この一瞬の幸せの為に

アイキ

この一瞬の幸せの為に

「ねぇ?1回死んでみない?」


◆◆◆


私は友達と決めた集合時間よりかなり早く来てしまい、余った時間何をしようかと考えながらスマートフォンを取り出した。


「ねえ?」

「ツ!!」


さっき周りを見渡したときは誰もいなかった筈なのに、真後ろから少年の声が聞こえた。

後ろを振り返った。

……誰もいない


「うふふ。こっちだよ~」


今度は正面から声が聴こえた。

振り向いてみると、整った顔立ちの少年が立っていた。


「うふふ。こんにちは~」

「う、うん……」

「ねぇ?1回電車に引かれてみない?凄く気持ちいいよ!」

「へ?」

「バキッといってスーっと抜けていく感じがたまらないよ!」


この少年は何を言っているのだろう?

……1回って1回やったら終わりなんじゃないの?


「……じゃあ貴方は引かれたことあるの?」

「うん!何回もあるよ!試してみる?」


少年が私の中に入っていった。


「……えっ?」


身体が自分の意思では動かず、勝手に動く。


〝行くよ~〟


頭の中に少年の声が響いたと思ったとき、私は線路の方に走り出していた。

飛んだ!────瞬間、電車に巻き込まれた。


バキバギバキ!

あはははは!

気持ちいい! 骨がバラバラに砕ける解放感、それに血液が外に出ていき、授業中寝てしまいそうになる時みたいにスーっと抜けていく感じが物凄く心地良い!


ゴギ バキッ バキバギバキ!

にはははははははははは! 気持ちいい! あはははは!──────




「……ッッ!」

「うふふ。後は貴女が決める事だよ?」


「僕達の仲間になるのを待ってるよ」と言いながら少年はスーっと消えて行った。

飛び込みたい……もう1回あの快感を味わいたい!

いままで落ちたら地獄だと思っていたホームの下が、今では天国の様に見える。

丁度そこに、この駅を通過する電車のアナウンスが鳴った。

あはははは! すぐそこに気持ちいいのが待ってる! あはははは!

私はにこにこの笑顔で何か良いことがあったかのように、何か楽しいことをするかのように線路の方に走っていった。……いや、走っていってしまった。


バキバギバキ!

ギガガガガガガガガガ─────! さっきの気持ちよさが嘘のように苦しく、痛かった。

悔しい……あの少年に騙されたのだ! 悔しい! 悔しい!

ギギギギギギギギギ───────!



『うふふ。ようこそ僕達の世界へ』


どれだけ苦痛の時間が過ぎただろう? 一瞬かもしれないし、凄く長い時間なのかもしれない。その時間の中で私の心はもうズタズタにボロボロに壊れてしまっていた。


『悔しいだろ? 苦しいだろ? そして、寂しいだろ? その感情を胸にしながら、僕達の仲間として手始めに大事な大事なお友達を仲間にしないか?』

『ふふふ……寂しい……寂しいよ! さっちゃん! ふふふ……待っててね? 今私が迎えに行ってあげる!あはははは! さっちゃん! さっちゃん!』


今目の前には私を待っているのか、さっちゃんがスマートフォンを見ながら立っていた。

ふふふ。待っててね? 今迎えにいくから! さっちゃん!


瞬きをすると、私はさっちゃんの後ろに居た。


「ねぇ? さっちゃん? 1回電車に引かれてみない?凄く気持ちいいよ! ふふふ。一緒に私達の仲間になろうよ」


私はさっちゃんに後ろから絡み付きながら言った。


「きゃ!……え?りっちゃん? いきなりどうしたの?」

「ふふふ。そうだね!百聞は一見にしかずって言うしね!」


私はさっちゃんの中に入っていく。そこに通過の電車が来るアナウンスが鳴った。

私は全く、1ヨクトメートルも躊躇せず線路に突っ込んで行った。

────そして私の時と同じように電車に巻き込まれた。


ボキバキボキ!

あはははは! やっぱ気持ちいい! あはははは! バキバギバキ! あはははは!

さっちゃんも凄く喜んでいるようだった。身体も心も凄く喜んでいた。

〝はひっ! ああッ、ダメっ! あはははは! なにこれ~バキバキ言ってる~あはは! 気持ちいいよ~あはははは!〟

さっちゃんの思考も合わさり、私は最初の時よりも気持ちよく感じた。

バキバギバキ………────



「ッッ!」


ああもう終わりか……もっと楽しみたかったな……


「あはは! 気持ち良かったね~さっちゃん! あっちで待ってるよ!」


私はさっちゃんが来るのを信じて線路の下に戻っていった。


◆◆◆


やっぱりさっちゃんは来てくれた!


『あはは……痛い……痛いよ。りっちゃん!』

『ふふふ。ありがとう来てくれて……凄く嬉しいよ! 大丈夫だよ痛いのは最初だけだから……次からは凄く気持ちいいよ! ふふふほら来たよ一緒に行こ?』


瞬きをした途端私達は二人の少年の後ろに立っていた。

そして私達は一緒にこう言った────


「ねぇ?1回死んでみない?」

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