断章二 ~学校のトイレ~

 断章ニ ~学校のトイレ~


 かつて、ある噂が広まった。

 その噂とは、〝学校のトイレ〟にまつわる噂だった。

 夜気に紛れるように、密かに、しめやかに語り継がれ、名前だけは周知の物となった。

 だが、その実態を知る者は誰一人としていない。

 ある人はかく語る。

 ――トイレに現れた紫色の着物を着た老婆に出会うと、臓物を抜き取られてしまう、と。

 ある人はかく語る。

 ――トイレで用を足した時、紙が無くどこからか赤い紙と青い紙、どちらが欲しいと訊ねられ、赤と答えると身体から血を吹き、青と答えると身体の血を抜かれ真っ青になる、と。

 ある人はかく語る。

 ――三番目のトイレにいる花子と言う女の子と出会うと、花子が母親にされた事と同じ末路を辿る、と。

 ある人はかく語る。

 ――真実を知った者は、闇の中へ、姿を霞ませて行く、と。

 誰もが認知する噂話。

 誰もが黙殺する真実。

 現実と非現実が表裏のコインではなく、隣会い、並び立つように。

 怪異の気配は至る所に蔓延っている。

 名前だけが独り歩きをする。

 実態は夜気に紛れたままで。

 そして、突然に邂逅する。

 意思など介在する余地もなく。

 そして、今日も、また一人……。

 …………

 ……………………



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