公務員(大学職員)になるということ
じゃがりこ
第1話 国立大学職員を受験する
「東大生は落とした」
笑いながら、人事課長が飲み会の席でみんなに話した。
つられて、その場にいた4、5人の職員たちが大爆笑をした。
「課長!それは正解ですよ!」
「Yくん(東大生)を見てると、ほんっとに東大生って使えないと思っちゃいますよね」
「まあ結局、頭でっかちだけじゃあいけないってことですよね」
タカビーなTさん(女子)が枝豆をほおばりながら、延々とYくんの愚痴をつったれている。それに毒舌Kさん(女子)が相槌を打つ。
みんなの談笑に油を注ぐように課長は、続けた。
「それから驚くのが、みーんなおんなじことを言うんだよね。おたくの大学はここが良くて、ここが素晴らしい。だから、ぜひとも働かせてくださいって。でも、それって、全然響かないんだよ」
その場にいた全員が課長の話に耳を傾ける。
東大生だろうが、どんな高学歴でも、面接の前では無力。それは非情であって、就職活動という試練に立ち向かうには、どうしても必要なものがある。それは、学歴ではなく、
「おたくの大学はここがダメ! だから、もっとこうすべき! それを実現したいからおたくの大学を志望しました! そういってくれたら響くんだよね。つまり、必要なのは、学歴とか金太郎あめ的な面接対策文じゃなくて、その人個人のプレゼン力、変化球、説得力なんだよ」
と、課長は真っ赤な顔で力強く雄弁に語り続けた。
人事というのは、大変だ。
厳密には、総務という部署は大変なのだ。
僕は人事という仕事をしたことがないし、おそらく今後もすることがないだろうと思う。
ただ、仕事上、人事の方と多々交流があるし、何より、人件費などの分析を業務としてこなしたことがあるため、すくなからずそれは承知している。
たいてい夜中まで残っているのは総務部なのだ(もちろん、例外も多くあるが、それは後述していこうと思う)。
その後も、飲み会の話題は、人事についての話で終わってしまった。
終わったころには0時をとっくに回っていた。
課長はふらふらになりながら、タカビーさんと毒舌さんをタクシーに乗せて、送って行った(ちなみに、タクシー券なるものが大学から支給されていることがあり、それを使えばタダ乗りができる。一昔前に、官僚がタクシー利用についてマスコミからバッシングされていたが、たいていの公務員や大手民間企業では、通例になっていることが多い。批判すること自体が的外れだと当事者たちは思っていただろう)。
予想通り、課長はタクシーチケットを切って、自宅へと帰って行った。
僕は、同席していた先輩方とお別れし、一人終電に乗っかった。
家に着いたころには、1時になっており、強烈な眠気に襲われた。
なんで、飲み会なんてものがこの世に存在するのだろう。
実は、僕は飲み会が絶望的に嫌いなのだ。
むろん、上記の要領で飲み会は何の生産性もなく終わる。
上司がただ、自慢話を語り、部下が、それにひたすら相槌を打つ。
他人の愚痴を酒の肴に、夜な夜な金曜日になると全国各地で同じような現象が出現する。
儲かるのは居酒屋。公務員の税金は最終的には、居酒屋に流れるのだ。
公務員バッシング? 正直そんなのには何の意味もない。
バッシングのはけ口も世の中の愚痴も、すべて居酒屋に金となって流れる。
「税金は市井の居酒屋に流れる。そうやって、経済が潤うんだ」
偉い人がそんなことを言っていたのを覚えている。
そうして、どうしようもない悲壮感と、疲労感で、金曜日は幕を閉じる。
カシスオレンジ一杯とから揚げ2個、冷めたフライドポテトとサラダとよくわからない天ぷら。しめて4000円。
割り勘という文化は、酒を多飲するやつが、酒の飲めないやつに対して行う経済的暴力だ。
僕がこの大学に採用されて3年目の飲み会の席は、1年目の初めての飲み会の席とほとんど変わっていなかった。
3年前、大学を卒業したときは、何の資格も職歴もないただのニートで、居酒屋で愚痴をさんざん聞かされた挙句、カシオレ一杯で4000円を払う未来なんて想像もしていなかった。
そんな僕が、そもそもなぜこの大学に採用されたのかというと、まあそれは紆余曲折があったからに他ならないのだが、その紆余曲折というのがまたどうしようもないくらいの紆余曲折なのだ。
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