気がしてくる。


「記憶の無い今のあなたに行く当てがあるとは思えません。ですので、どうでしょう?しばらくは此処で生活しては見ませんか?」

「……いいんですか?僕は身元不明の人間ですよ?」

「ええ、問題ありませんわ。そもそもが此処はそう言う目的の施設なのです。他にも身元が分からない子供もおりますから。優菜もどうですか?」

「えっ、私はいいよ。私、何だかあなたに…アルトに興味あるもの。だから歓迎するわ!」

「……分かりました。…その、お世話になります」


僕は2人の提案を呑むと「お世話になります」と頭を下げる。

園長先生とユウナは「こちらこそ、よろしくね」と僕を受け入れてくれた。

こうして僕の新しい生活の始まりとなった。



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