第7話 異母弟ドライブ

疲れ切った俺は、なぜか一生縁がないはずの高級車に乗せられ、会う予定なんて無かったはずのジャニーズも真っ青なイケメン弟とのドライブに付き合わされている。

気まずさはMAXだ。


「えーっと、会うのは2度目、だよな。

もう知ってるのかもしれないけど、一応自己紹介しとく。

俺は天神后。グリル表野では働き始めてからまだ1週間程だ。」

「うん。それはもう知ってる。

僕は主神ことい

弟なんだからこといって呼んで。」


運転中の横顔は大人びて見えたけど、はにかむ笑顔はやっぱりジャニーズだ。

こんな整った顔のイケメンが一般人だとは、誰も思わない。

ましてや俺と血が繋がっているなんて。

「兄さんと僕はあんまり似てないね。

僕の髪は真っ黒だけど、兄さんの髪は綺麗な栗色だ。

色素が僕よりずっと薄い。」

信号待ちに捕まると、こといは俺を見つめて髪に指に絡ませる。

弟だとわかっていても、何だかくすぐったい。

「僕の見た目は父さんの若い頃にそっくりらしいから、兄さんは母親似だね。

父さんが大切にしているだけあって、すごく可愛い。」

俺が男から見て可愛いかどうかは別として、確かにこといは夢で見たナイスミドルと雰囲気が似ている気がする。


「俺はオフクロに何も聞かされてなくて、多分こっちに来ても、こといと話す機会は無いだろうって思ってた。

なんで俺に会いに来たんだ?」

「僕の母さんは昔から仕事と男遊びばかりで、父さんはそんな母さんを嫌って家に寄り付かない。

僕はいつも寂しかったんだ。

だから会った事のない兄さんの存在にずっと憧れてた。」

「そっか。そっちにも、いろいろ事情があったんだな。

親父に本妻と息子がいるのは知ってたけど、こっちで仲良く幸せに暮らしてるんだと思ってた。」

ディープな家庭環境に複雑な気分だ。


お互いの事情を話しているうちに、車は京都駅周辺まで来ていた。

「兄さん左側を見て。あれもうちの系列店だよ。

最近完成した新店舗なんだ。」

指差す方向には、ひときわ輝いて目を引く一角がある。

「うっわー、すごい高級感。こといの家ってセレブだな。」

庶民の俺は入店するだけでも、かなりの勇気が必要だ。


「ねぇ、兄さんは自分の戸籍見た事ある?」

「戸籍見る機会なんて、普通は無いだろ。」

「じゃあ知らないんだね。

兄さんは婚外子でも、父さんが『認知』してるから、相続権は僕と同等なんだ。

認知っていうのは戸籍上親子関係が成立してるって事。

つまり、いずれ主神家の財産の半分は兄さんのものになる。」


ちょっ、ちょっと待て、そんな事ってあるのか?

軽く流す感じでいったけど、それってモメるパターンだろ。

そんな大切な事、いきなり受け止める余裕は無い。

いや、いきなりじゃなくても自信はゼロに近い。

「もちろんそんなの関係なく、兄さんの事すごく好きになっちゃったけど。

だから仲良くしてくれる?

兄さんも僕の事気に入ってくれたら嬉しいな。

あんな店やめて、うちで一緒に働こうよ。

だって兄さんにはその権利があるもの。」


こといとは仲良くしてやりたいけど、素直に信じて大丈夫なのか?

葵からしたら俺の存在って間違いなく邪魔だ。

母親が京都行きに猛反対したのはコレのせいか。

俺が何も知らないまま葵の店で(親父の店でもあるが)働くなんて、恐ろしすぎる。

ドロドロの家族ドラマみたいな展開に、めまいがしそうだ。

その後の会話はうわのそらで、気づいたら元の場所で停車していた。

「じゃあ、約束だよ。月曜7時にこの場所で。

うちの店のディナーを予約しておくね。忘れないで。」

「ああ、今日はありがと。いろいろ聞けてよかったよ。」

適当に相槌を打っている間に、こといは次の約束を取り付けていた。

俺がポンコツでなければ、やんわりお断りしていたはずだ。

むしろ、こんな話は聞かなきゃよかった。

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