第151話 風の精霊…と空の警告。

 露天温泉のど真ん中に据えられた岩が、精霊の封印石だった。

 うっすら緑がかって苔むしたような岩の天辺が六角形に出っ張っている。ここに風の精霊さんが封印されているんだろう。

 僕は亜空間収納を喚び寄せて道中作りためていた魔石を取り出した。また先生…いや、デリカネーヤさんに飛ばされた時のように緊急事態が起こってもなんとかできるように、鞄やポケットを入り口にしないで使うやり方も作ったのだ。

「風の精霊さん、いきますよ…!」

 六角形の封印石に魔石を当てるとぶわっとつむじ風が飛び出して、それに乗って魔言はひゅんひゅん回る。魔石の魔力がすべて吸い込まれてパンと砕けた。

「…っ!」

 破片を避けて少し下がると岩についてた苔が風に飛ばされていく。岩の中からまた小さな竜巻みたいなつむじ風が出てきた。

「出るである!」

「ん!」

 三対の目が見守る中、風の中心からシュバッとそれは現れた。

「ココココ」

「…え」

「コケッコー!」

「えええ、えー!?」

 風の精霊さんは鶏…、白色レグホンでした。


 幽体離脱時に人影みたいな形してたからすっかり風の精霊さんも人型してるんだと思い込んでた。だけど聞いてみると本来の精霊力であれば羽を持つ人型らしい。今は弱っているため鶏姿こちらの方が楽なのだそうな。因みにシェイドさんとノームさんも別の姿に変身することはできるんだって。

「えっと、風の精霊さん…」

「コココケ」

「はい?」

「我が名は」

「コケコッコ」

「レグホヌである」

「…」

「コココッコ」

「特別にレグちゃんと呼ぶがよい、と言ってるである」

「…はい」

 レグちゃんはシェイドさんに引っ付きつつ僕を見上げてのたまった。どうやらめs、女の子なようですね。廊下であったときの歓喜はどこへやら、上から目線だが寂しかったのは確かなようで通訳もしてくれるシェイドさんから離れたがらない。

「ココ…コッケココ」

「事情はわかった、協力してやるわ」

「…ありがとうございます!」


 鶏姿の精霊さんに頼んでよいものかと思ったけれど快く協力を申し出てもらえてホッとした。

 これでまた先へ進める、と見上げた空には二つの月が輝いていた。見覚えのある黄色の月と、この世界で初めて見た紫の…。

「あれ?月って二つ、だっけ…?」

 確かここに来てから見た月は四つだった。青、黄、赤、紫…なのに今は青と赤が見えない。雲に隠れているのかと見回したけど、見渡す限り二つの黄と紫の月しかない。

「コ…コココ」

「むぅ…まずいである」

「…ん、まずいの…」

 月を見上げて考えていたら精霊さんたちも僕の肩くらいの高さに浮遊して月を見て唸った。シェイドさんとノームさんはともかくレグちゃんも飛べたんだ。羽をせわしなく動かしてるわりに音がしないのでうるさくはないけども。

「まずいって、どういう事ですか?」

「あの月は世界の属性バランスを表しているである」

「属性バランスって、じゃあ…」

「ん。あとふたつ、かけたら…」

「コッコケーッ」


「世界が崩壊する、である」

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