第166話 カインと変革。

 ざわつく胸を抑え、前に出る。集まったのは影。だが忠誠を誓う騎士である。カインは彼らの前で一瞬胸に手を添える。触れる固い感触は服の下に忍ばせたペンダント。継承権放棄したけれど王族としての矜持は捨てていないし、守るべき国民のためもあるが彼を悲しませたくない。すべての者に持つべき未来という可能性を無くさないために選択を。

「……さあ、行こう。愛すべき民の平和のために。形骸化しノブレスオブリージュを忘れた貴族文化を根本から変えるために」

「「「おおーーー!!」」」

 秘すべき影から光当たる表へ、調べあげた証拠と貴族の義務と誇りで以て変革をもたらさん!



 会合は城の演舞場で行われる。常の夜会などの折りには着飾った舞楽団を呼ぶものだが今日の舞台には何者も無い。がらんどうの舞台には椅子が並べられているだけで、下のダンスホールには人がつまっていた。夜会であればざわめきつつ個々人の集まりで移動していたりするが今は二つの塊に分かれて留まっていた。貴族派と王族派である。


「王太子殿下、このように人を集めて如何なさるおつもりか?」

 杖をつく大公の隣に立つ男が口を開く。彼は農業の不作で飢饉が起こり苦境にあえいでいる領地の領主なのにきらびやかな仕立ての服を着てでっぷりと肥えている。

「いや、近頃不審なことが多くてね。僕が王位に着く機会に一度膿を出しきろうかと」

 第一王子が答えると鼻で嗤い嫌味に返す。

「膿とは、面白いことを仰る。…それはそちらのことでは?」

 だが第一王子はやんわりと微笑みながら嫌みの返礼をする。

「ふふふ、君こそ可笑しなことを言うね。そちらこそようく解っているだろうに」

「………」

「君たちの領地で不正に取り立てられた税収、よくこれだけ溜め込んだものだ」

 第一王子が目線で指示し従僕が集まった者たちにも見えるよう掲げたのを見て男は目を剥きあえぐように声を絞り出す。

「な、何故それを」

 どこにでもあるような木の箱、だがそれを開いて出てきたのは金銀財宝だった。


「結構大変だったよ。隠し方が巧妙で。だけど知ってるだろう?我が部下はとても優秀で頼りになる」

「…くっ」

「このように物的証拠があるわけだ」

「そ、それくらい誰でも非常用にとっておくだろう!備蓄だ!」

「備蓄ねぇ」

 再び目線で示された侍従が書類の束を差し出してくる。一枚を手に取り王太子がさらりと読むと貴族たちを見渡し知らしめるように告げる。

「去年一昨年、ああその前にもだが君は領内で水害が起こったとして災害補助金を請求してるけれど…使われた記録がどこにもないよ?」

「………そ、それこそその備蓄で」

「の、割には備蓄は減ってないよね?それどころか年々増えている」

「うっ」

 王太子は次々に反王族派貴族の不正を暴く。あるものは金を蓄えあるものは婦女子を手込めにしあるものは食料を平民から奪い取る。貴族の誇りは地に落ちていた。


「ふ、ふふふ、よくぞここまで…」

 発言したのは大公、先代の王。

「しかしその証拠も消えてしまえば意味はない。この国ごと、更地として作り直すも一興よ」

 大公が杖を掲げると追従する貴族たちがざっと一歩踏み出す。手には魔杖や剣を持っていた。彼らは踏み越えてはいけない一線を越えてしまったのだ。話し合いは決裂した。

 号令と共に彼らが進もうとした時、どこからともなく人影が現れる。複数の佩刀した人物たち、それは王家の影を司る近衛の裏部隊。そして……………、



「カイン=ナフィヨル第三王子殿下」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る