第171話 急行。

 黒馬にガザシ父さんと一緒にまたがるとたてがみに精霊さんたちがしがみつく。僕の後ろに乗ってたスペースにガザシ父さんが来たので遠慮したみたい。

「よし、じゃあ行くか」

「うん」

 ガザシ父さんは羽っ子たち小精霊さんと触れ合う内にすっかり目が慣れたようで、ここにいる精霊さんたちみんな見えてる。だって点呼して出発してるんだよ。精霊さんたちもなんだかちょっと嬉しそうだし、こんな風にまた精霊がいるのも見えるのも普通になっていったら…。




 道はノームさんが均し黒馬の速さはレグちゃんの風でブーストされエンカウントした魔物はシェイドさんとヤモリさんが無双して人間の出番はなかった。ていうか黒馬に乗ってただけでめちゃくちゃ早く王都に着きました。精霊さんすげえ。

「着きましたね…」

「おう、スゲー速かったな…」

 スピード速すぎて僕もガザシ父さんも若干しがみつき疲れたよ。背中のシートベルトがついてても加速のすごさで前より負荷があったんだよね。今度はちゃんとした鞍をつけた方がいいかも。僕は馬を降りつつそう思った。


 王都ヴェーノの入り口は兵士が数人で固めており、封鎖されている。僕が街を出たときにいた人は見当たらない。無事だといいんだけど。

「あれは騎士団のやつらだな」

「知ってるんですか?」

 意外なことにビックリして同じく後ろに降り立つガザシ父さんを振り向く。

「…おう、昔俺もああやって門番したこともあるぜ」

「ナンオウだと自警団でしたけど王都だと騎士なんですね」

「普段は下っ端兵士がやるんだけどな…」

 僕が出たときより人数も増えて威圧感もマシマシ。ちょっと一般庶民としては怖くて近づけない。それが狙いなんだろうけど。どうやって入ろうかな、と思ってたらガザシ父さんがすたすたと門に近づいていく。

「えっ、ちょ、待ってガザシ父さん…!」

「よう、フェリスお前まだ騎士やってんのか」

「なんだ貴様無礼、な……、は!?おま、ガザシュットヴァルド!?」


 騎士だったなんて初耳で驚きしきりだったんだけど。幸い指名手配なんかは回ってなかったらしくガザシ父さんが知り合いということもあってか拘束されるようなこともなくヴェーノに入れた。ただ不穏な気配はあるようで不安がっている人達のために騎士団が派遣されたんだそうだ。ガザシ父さんの知り合いのフェリスさん曰くこれはどうやら第二王子の采配らしい。

「最近貴族と王族の派閥間がきな臭くてな…今頃王城では話し合いの席を持たれているはずだが」

「王城か…」

 深刻な話をしてんのに精霊さんが足元ちょろり。やめてお願い腹筋がヤバイ。ガザシ父さんは見ないふりでさりげなく避けてる。フェリスさんは見えないから気づかない。ああレグちゃんがつついた。

「ッ、?」

 あれ、痛いのはわかるのかな。変な顔してる。常に側に居たらガザシ父さんみたいに見えるようになるのかな。ならやっぱり解放して良かった。大精霊であるみんなが囚われず世界に在れば小精霊の羽っ子たちが増えるらしいから。そうなったらもっと触れ合える人も増える、かも?


「それで何か用事があって来たんだろう?あんなことがあって出ていって何年ぶりか、全然顔を出さなかったのに急に来るってことは」

「…ああ、実は、っ!?」

「どうした?」

「いや、なんでもない。」

 精霊さんが見えないフェリスさんにはわからないけど、僕とガザシ父さんは気付いた。空気の変化に緊張する精霊さんたちもそうだ。やっぱりここに居るんだ。水の精霊さんが。


 不穏な予感に細く、霧雨のような水の気配がまとわりつく。

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