第172話 カインと理由。
無表情で口だけを歪めガザシを殺した、と宣うデリカネーヤ。まるで自分をも消してしまったような。
「何故…っ」
「また何故、ですか」
二度目の何故に呆れたようなため息をつかれる。剣を扱いながら器用なものだ。カインもまた剣で攻撃をいなしながら手も口も止めない。
「貴方はそんなことを平気でできる様な人じゃない」
「………今更、ですよ。ガザシュットヴァルドが私のものにならないなら世界などなんの意味もない」
無表情に微苦笑が一瞬だけでる。
「ッ、その為に…?」
悪夢のような純粋すぎる想い。のし掛かる意思と剣圧に歯をくいしばる。
「ええ。それに、私が今まで義父上の為にしてきたこととさして変わり無いでしょう」
「まさか、あの妨害」
「ふふ…」
貴族派の悪行、その調査への妨害行為。大公の為というが後ろ楯に対する義理?対価だと言うのか。目眩がしそうだ。
「そして今最後の詰めです、よ!」
「くっ!」
鍔迫り合いから弾かれて跳躍し距離をとる。デリカネーヤから目を離さず油断無く構えるが、カインを一瞥して後ろへ反転した。
「なにっ」
「ぐはっ…な、何故…デ、リカネー…ヤ?」
高みの見物と洒落込んでいた大公の肩を袈裟懸けに斬ってデリカネーヤは暗い嗤いを浮かべる。目を見開くカインは剣を構えながら咄嗟に動けずデリカネーヤの動向を見ていただけだ。
「義父上も何故ですか。ふふふ、もうね、どうでもいいのです。何もかも思うようにいかなくて…あの人が、消えてしまえば、世界など…増して
薄暗い笑みを消して抑揚も無く言い放つ。
「要らない」
「や、やめぇっ!かは」
肩を押さえていた手を斬り飛ばし斬撃で大公の体が吹っ飛び、壁にぶつかる。辛うじて生きているが肺から詰まった息と血を吐く大公にカインはやっと動く。
「デリカネーヤ!止めろ!」
振り返るデリカネーヤは再び暗い笑みを浮かべていた。
「止めません。やりきらねば結局私は何も出来ずに終わる」
「何を言ってる。そんなことをしても」
「わかっています、意味などないと。私の存在に意味がないように…ならばいっそ」
「デリカネーヤ!」
王族派陣営だけでなく貴族派も制止しようとするが剣を放り杖を両手で掲げたデリカネーヤから溢れ出した魔力の恐ろしい圧に皆が動けなくなる。
「…ッ、くそ…!」
魔力の圧でへし折れるようにカインの体は地に這いつくばるが、剣を手離さないよう力を込めて柄を握る。ぎりぎり噛み締めた口から血が垂れた。止められずここで死ぬしかないのか。諦めたくはないが今のままでは和解も打破も出来ずに呻くだけだ。
あるとすればひとつだけ。出来れば使いたくなかったがそんな余裕何処にもない。アレしか…!
幸いなのは彼が今ここにいないことか。皮肉なものだ。見られて怖がられることが、嫌われることが…怖い。だが死んで二度と彼に会えないことの方がもっとも恐ろしい。生まれたことを悔やんだことさえあったのに…今は生きていることが喜ばしい。彼がいるから。彼に会えたから。気付けたのだ。だからこの力を解放する。
「…ここではまだ死ねない。彼にもう一度会うまで。封印、解除…!」
目を閉じ自らの奥深くに封じた力を解き放つ。熱い波動が腹の底から沸き上がる。じわじわと全身に広がり満ちて行く。
「ッ、カイン王子…!」
名を呼んだのは誰か。それより力の波動を制御するのに忙しい。靄がかかりどこかへ漂いそうになる意識を引き留め集中していくとやがて頭上、腰に高まり弾けた波動がきらめき収束して揺れる。五感が極まっているのを感じる。目を開ければどこまでも見通せるように頭がすっきりとしている。
「止めて見せる。デリカネーヤも、水の精霊も!」
「!?」
精霊について知っているカインに瞠目したデリカネーヤを見てようやく一矢報いたと思うカインだった。
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