断章一 ~開かずの教室~
断章一 ~開かずの教室~
かつて、一つの噂が広がった。
その噂とは、〝開かずの教室〟と呼ばれていた。
夜気に紛れるように、密かに、しめやかに語り継がれ、名前だけは周知の物となった。
だが、その実態を知る者は誰一人としていない。
ある人はかく語る。
――昔、教室内で首を括った人がおり、その怨念が害悪を齎す為、誰も立ち入りをできないように封じた、と。
ある人はかく語る。
――その教室の扉は存在しているが、教室内が異界に繋がっており、そこから漏れる〝力〟により、空間が歪み、普通の人には視認できない、と。
ある人はかく語る。
――〝開かずの教室〟が開かれた時、パンドラの匣の如く、世界中に不幸が蔓延する、と。
ある人はかく語る。
――真実を知った者は、闇の中へ、姿を霞ませて行く、と。
誰もが認知する噂話。
誰もが黙殺する真実。
現実と非現実が表裏のコインではなく、隣会い、並び立つように。
怪異の気配は至る所に蔓延っている。
名前だけが独り歩きをする。
実態は夜気に紛れたままで。
そして、突然に邂逅する。
意思など介在する余地もなく。
そして、今日も、また一人……。
…………
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