第165話 ガザシと行方。

「……うぅ、っぐ、ここ、は…?」

 ガザシは鈍痛を訴える頭を押さえてゆっくり起き上がる。どうしてか岩場に体を横たえていたらしい。体の節々が痛むのは固い地面で寝たせいだろうか。周りを見渡すが場所がわかる目印になるものなどはなくただ見える範囲は岩と赤土が目立つ荒れた土地だった。とりあえず魔物も人もいなさそうなので大きく息を吐く。気を落ち着けるように目を閉じ深呼吸を繰り返して記憶を掘り起こすことにした。


 デリカネーヤの手紙を受けて一刻程で準備をし、王都へ出立した。馬など移動手段になりうる生き物はは魔物にやられていなくなった街から徒歩での旅路だった。急ぎゆえ走ったり歩いたりを繰り返し休むことは極力少なくしていた。食事も移動しながら片手で摂れるものにし、いくつか町村を通り後ひとつ町を過ぎれば王都というところでやっと一度足を止めた。寝不足でじんじんする目元を押さえた瞬間に衝撃を受け。

「……やられた、か」


 どうやら頭を殴られ昏倒したのをここまで運ばれたらしい。ガザシは一瞬で後悔と反省を済ませる。悔やみ続けても解決はしないのだ。いつまで考えても尽きない後悔もあるけれど、今は前に進むことの方が重要だと思えた。思えるようになったのはのお陰であると考えて少しばかりホッコリとする。その彼らのためにもどうにか進まなければ。

「まず現在位置を把握しねぇと………」

 ようやくスッキリしてきた頭をひとふりして慎重に立ち上がるとすぐそこに落ちていた枯枝を支えに歩き出す。少しの時間だろうが強制的に寝たお陰でここまで蓄積された疲労はいくらか解消していたが…背後に迫った敵に殴られるまで気づかないとは全盛期より弱っているように感じる。ため息をつきたくなるがそれこそ後悔しても仕方ない。帰ったらあいつらと一緒に鍛練だな。


 数分か十分も歩いた頃薄暗いと思っていたのは日が沈んだのでなくここが洞窟だからだと気づいた。

「こりゃあ目も弱っちまってるか?」

 年を感じてしまうガザシだったがひとつには殴られた衝撃が魔力攻撃であった故であると言っておこう。とにかくここが洞窟の中だとわかったところで赤土と岩の特徴から王都の北である可能性が高いと推測する。地質から場所はわかった。誰に襲われたかは特定せずとも構わない。何にしろ味方でないことは明白だからである。たとえ手紙が誘き出すための罠であっても、彼らのもとへ駆けつけるのは父たるガザシの信条に基づく行動なのだから、進むことに迷いはなかった。


「…引き留めても、待ってはくれないのでしょう?」

 背後に現れた気配に今度は気づいた。だが慣れた気配だからこそ警戒しても敵対すると想像はできていなかったのかもしれない、と今度はもっと深く反省する。

「……そうさな、理由あっての行為でも納得できなきゃ意味はねぇわな」

「それが私のお願いでも」

「友と息子を比べる気はねぇが、緊急性がちと高いからな。どっちが大事とかじゃないな」

 そして、今度こそ向き合おうと腹を決める。

「………そう、ですか。ですが、私も諦められません」

「…なら、仕方ねぇな」


 後ろ向きのまま会話を終了し、枯れ枝を鋭く投げる。危なげなく切り払われるのを追うように軌道をなぞって蹴りを放つが杖で流され、それを弾いて離れる。距離をとって向き合うと、やはり相手はデリカネーヤだ。昔から難儀な家族関係とは知っていたが、取り込まれてしまったのか。

「ふふ、貴方は未だに人が好い…」

「あん?」

 中距離の魔法を避けながら首を捻るとまるでじゃれあいのような無邪気さで笑うデリカネーヤが呟く。

「私は貴族に肩入れしている訳じゃありませんよ」

「は…?」

「貴方を手に入れられないなら世界に意味など無いから」

「………ッ!」


 友と友の死闘が始まった。

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