第8話 神はサイコロを振らない!国立大学法人等職員試験(雑感)
高校時代の教諭曰く。
センター試験では、会場から3つの音が聞こえるそうだ。
1つは、唸り声。試験問題に集中しているがゆえに、自然と「う~ん・・・」という声が漏れだすそうだ。これは、きちんと勉強してきたという証拠で、自分に自信を持ってもよいということらしい。
2つは、ため息。意気消沈という言葉があるが、まさにこのことで、まったく解けない問題が出て、「はあ・・・」袋小路なすすべなしといったあきらめの声。これは、あまり勉強してこなかった証で、後悔遅しなんとかその場で対処して頑張るしかない。
そして、3つ目・・・
僕は、大学法人等職員試験を受けていた。
周りには、都庁や地方上級試験とは異なり、スーツを着ている人が半数近く存在していた。
筆記試験だけなので、正直スーツは不要で、むしろ集中しづらいだろうと思われるのにもかかわらず、スーツが多いのは、おそらく民間就活慣れしすぎてしまって、スーツで行くことに強迫観念がある学生が多かったからだろう(公務員面接では当然スーツ必須ではあるが、筆記試験は私服で構わないのだ)。
周りの受験生たちは、そろそろ試験開始の準備を整え始め、机上には筆記用具を大量に用意していた。
後ろをチラッとみると、リクルートスーツを決めた女の子が、シャーペン2本、鉛筆5本、消しゴム3個、鉛筆削りと腕時計、裸のティッシュペーパー幾枚かを置いて緊張した面持ちでそわそわしていた(なぜシャーペンと鉛筆両方持っているのかというと、解答用紙は鉛筆記入が必須、問題を解く際の下書きはシャーペン可だからである)。かなり用意周到だ。
周りの受験生たちも、ぞくぞくと筆箱からペンを取り出す。
1本、2本、3本、最低3本はみんな用意していただろう。殺気だった教室は、いまから大型動物を狩猟するかのように皆気合いに満ち満ちていた。
当の僕は、シャーペン1本と小さな鉛筆1本だけ。消しゴムすら用意していなかった。
お前、舐めてんの???
是非もなし。
元をたどれば、僕は他の受験生たちと違って、大学法人職員になってやろうなんて野心はこれっぽっちもなかったのだ。
ではなぜ受験したかというと、試験会場が自分の大学だったから(つまり下宿先から近かった)ということと、無料で受けれるなら物は試しだ!宝くじ理論でとりあえず買って当たれば儲けもんというばくち打ちの感覚しか持ち合わせていなかった。
「大学法人も受けておくように! 私は受験生には必ずそう言っています。後で後悔することのないようにね」
予備校の先生もこのようにおっしゃっていたことを覚えている。
公務員試験は、いわば宝くじのような感覚に近い。
国家公務員、地方公務員、大学法人、国税財務に労基etc・・・
数打ちゃあたるとはよくいったものだが、公務員試験も幾種類幾通り幾日程の試験が存在する。
しかも、それらは全て無料で受験することができる(試験料は税金から支弁されるからだ。厳密には、予算組みの際に、人事採用計画として特別予算として扱うところがほとんどだろう)。
そんなわけで、僕は、大学法人の試験を宝くじ感覚としてしかみなしていなかった。
なので試験開始と同時に、僕は躊躇なく鉛筆を転がすことにした。
鉛筆には1から6の数字が振ってあり(学部試験の際に作ったもの)、それを転がすことによって、マークシートを神の見えざる手に委ねたのだ。
教室には、唸り声と溜息、そして鉛筆を転がす音が響いていた。
さすがに、コロコロと転がるHBの鉛筆は、受験生たちの注目を集めた。が、気にしない気にしない。旅の恥はかき捨て。無論、すべての問題をロト6にしたわけではない。ある程度わかる問題は自助努力でなんとかできた。それ以外の問題を神に祈ってもバチ当たりではないだろう。
結局、わからない問題が結構あり、鉛筆も幾度と転がした(大学職員試験は、専門試験がない分、教養科目、つまり英語や国語や数学や理科や社会などといった、大学受験レベルの問題が万遍なく出題され、また頭の体操も多く出題される。したがって、対策をしていなかった僕は、理科などの科目や難しい図形問題などはすべてロト6だった)。
そうして、試験が終了すると同時に、僕は「はあ」と大きく溜息をついた。
「神頼みもなかなか骨が折れる・・・」
帰り際、門前では予備校の解答速報が配られていたが、僕はそんなことにも目もくれず、ただただ家に帰って早く寝たいということで足を速めていた。
その後も結局、自分の受けた試験がどういうもので、大学職員というのがどういう職業なのか、そんなことすら調べることもしなかった。
果報は寝て待てとふてぶてしく家でゴロゴロすることに終始することにした。
人生何が起こるかわからない。そういう意味では、自分のこの気まぐれな性格も決して嫌いではない。さすがに、試験で鉛筆を振ったのはいけないなあと、布団の中で反省したが・・・
そして、しばらくしてから、その自堕落で気まぐれな性格が、幸か不幸か自分の人生を大きく決定づけることになる。
大学職員。
大学職員。
大学職員。。。
僕の人生のサイコロには、すべてそう書いてあったのだろう。
この時すでに僕の人生は決定づけられていたのだ。
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