第12話 八月十八日以降(2)

 夢の中で、僕も、彼女と同じ、女子の制服を着ていた。袖口の、同じ所に同じほつれ。彼女は僕と同じ。僕も彼女と同じ。世界は全て、僕と、彼女だけ。

 彼女に触れられ、僕の体は既に限界まで熱くなっていた。

 『キリコ』の手は、僕のスカートの中にゆっくりと侵入してきた。まくり上げて、中を見たりはしない。目をお互いにほぼ同じ高さで合わせたまま、彼女の手だけが僕の中心に下から迫ってくる。

 膝。腿。指は擦り上がっていく。

 くすぐったい。

 逃げ出したい。

 でも、やめて欲しくない。ずっとこのまま。

 とうとう下着の際。

 彼女の目は、僕の目だけを見つめている。下を見られてはいないから、直接触れられるまでは、僕が彼女に欲望を覚えていることはばれない。ここに至ってもなお、僕は自分の欲望を隠したかった。あなたをいやらしい目で見ていると、決定的な証拠を晒したくなかった。

 この人の前では、きれいでいたかった。

 でも、唇を僕から離した彼女の目は、全てお見通しだと言うように、僕の眼球から奥の脳髄まで貫くような、いっそう鋭い視線を放っていた。

「違うんです。僕は、……」

 潔白だと訴えたくて、震える声でつぶやく。

 でも、スカートの中の彼女の手はとうとう僕の熱のすぐ間近に到達し、触れてしまうまで、薄紙一枚程度の距離まで来た。そこで止まった。

 もうだめだ。こんなに近くまで来られたら、もう触れられなくても、激しく高ぶった熱が伝わって、ばれてしまう。浅ましい下衆だと、ののしられる。僕の汚さまで、全て知られて。

 そう思ったら、下着を突き破りそうなくらいにいきり立った。

 くらくらと眩暈がして、自失しそうになった時、『キリコ』が僕にもう一度キスをした。僕の汚さを赦すような優しさで。

 僕はその柔らかなキスに、平手打ちされたような衝撃を感じた。『キリコ』の指はまだ僕に触れていなかったけど、唇から走った衝撃が、僕の我慢をあっけなく打ち崩した。

「あッ!」

 という、自分の声で目が覚めた時、真夜中のベッドの中では、弓のようにのけぞった僕の体がまさに放出をしている最中だった。溜まりに溜まった熱い淀みが弾け、先端から一気に噴き出していた。

 何とかしなくては。止めなくては。けれど、どうにもならない。

 体のコントロールはまるで出来ない。体内の何か重要なものまで、一緒に引き抜かれてしまうんじゃないかと、怖くなるくらいの絶頂。

 やがて、身震いしながら全て出し終え、体から緊張が取れると、荒い息に混じって、くそ、と毒づく言葉が漏れる。

 死のせいだ、と思った。

 自分にとって尊敬できるある人が、たまたま女の人で、たまたまきれいで、たまたま僕のことを評価してくれていた。それだけなら、こんなことにならないだろう。

 死が、『キリコ』をいっそう特別な存在に押し上げている。生命が避け得ない、絶対的な運命に、理不尽に刈り取られた魂。そのことが彼女をよりヒロイックに飾り立て、彼女そのものよりも、死が持つ格別のロマンチシズムが、それを理屈で処理しきれない僕を迷走させている。

 彼女に、これ以上こだわるな。

 恩はある。感謝もしている。でも、それ以上に『キリコ』に入れ込む理由など何もない。

 今生きている、僕などに頭を下げてまで姉に報いようとしている、『黒蟻』のためにこそ今の僕は尽くすべきだ。『キリコ』の存在を必要以上に大きくすることは『黒蟻』をないがしろにすることだし、何より欲望の対象にするなんてのは問題外じゃないか。

 そう胸中で自分を叱ってなお、『キリコ』の姿はちらりと僕の頭の片隅に舞った。

 力の抜けかけていた僕の体が、それだけでわずかに緊張したことに、僕は深くため息をついた。

 掛け布団を持ち上げ、枕元に会った携帯電話の明かりで、下半身を見てみる。

 見たこともない量の精液が、ショートパンツの裾から、膝の下までほとばしっていた。

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電脳の姫、奴隷の騎士 @ekunari

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