第9話 饅頭こわい?面接こわい?都庁面接(雑感)

面接官は誰も「君の眼はどうしてそんなに真っ赤なんだい!?」とは教えてくれない。


僕は面接官の眼前で机上をバンっ!と勢いよく叩いた。

「君はどうしてそんな簡単な仕事ができないんだね!」

すかさず、身をひるがえして上下を切った。

「誠に申し訳ございません!以後気を付けたいと思います」

面接官の前でプレゼンをするというと、僕の場合かなり張り切ってしまい、上司役も登場させ一人二役、身振り手振りを踏まえ、まるで落語の一席、桂米朝、柳家小さんに並ばないまでも、勢いが余ってしまうのである。

「というふうに、仮に叱責された場合は、その場は謝罪することにして治めます。その後、同じ失敗は二度しないように、自分なりにしくじった点などをメモ書きなどし、今後に活かしていきたいと思います」

傍から見たら、いったい何を見させられているのだろうと思うかもしれないのだが、これが結構評判かいい。

「なるほど・・・」

面接官は女性が一人、男性が一人。お互い頷きながら、面接シートに何かを書き込み始めた。

【もし、上司に叱責された場合、あなたはどう対処しますか?】

面接官に問われた質問だ。

その後も、

【もし、同僚が、うつ病などで休みがちな場合、どのように対処するか】

【最近では、うつ病といいながら、旅行に出かけている人がいるがどう思うか】

【住民から怒りの電話がかかってきたらどうするか】

【照会の電話がかかってきて、上司も誰も聞ける人がその場にいなかったらどうするか】

などなど、民間企業の面接とは180度異なる質問が浴びせられた。

僕は、それらの質問にうまく対応できたと実感があった。


東京テレコムセンター。

都庁の筆記試験通過者がそこへ集められ、一次面接が行われる。

もちろん皆リクルートスーツにリクルートカバン。同じような青や赤のストライプのネクタイを締め、整髪した髪をトイレで何度も確認している者や、個室で発生練習をしている者もいた。

会場の控室ではただならぬ張りつめた空気が流れる。

咳払いとともに、一人、また一人と、面接室へ入っては出てゆく。

そして、いよいよ、自分の番だ。

となると、入るまでがまるで面接中かのようで、入った後はほとんど緊張しなかった。


「君、その身振り手振りは癖なのかな?」

男性面接官にそう言われ、すこし恥ずかしくなりながら答えた。

「そうですね。どうしても、応答する際には出てしまいますね」

面接官はにっこりとほほ笑むと、

「君はとても面接慣れしているね。すごくいいと思うよ」

と褒めた。

褒められたうれしさが先に立って、面接の失敗は後に立つことが多い。

それは就活生なら誰しもが経験することだろう。

面接官は、たいていの場合、最後に褒めることがある。それは、別に君は優秀だとか素晴らしい人材だとかといったことを真に言っているわけではない。

特に民間企業では、後々にエンドユーザー(お客様)にもなりかねない就活生に対して、好印象を持たせることを意図している場合が少なくない。

つまり、君のことを落としたからといって、恨みつらみでもって弊社の悪評を掻き立てないでおくんなましといったアフターフォローなのだ。


無論、身振り手振りが悪いわけではない。それは、某民間企業の人事担当者にも聞いたことがあるが、ボディランゲージまではいかなくとも、少なからず動作を交えた方が印象が良くなるらしいのだ。大げさすぎるのもいけないが、カッチリロボットのようにまったく動かない就活生よりは人間味がある(今後就活を行う人は、自分にあった面接術を体得して、頑張っていただきたい)。


ただ、僕の場合は、大変重要な失敗をおかしていたのだ。


それは、面接を終えて、トイレに行き、何気なく鏡の中の自分をよ~く凝視して初めて気づく。

なんと、目が真っ赤っかに染まっていたのだ!

「げっ!!!」っと思わず声が漏れてしまうほど、目が真っ赤に充血していた。

原因はなんだろうと思うまでもなく、昨日のアレがよくなかった・・・

アレというのは、アレである。。。


つまり、単なる寝不足である。


性格は生活に現れる。

特に下宿の就活生は、昼夜逆転している人が比較的多い。昼に寝て、夜起きる。

世の中のサイクルと逆行した生活パターンになってしまう。

真夜中にパソコンを見ながら企業の説明会の予約ページを見たり、エントリーシートを書いたりと、目の充血には事欠かない。

直すべき点はわかってはいたが、そんな簡単なことができない大学生がここにいるのだ。


「はあ・・・」

溜息をして、僕はゆんわりとゆりかもめに乗り込んだ。

結果はいわずもがなだろうなあ・・・

無論、筆記試験すら通過できたことが奇跡なのだ。奇跡は二度起きない。

やはり、もともとの性格が災いしたことには違いがない。

溜息ばかりが車内に漂った。

と、少し離れたところから受験生の声が聞こえてきた。

「まあ俺は多分通過した自信あるわ」「お前すげえな」「一応、こう見えて明治大学ですから」「ぎゃはははは」

なーにが明治大学じゃ!!!なーにが都庁じゃ!!!

行き場のない怒りと自分の不甲斐なさに僕は、そそくさとゆりかもめ(都鳥)を降りた。

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