Ⅱ.講義《AAI》

「二年ほど前にスペース・アンノウンとの戦いが終結したのは知っているだろう」


 黒板に読めるような読めないような走り書きをしながら、ロボット工学の先生はマイクを使って話す。五十代前半だろうか。その先生は髪が薄くなった頭の眼鏡をかけた男性だ。


「そのスペース・アンノウンと戦うために考案されたのがオートマチック・アシスト・システム、AASというシステムだ。そのAASを使い開発されたのがオートマチック・アシスト・インターフェース、つまりAAI。これは機械義手やパワードスーツに使われていた技術を元に作られた。大雑把な説明をすると。人間の動作や力を補強し、手足のように強力な武器を操ることを目的としていた」


 AAIはBMI、ブレイン・マシン・インターフェースや筋電義手などの技術も使われている。簡単に言うと、脳波や表面筋電位(人間の身体に流れる電気の一つ)などによって命令を出し、任意の機械を動かすという仕組みになっている。

 ドローン(無人航空機)でたとえると。リモコン式の場合、ドローンを飛ばすにはリモコンを操作する必要がある。だけどAAIの場合、頭の中で飛べと願えばその通りにドローンが飛ぶ。もちろん旋回なども願うだけでする。そして体内を流れる電気信号も読み取れるようにすることにより、更に感覚的な操作を可能とする。文字通り自分の手足のように兵器を扱うということ。


 けれどそれだけがAASやAAIの仕組みとは言えない。パワードスーツの技術も組み込んでこそのAAS、AAIだ。

 パワードスーツとは本来、人間の筋力を補助するためのものだ。それを更に強化したもの。そして無理な動きをしても身体を壊さない仕組みを入れる。たとえば高い所から飛び降り、両足で着地したとする。すると普通は両足に負荷がかかり、身体にダメージを与える。だけどAAIはその負荷やダメージを限りなくゼロにする。

 強力な筋力補助装置によって高速移動を可能とさせ、筋力や跳躍力を格段にアップさせる。そして強力な負荷軽減装置によってその際のダメージをなくす。つまり人間を超えた動きを可能とさせる。

 この二つの技術を一緒にして、兵器としたのがAAIというわけになる。


「そしてそんなサイボーグ染みた兵器を使って戦ったのがメタリック・チルドレンと呼ばれる少年少女たちだったわけだ。地球の英雄だな」


 メタリック・チルドレンという言葉に講義室の学生のほとんどが何かしらの反応を示した。地球人であるなら誰もが知っているだろう言葉。スペース・アンノウンと戦った少年少女たちの呼び名。彼らは時に英雄と呼ばれる。


「……英雄、ね」


 知らず、小さく呟いていた。

 そんな綺麗な呼び方をして欲しくはない、というのが本音だ。“ボクたち”は確かにスペースアンノウンとの戦いに勝ちはした。けれどそれだけだ。被害が抑えられわけじゃないし、助けられなかった人もたくさんいた。同じ、メタリック・チルドレンさえも何人も見殺しにした。

 “ボクたち”は綺麗な存在ではない。綺麗な存在として扱って欲しくはなかった。


「さて、なぜAAIが少年少女、しかも限られた者にしか扱えなかったのか。それはAAI操作の難しさに起因する。これは機械的な義肢とは違い、もっと複雑で脳への負担が大きくなる。さらにAASは通常の体内電気では操作が不可能に近かった。そこで開発されたのがその体内電気を増幅させる薬だ」


 薬とは言っても常に飲むものじゃない。適性試験にて飲まされる薬だ。


「パルス・サプリなんて呼ばれている。こいつは全ての人間に効能を発揮するわけじゃない。適性がない人間には何も起こらない。代わりに適性がある人間には一時的な痛みを発症させる」


 ……一時的なんて簡単に言うほど短いわけじゃないんだけれど。人にもよるらしいけれど、ボクは二十四時間は苦しんだ覚えがある。


「そしてその痛みを超えた時、体内電気が増幅するという話だ。専門外だからあまり詳しくはないが……。ただこの薬、何故か大人には効果がなかったようだ。それでメタリック・チルドレンは少年少女しかいなかったわけだ。また体内電気を増幅させると言っても表面上は静電気の発生が人よりも多くなるだけらしい」


 確かに、多い気はする。けれど生活に支障はない。


「まあとにかく、AAIは選ばれた少年少女にしか扱えないというわけだ。だが、このAAIの技術を応用することにより今の機械義肢は素晴らしいものになった」


 ボクはなんとなく、自分の右腕に触れた。

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