Ⅲ.講義《義肢と人工皮膚》
「今までの機械義肢は少々面倒くさい部分があった。タイムラグだのなんだのがな」
かつての機械義肢はまさに機械と言った感じだった。いやロボット言うべきか。
行動をするまでに少しのタイムラグもあったし、決して滑らかな動きとは言えない物。それ以前よりは明るい未来が広がったと言えるが、やはり目立つという問題もあったらしい。
「だがそれはもう昔の話だ。今、機械義肢は限りなく生身の四肢に近いものとなった。動きが滑らかになり、さらには駆動音もないと言っても過言ではない」
なんとなく右腕を軽く動かしてみる。手首を捻ったり、肘を曲げ伸ばしたり。
先生が言うように駆動音らしきものは聞こえない。それに動きがぎこちないということもない。自分の腕が機械とは思えないほどに自然だった。
「この機械義肢はAAIの技術を応用している。このAAIの応用により、以前の機械義肢よりも直感的に操作できるようになった。AAIの場合、複雑な兵器をいくつも使うため通常の体内電気ではダメだと言った。けれどこいつは違う。AASの開発中において、体内の電気的信号を素早く読み取れる技術が発明された。これによりタイムラグはなくなった。そして機械が人間に近い滑らかな動きを実現できるようになったのも、AASの開発過程で可能になった。機械義肢はこの技術を拝借している」
AAS、AAIには一般には秘匿されている部分も多い。たとえば機械の挙動についてとか。
義肢のような小型の機械をそういう風に動かす技術は公表されているが、レールガンや荷電粒子砲などの中から大型兵器などを脳波や体内電気で動かす技術は公表されていない。どうも双方の技術は似ているが別物であるらしい。
「そして忘れてならないのが人工皮膚だ。これも昔のものより精巧になった。これは使用者の遺伝子を使うことにより、使用者と同じ肌の色を再現し、質感や肌触りも本物と大差がない。またこの人工皮膚はオプトジェネティクス技術によって触覚すらも再現することができる」
オプトジェネティクス技術とは光によって細胞の挙動を制御できるようにする技術だと、他の講義が聞いた覚えがある。
人工皮膚には無数の極細のコードが張り巡らされている。それは光ファイバーケーブルで、それは人工皮膚に付けられたファスナーの引手を義肢に差し込むことで、神経細胞と接続される。神経系には予め光に反応する神経細胞を導入させてあり、そのまま脳へ信号を送ることにより、触覚を感じられるようになるのだとか。
「自然な動きをする機械義肢と精巧な人工皮膚により、機械義肢と言われなければ本物と思ってしまう人工的な四肢を作れるようになった。我々専門家すら気が付かないほど精巧なものとなったわけだ」
ボクは自分の人工皮膚に触れる。触られる感触と、左手の温もりが感じられた。生きているという感覚を右腕でも感じられる。この下に冷たい金属の塊がある。けれど今、その冷たさはどこにもない。ただそれだけのことが嬉しくて、ただそれだけのことが幸せを感じさせてくれる気がした。
「さて、今日の講義はここまでとする。解散だ」
先生の一言により、室内は急に騒がしくなった。ボクも荷物を片付け始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます