第170話 拾い物。
精霊さんたちの助言で祠にあった封印石の欠片を拾って王都を目指していた。
「…!」
「え、なに?」
シェイドさんの黒馬に乗ってトップスピードに達する寸前に肩掛けバッグの紐に掴まってたヤモリさん(仮)が尻尾を使って全身揺らして訴えてきた。慌てて黒馬に止まってもらうと岩ばかりの地面に打ち捨てられたようにぼろきれが…んん?なんか布って言うより塊っぽい?警戒しつつ黒馬を歩ませ徐々に近づくにつれそれは人の形をしているとわかった。
「ちょ、えええなんで?な…っ」
人であるとわかって馬から降りて駆け寄ると、旅装であったけれどガザシさんだった。ぼろきれのようにずたずたに切り裂かれ倒れて身動きひとつしていない。まるで死体のような。
「ガザシさ…ッ、父さん!お父さん!」
街を半壊させたゾンビ蜥蜴を思い出し真っ青になってすがりつく。
「………っ」
ぴくり、とほんの僅かだが指先が動く。生きてる。まだ、生きてる!
「しっかりして!今、僕が治癒するから!生きて…!お父さんっ」
パニックになりそうな自分を叱咤しガザシ父さんの全身を改めて見ると切り裂かれた傷の他に火傷のような傷もある。後は失血による疲労か。それらを補うイメージと魔力がめぐるイメージをして治癒魔法を使う。僕はガザシ父さんの胸の辺りに手をかざした。
魔言が一筆書のように伸び円を描き六芒星を描く。魔法陣が一重から二重に増えてガザシ父さんの全身を挟むように上下に展開する。くるくると回り、カッと一瞬光を強めると収縮するようにして父さんの体を覆う。光が吸い込まれるように消えて、手を下ろしもう一度見れば傷は治っていた。呼吸も普通に出来ている。良かった。過不足無く治せている。
「…っ」
目蓋を開けたガザシ父さんに僕は全身の力が抜けるほどほっとした。
それにしてもどうして北の辺境にガザシ父さんがいるんだろう、しかもこんなにぼろぼろに傷ついてるなんて。考えながら着替えを亜空間収納から取り出しガザシ父さんにマントをかける。着替えさせてどうにか王都まで。
「…どうやって運ぼう?」
首を捻ったところでブレーメンの音楽隊みたいに黒馬の頭頂部に座っていたレグちゃんがガザシ父さんの頭上に降り立ち、額を嘴でつついた。
「コケッコ、コケ」
「ちょ、レグちゃん!?」
「起こして自分でさせればいいのよ!と言ってるである」
「シェイドさん、でもガザシ父さんまだ病み上がりで」
「コケ、コケ」
「あああ治したばっかりなのに額に傷が!」
「大丈夫なのー」
「ノームさんまでっ!?」
目を離した隙にノームさんまでぺちぺちと額を叩いている。慌てて止めようとしたら鞄を伝いヤモリさんがガザシ父さんの上に落っこちる。
「…ゴッ」
顔まで這い上がったヤモリさんは小さな火炎放射器になった。チャッカマンくらいの火がガザシ父さんの顔をなめる。
「ぎゃああ!」
「ヤモリさんが一番ひどい!?」
結局強制的に目覚めさせられたガザシ父さんが自分で着替えることになり、僕はもう一度軽い治癒魔法を使おうとしたけどあまり頼りすぎはよくないからとそれは止められた。今は薬草を調合した物を貼りつけるように布を巻いて処置している。その間に話を聞いたのだけど、事態はかなり悪いようだった。デリカ先生が水の精霊さんを使役し力を使い続ければ王都は壊滅、水の精霊さんも消滅しかねない。それに、使役者のデリカ先生だって…。
「急がなきゃ」
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