第2話 司法試験挫折組

僕は、司法試験挫折組だ。


大学3年の終わり、大抵この頃になると、否が応でもみんな将来について真剣に考えざるを得なくなる。


民間就活するにしても、金融、食品、マスコミ、メーカー・・・といろいろある。

公務員受験にしても、国家公務員、地方公務員、その他いろいろ・・・

大学院に行く者もいた。むろん、大学院にも、通常の院のみならず、専門職大学院なるものも存在する。


司法試験を受験するものは、そのほとんどが、専門職大学院、いわゆるロースクールを受験する。現行の司法試験制度では、ロースクールへ進学しないと、司法試験を受験できない仕組みになっている(例外はあるが)。


僕は、将来漠然と、司法試験を意識していた。


T大学法学部は、僕の知る限り、その多くは、司法試験組か公務員組に分かれていた。民間組もいたが、そんなに多くいる印象はなかったように思う(中には起業して社長になる者もいたが)。


4年生になると、それぞれの方向性は完全に既定路線になる。

同級生の9割が、4年生の秋までには方向性が決まる。

残りの1割は、新卒カードを残しておくためにあえて休学や留年する者、既卒になって就活や試験勉強を続ける者、誰とも連絡が取れなくなる者、中には実家に帰って般若心経を書く者もいた。


卒業式の日、学部の教室に戻ると、そんな話でみんな盛り上がっていた。

誰がどこに受かっただの、将来はこれこれこうなりたいだの・・・

とにかくそこには、目を輝かせた同級生であふれかえっていたのである。


当の僕はというと、

結局、ロースクールに受かるも、正直勉強を続けられる真摯さが欠落していたし、民間も並行して受けていたが、そんな心持ちだったためあえなく無い内定で大学をフィニッシュした。


負い目を感じていたのも事実だし、事実から目を背けられないのも事実だった。


そんな中、隣に座っていたAくんが僕に声をかけた。

その掛け声は、心底を深くえぐるような言葉で、さすがに周りのみんなも止めに入っていたように記憶している。


「お前は、組織で働くことに向いていない。社会に向いてないんだよ。お前は、組織では使い物にならないんだ」


メガネをいやらしく整えながら、説教というよりも寸鉄というよりも、なんと表現したらいいかわからない手厳しい言葉だった。

「さすがに言い過ぎでしょ」

と止める同級生もいたが、お構いなしに、Aくんは続けた。

ただ、最後の言葉は、どちらかというと、応援に満ちたような言葉だったので、僕はなんとなく好意的に受け止めることができた。


昔、ドラゴン桜というドラマがあった。

そのドラマでは、最終的に東大に落ちた生徒に対して、担任の先生がこう言ってのける。

「このバカどもが!!!!!!!!!」


真意は、どうやら、落ち込んだ時にのみ、他人の言葉が身に染みるからだとかなんとか。

つまりは、何かに失敗した人に慰めの言葉をかけてはいけないらしいのだ。

失敗したからこそ、厳しい言葉を向ける。そうすることによって、その言葉が心に残り、当の本人にとっての起爆剤になるということなのだ。


Aくんとはその後、まったく関わりはないが、フェイスブックで一応つながっている。

さすがに、今となっては、いい思いだが、ひさしぶりに会って飲もうや!というほどの関係性でもない。

ただ、その卒業式に言われた言葉は、今でも身に染みていることには違いがない。


Aくんは今、一流省庁で官僚をしている。


僕は今、大学職員として働いている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る