第149話 幽霊。
優秀な黒馬のお陰であっという間に草原のレイクタウンに着いていた。
そこは以前と違い人影はなく寂れた印象である。どんよりと風は生ぬるくやや湿っている。そりゃ温泉もあるから湿気はあったけど前に来たときはもっと爽やかな感じだったのに。
僕は馬を降りキョロキョロと見回して前泊まった同じ旅館を見つけた。
「こんにちはー…どなたかいらっしゃいませんかー?」
「…いらっしゃい」
「女将さん!今日はお休み、ですか?」
「…いんや、営業中なんだけどねえ…」
精霊さんたちは女将さんには見えていないらしく僕に向かって取り合えず入ってと促される。シェイドさんとノームさんは手を繋いで後ろをぽくぽく歩いてついてくる。黒馬は霧のように散って消えていた。
宿の中に入ると以前と変わらぬ清潔な様子なんだけど、やはり人がいない。どうしたんだろう。前は落ち着いた雰囲気だったけれどお客さんは来て繁盛している様子が見えたのに。
「坊っちゃん方が出立したあとしばらくして風がこう、生ぬるい気持ちの悪い感じになってね。それからなんだよ、不気味だって人気がなくなっちゃってねえ…」
今回は泊まるつもりではなかったのだけど異常事態に心配になりとにかく受け付け前のソファに座って話を聞いたんだけど、想像もしなかった事に絶句してしまう。
「それは…」
雰囲気って案外重要なんだ。それだけでこんなに人が来なくなっちゃうなんて風評被害って怖いな。しかも、風が、って…。
僕はそっと隣で聞いていたシェイドさんと目を合わせると頷く。ノームさんは…また寝ていた。こっくりこっくり船をこいでる。まだ回復し足りないのかな。
「他に変わったこととかありますか?」
「変わったこと…う~ん、そうそう。私は見てないんだけどね、幽霊を見たって言う人がいるんだよ」
お客さんだけでなく勤めていた従業員さんも見たらしく怖がってどんどん辞めていってしまったと言う。
「ゆ、幽霊!?」
幽霊ってあのひゅ~どろどろどろって出てくる足のない白装束のあれ!?異世界にも幽霊って出るんですかぃ!?あ、アンデッドとかのモンスターか!(混乱中)
「見たって言ってもぼんやり白っぽい人影みたいなもんだったらしいんだけど、何かきいきい喚いて追いかけてきて怖かったって言ってたよ」
「お、追いかけてきたんですか!?」
「多分風のであるな…うるさいやつなのである。ここに泊まって探そうである」
シェイドさんが耳元で女将さんに聞こえないようにこっそり囁くもんだからひぃいって言っちゃったよ!僕の悲鳴に女将さんが驚いてたよ…。(恥)
ちょっと怖いけど精霊さんを成仏させなくちゃ、かわいそうだもんね!(錯乱中)
久しぶりの宿泊客に喜んだ女将さんとたった一人残った従業員さんによる心尽くしの夕飯をいただくと、シェイドさんとノームさんと一緒に温泉に入った。
肩までお湯に沈んでほうっと息をつく。やっぱり温泉はリラックスできるなー。
「あの従業員さんも見たのに残ってるのすごいなぁ。いや、お仕事なんだけど…怖くないのかな?」
僕は精霊さんってわかってるからいいけど。(シェイドさんに宥められて落ち着きました)
「ふむ、確かに不可思議である。もしやあやつも…であるか?」
「…はい?」
「従業員こそが幽」
「ぎゃああやめてやめて!いやあああ!」
「…うるさいの~!」
「スイマセン」
静かに浮かんで温泉を堪能していたノームさんに叱られて反省しました、ハイ。温泉はマナーを守って楽しみましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます