第3話 「大手病」は死ななきゃ治らない

「不採用、不採用、不採用、不採用、不採用、不採用、、、、、」


受けた民間企業は20社以上に上る。

金融機関、特に保険業(損保・生保)をメインに受けていた。

マリンから赤(損保ジャパン)だの緑(あいおいニッセイ)だのと、金融業は色で呼称が決まっているというのも就活で初めて知った。

銀行にも青や赤などの呼称がある。


金融機関は色とりどりなようで、ただそこを受けにくる就活生は真っ黒なリクルートスーツに身を包んだ黒一色だ。

コートは建物に入る前にみんなそろって脱ぎ始める。

受付の人に頭を下げて、おはようございます、よろしくお願いいたしますなど社交辞令を述べる。

「どこ大学出身なんですか?」

「内定はもうもらいました?」

「私はもうここの選考の3次まで進みましたよ」

待合室では、腹の中の探り合いが始まる。


そして、面接では、みんな仮面をかぶって、自信満々にプレゼンテーションを行っていく。

「御社は業界においてもリーダーシップをもった・・・」

「保険商品のバリエーションが多く、顧客ニーズに応えている点が素晴らしいと思い・・・」


有意義な一日とはなんなのだろうと、感じることが多かった。


メールで面接の結果が来るが、そのほとんどが不採用。

今後のご健勝をお祈りいたします。

いわゆる、「お祈りメール」だ。

何度エントリーシートを送って、何度集団面接やグループディスカッションを通過し、何度選考を勝ち上がろうが、最後の内定を得るまでには途方もない道のりになる。


「大手病」


巷ではそういわれるそうだ。

大手民間企業しか選考を受けずに、身の程を知らない者(低学歴やコミュ障)が結局1個の内定も取ることなく、永遠と続く泥沼に足を踏み入れていく。。。


後で振り返ると、自分もそうなっていたのかもしれない。

面接は得意だが、この時点で自分は既卒になっていた。

司法試験をあきらめ、ロースクールを蹴り、自分にはもっと何か実務的な崇高な理想的職業が見つかるはずだと錯覚していたのだろう。

幸い、既卒3年以内であれば、新卒扱いとする企業も少なくなかった。

既卒1年目でも、うまく立ち回れば内定を取れるかもしれない。

そう意気込んでいた。


「日本で一番不動産を持っている企業はどこか?」

答えはJRである。

では二番目は?


僕は二番目を受けた。


日本郵政だ。


選考は順調に進み、4次面接まで駒を進めた。

メールには、選考通過おめでとうございます、とのお祝いの言葉が並び、次の面接は重要になるので覚悟してくださいとの旨の文章が末尾にあった。

これは純粋にうれしかった。

社会に認められることがこんなに大変なものなのかと実感した(もちろん、この時点では、社会に認められていない。内定を取らない限り、社会にとって無価値であるということを理解していなかったのだ)。


いよいよ、か。

がんばるぞ。


季節は春。

もう4月を過ぎて、周囲には桜が咲いていた。

桜の中、僕は都内某所の会議室に向かった。

もちろん、その時は公務員試験なんて考えてもいなかったし、大学職員になるなんてこれっぽっちも考えになかった。


ただ、確実に、ぼくは大学職員になるのだ。

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