最終話 平凡な僕は異世界で。

 空の蒼を渡って僕はナンオウまで転移した。上空から見下ろす景色は見覚えのある自然豊かな土地…だけど今はハーフエルフ、獣人、人種も様々に沢山の旅人が行き交う活気溢れる街道が通っている。ゾンビ竜に荒らされた街は綺麗に直るどころかますます発展して大きな建物ももっと増えたようだ。けれど自然とも共存していて畑や木立が減った様子もない。不思議な調和を見せる町、ここが僕の故郷。まだここで過ごした時間は短いのに懐かしくも誇らしい気持ちで目が潤む。僕が作っておいた結界もうまく活用されてるようで門のところで犯罪者など悪人は弾かれている。

 世の中にはいいひともわるいひともいる。どんな世界でも同じ。自分の心の中だって同様に、嫉妬や独占欲がある。誰にだって大切なものがあって譲れないものがある。それを嫌なことをされたり嫌なことにされたりしたら怒ったり悲しんだり嫌な気持ちになるだろう。それはいけないことじゃなく普通の感情の発露だ。けれどそれが為に誰かを傷つけるのは、違うと思う。

 意見が違ってもいい。傷つけたり間違っていたなら正す方が良いけど全部が全部言われるまま受け入れなきゃいけないわけではない。否定されたからと言って大切なものを失わなければいけないわけではない。それぞれがそれぞれでいい。その感情を抱えていてもいい。傷つけたり押し付けたり強要するんじゃなく存在を認める。誰でもそっと、そこに在っていい。

 ハーフエルフのあのひとチャトゥニは傷つけても手に入れようとしてた。それは間違った方法だと思ったし、今でも同じく止めたと思う。だけどあのひとは僕も敵わないくらいの勇気を持って、傷ついても自分の心をぶつけていった。


 だから、受け入れられないかもと怖がるのを止めて、当たってみなきゃ砕けるかどうかもわかんないんだから。だから僕も。

「…カインさん!!」

 街道の途中をナンオウに向かって歩いていたカインさんに、僕は叫ぶ。

「僕、あなたを、貴方の事を!」

 恥とか世間体とか捨てて不安を恐怖を振り切って、喉も裂けよとばかりに大声で。

「多分きっと初めて逢ったときから…!」

 街道に人がたくさんいたけど気にしない。僕が今見てるのは彼だけ。

「かっこよくてちょっとチャラくてでも、本当は優しくて真面目で、そのもふもふの耳も可愛くて、でも、でも、外見とか性格とか、地位も、種族ももうどうでもよくて!」


「カインさんだから、」


「カインさんがカインさんだから、」


 平凡で地味で勇者になんてなれなくてカッコ悪いけど、異世界で出逢った男の人に、僕は、恋をしました。全力で


「しゅきーっ!」


「…………………」


 ……………………………噛 ん だ !!


 どっと汗が出てガクブルですけども。


 今すぐ颯爽と逃げたいのですけれども。


「俺も、好きだ…!」


 ぎゅうっと抱き締められて逃げられない現状。

 嬉しくて恥ずかしくて叫びたいような走り出したいような、沸き上がる気持ち。ああもう閉じ込めなくていい。むしろこの腕に閉じ込められたいと言うか。すがり付きたくて胸にしがみついても許される。世界がすべてが貴方が輝いて見える。

 幸せで切なくて苦しくてでも、ああ、生きてる。僕がカインさんが、生きている鼓動を聞く。一番近くで。これからずっと貴方と。どくどくと、脈打ち、生を全うし、逸る気持ちを、心を、刻んでいく。


「愛してる…アカツキ」

「あ…」

 名前を至近距離で囁かれると破壊力が凄い。でもうっとりして吐息が漏れちゃう。震える声で答えようとしてできなくて飲み込まれた。口。唇が触れて、食んで、甘くとろけて。リップ音が。

「ん…っ」

「ッ、かわいい、アカツキ。好きだ…」

「カイン、さん…」

 もう、全部、好きにして…って感じ。大好きな人に好きって言って好きって返してもらえる幸せに陶酔、してた。


「あー、こらこら、二人の世界作るのは二人きりになってからにしてくれー」

「うるさい邪魔するな」

「いやいやこれでも親父だからね?ちょっとは遠慮して?」

「が、ガザシ父さん」

 ガザシさんに止められた。ヤバかった!ここ、外!告白はもう覚悟の上だったけど公衆の面前で僕、きききききキス…っ!!うわーうわー顔が熱いよぉー!両手で顔を覆う。抱き締めたままカインさんが頭頂部にキスを落とす。はう…。

「ぎゃおー」

「カルモ!?」

 黙って悶えてたら背中に軽い衝撃。精霊の長として並び立つ存在。子竜のままのカルモだった。

「カルモ、これから僕も一緒に頑張るね」

「ぎゅあ?」

「…頑張りすぎずに頑張る」

「ぎゃうぎゃう」

「うん、うん」

 窘められ頷くと嬉しそうに答えてくれるカルモのもみじのような手をとって笑いあう。

「我らもいるのである!」

「シェイドさん、みんな…!」

 旅をして出会った精霊さんたちが抱きついてきてくすぐったい。

「アカツキ?その、方たちが…」

「はい!大精霊さんです」

 もふりと丸い風の大精霊さんのレグちゃんを掲げて見せるとコケッと挨拶してくれてカインさんは苦笑する。以前は殆ど見えなかったけれど今は力を取り戻し誰の目にも映る事が出来る。何故か僕と会ったときの姿形で固定しているけど、意思ひとつで変化できるらしいですよ?

「しかし…一緒に、とはどういうことだい?」

「親父にも教えてくれるよな?アカツキ?」

「ひぇ、はいぃ」

 ここまで街道の人に丸見えだったけどさすがにこの先はと移動することに。…お説教の気配…!


「精霊王」

「はい。一応…」

 新しく建てられた自警団宿舎、ではなく洞窟の第二ナンオウの気心知れた人だけの場所で話すことになりました。で、ぶっちゃけ全てを話したら呆れたような呆然としたような疲れたような顔でため息を吐かれた。えっと、脱兎の魔法で生まれたウサギを抱っこして背中を撫でて心を落ち着かせよう。

「まあ、アカツキだし」

「そうだなぁ、アカツキだしなぁ」

「アカツキですし」

 ですしおすしですか、はい。もーそれでいーですー。ちょっとすねて口を尖らせたらカインさんにキスされた。うぅ。

「アカツキが何者でもアカツキであることにかわりないなら、何でもいい。俺もアカツキがアカツキだから、好きなんだ」

「…はぃ」

 隣に座ってたのに一瞬でお膝抱っこです。ウサギはふんすと息を吐いて降りてっちゃった。


「あああああ、うちの子が」

「式の日取りはいつがいいかね」

「振る舞い料理は任せろ!腕がなるぜ!」

 街道の人々の目からは逃げられたけどナンオウ先住民には事情を知っててもらった方がいいって事で、みんなの前でお膝抱っこ中ですよ。みんなにやにやにまにまと…っ。う、嬉しいけど恥ずかしいの!みんなも体験してみればわかるんだからねッ!?


「ああでも子供が先かもな」

「あの様子じゃなぁ」

「カインがめろめろじゃねえの」

「うぐぐ」

 挙げ句あの、ええとカインさんとつ、番になってアレしたらデキちゃうってことまで……!!

「俺の息子があああああ」

「ガザシうるさい」

「息子が冷たいいい」

「ガザシ諦めろ。そういうもんだ」

「うおおおん!」

 

 恥ずかしい。けどみんな嬉しそうで。悶えつつ、僕はやっぱり幸せだなぁって思う。これから先が良いことばかりじゃなくても手を繋いでるこの人と乗り越えてゆこうって思えるから。みんなと支え合い仲間と助け合いカインさんと愛し合って生きていけるから。どんなことがあってもきっとずっと一緒に。


 お母さん、ナツコ、平凡な僕だけど、異世界で幸せに生きてるよ。


「こりゃ早めに結婚式した方がいいな」

「カインが待てできてる内にな」

「ああ、素晴らしい花嫁になるさ。楽しみだな、アカツキ」

「…………はい!」



 そっち行くから、と母からメールが届くまであと少し。






 HappyEnd☆

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