第150話 さみしがり屋の幽霊さん。

 温泉から上がって部屋に戻る途中で、遭遇しました。

 思い切り悲鳴をあげそうになって思わず自分の手で口を塞ぐ。話に聞いた通り、うっすら白い人の形に見える影が廊下をゆらゆら漂っている。こっちにはまだ気づいてなさそうだ。はじめはわからなかったんだけど落ち着こうとゆっくり深呼吸して気配を探ってみると知っている感じ、そう、精霊さんの気配だとわかった。

 今まで二人の精霊さんは封印石に入ってたけど、この風の精霊さんは違うのだろうか?でも薄い見た目からして実体ではなさそうだ。そう思ってシェイドさんとノームさんを見ると、隣に居た筈なのにいつの間にか白い影の前に移動してた。

「ちょ…っ」

「風の、であるか」

「ん、風~?」

「…!」

 二人に声をかけられた推定風の精霊さんは大きくのけぞって驚いたようだ。姿は白いもやっとした影なので目鼻口は無いんだけれど。

 その後、声にならない声をあげて飛びかかってきた。言葉になってない声はきいきいと甲高い喚き声に聞こえないこともない。ぎょっとして二人を抱き上げようと手を伸ばしたんだけど、影はそのまま僕までもすり抜けてしまった。やっぱり実体じゃないんだ。


 僕らの背後で立ち止まった風の精霊さんはわなわなと震え、何度も触れようと走り寄ってくる。その度に勢い余ったように通り抜け、最後には呆然と立ち尽くしてしまった。

 すり抜ける度に生ぬるい風に撫でられたような感触に身震いしたけど…うちひしがれたように立ち尽くして途方にくれた様子は憐れだ。多分だけど、再会を歓びハグがしたかったんだと思う。でも、なぜか今は実体ではないから。

「えっと、風の精霊さんですよね?」

 そっと問いかけるとこくこくと頷いた。

「あなたは本体ではないんでしょう。封印石がどこにあるか、わかりますか?」

「…?……、……!」

 本体から離れて活動しすぎた影響か最初は首をかしげて腕を組み考える様子を見せたものの、やがてはっとしたように顔をあげて何度もうなずいて見せた。


「それにしてもなんでこんな形で外をさまよっていたんだろう?」

 風の精霊さんの先導について歩きながらふと呟くとシェイドさんが答えてくれる。

「性分であるな…風のの性質と性格が要因となって幽霊騒ぎになったと見て間違いないだろう、である」

「性質と性格。性分ってことですか…?」

「風のはさみしがりの癖に自由を愛する精霊なのである」

 シェイドさんの解説を聞いて風の精霊さんを見るとぷるぷる震えていた。これは、羞恥か怒りか。この時ばかりは顔が見えなくて良かったかもしれない。


 歩き続けて幾ばくか、宿の中をぐるっと回って露天温泉へ出ていた。

「え?ここって」

「ん、さっき居たの」

「気配を感じなかったである…」

 気配の元である中身だけが外を彷徨いていたために気配を感知できなかったみたい。

 風の精霊さんはお湯の上をするすると移動して大きな岩の上に立った、いや浮いた。そのまま見ているとしゅわしゅわと湯気のように消えてしまう。

「え、ええ!?」

「む、気配がするである」

「封印石にも、戻った、の?」

「うむ、であるな」

 外に出てる状態で解放するとどうなるかわからないので一体に戻ったところでやる方がいい、筈。

「じゃあ、やりますか」

 僕は裾を捲ってざぶざぶ温泉の中へと進んだ。

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